第6話 強い火種
これまでとは、また違う新しい光景、
経験した事のない朝を迎え
口に出す言葉は迷子になっている。
エルゼ「え…、あ………」
イロナ「おはようエルゼ♪昨夜はぐっすりだったね♪」
エルゼ「お…おはよう、イロナはシイナと何をしているの?」
イロナ「?なにをしているんだろうね?
楽しいことねきっと。」
それはまるで意味も知らずに
言葉を使っていた自分と同じような……
そんな事を思うエルゼ。
エルゼ「よく分からないけど…、シイナは
大丈夫なの?」
自分と話すイロナ、その下にいる
シイナを見る。
イロナ「さっきから何も言わないというか
なんというか……、怠いの一点張りで」
気だるげな溜め息をこぼす
またなの?と口にこぼし
驚きと焦りを見せるエルゼ。
エルゼ「えーー!せっかく元に戻ったのに
どうしよう!?」
イロナ「もう元には戻らないの?
私と会ったあの時は元に戻ったって」
エルゼ「う〜ーん良く分からないんだけど
イロナを見てすぐ元気になった気がするんだけど…どうなんだろう?」
イロナ「シイナー?私を見てくれるー、」
首を動かしイロナを見るシイナ、
しかし変化はなく
完全に全身の力が抜けた状態だ。
エルゼ「う〜ーん新しい物を見たら
元気になるのかな?」
イロナ「さぁ…困ったねー、シイナー起きてーそろそろ出かけようよー。」
エルゼ「仕方ない…私がシイナを担ぐから
このまま出発しようか。」
「とりあえず二人とも服着よう?」
身支度を整えエルゼがシイナを背負おうと
すると、
シイナ「エルゼ、大丈夫。」
気がつけば元気になっている
シイナの姿がそこにあった。
エルゼ「シイナ!?本当に大丈夫なの?」
シイナ「大丈夫。」
エルゼ「そう?何かあったら無理せず言ってね?」
シイナ「うん。」
イロナ「シイナも元気になったし
そろそろ行こうか?」
騒がしい朝が過ぎ旅を再開する三人、
それから変わらない景色を
進み続け、途中小さな湖を見つけ
水浴びをすることもあった。
それも数日、また数日と時間は経過し、
歩みを重ねていく。
シイナ「つ、疲れた」
エルゼ「シイナは最近、疲れたとか怠いとか言うの増えた気がするね?」
シイナ「歩けない……」
足取りの重くなるシイナを
振り返り心配するエルゼとイロナ、
エルゼ「シイナーこの砂山を登り終わったら
休憩にしようー。」
シイナが来るのを待つエルゼ、
少し前の方で先に砂の上に着いたイロナが
何やら騒いでいた。
イロナ「エルゼー、シイナー凄いよー
砂漠と同じくらい広ーい!」
エルゼ「何がー?」
イロナ「分かんなーい早くおいでー!」
エルゼ「だってさ、シイナ後ちょっとがんばろ、」
ようやく辿り着いたシイナに
一声かける。
エルゼはシイナの背中を途中まで
押し 支えた後、いつものように
手を取ってイロナに追いつく。
二人「「うわぁーー〜〜〜ー、」」
三人が目にした先には
砂漠のように広く静かで、
変わり映えしない景色がいつまでも
続きそうな 波の立たない
音の小さな青き海。
砂漠の山を降りた後
波打ち際に着いた三人は初めて見る
海に歓喜し、浸かった足でぱちゃぱちゃと
跳ねて遊んでいる。
湖の時のように手の平に水をすくい
ひと口飲むエルゼ、
エルゼ「、 !!?。!。ぺっ!!
しょっぱーーい!!」
涙目になるエルゼを見て
心配する気持ちと好奇心から
興味をそそられる二人。
シイナとイロナも手の平に水をすくうと
ひと口
「「〜〜!!、?、!」」
同じように涙目になりながら
口に含んだ物を吐き出し
撃沈した。
エルゼ「何これ美味しくないよー、」
塩の味に落胆するエルゼに
海で水浴びするイロナ、
海の下にある砂を手に取って
口にしようとするシイナを
慌ててエルゼが止める。
そんな風に海を満喫した三人は
新たな旅の目的地を求める。
確認のため海の奥へと進もうと試みるも
イロナとシイナが危うく溺れかけたので
海を泳いで渡ることはせずに
別のルートを模索する。
エルゼ「流石にこの海を歩く事は出来ないし、泳いで行ってもシイナが途中疲れて
泳ぐの辞めちゃいそうだから………」
「海沿いを真っ直ぐ進もうかなー?」
イロナ「いいんじゃない?また砂漠の景色を見るのは飽き飽きしちゃうし、」
シイナ「賛成……、」
エルゼ「ならそうしようか、まぁここも
あんまり変わり映えしなそうだけど。」
潮風の音と共に海沿いを流れていく…
砂漠の旅は砂浜の旅へと少し色を変え
新たな出会いが気持ちを実らせる。
エルゼの言うように広大な海は砂漠と
同じように、新たな一面を中々明かしては
くれなかった。
長い間歩き、海を見歩くのに飽きると
広大な砂漠の広がる景色を見て
気分を入れ替える。
砂と水の二つの海に挟まれ
気を紛らわしながら進む三人は、
水浴びや休憩をしつつ
四日に渡って浜を進んだ。
潮の香りも鼻につく頃
左側に見える、砂漠の海に 波立つように
砂塵が舞う。
エルゼ「砂煙が近づいてる!?もしかして
クウレ!?」
砂煙は勢い良く移動しながら
浜辺へと進行し、
シイナ達の前に姿を現す。
三人には目もくれず砂喰らいのクウレは
砂を口にしながら海水に近づく。
がぶがぶと海水を口にする
クウレは一通り飲み終えた後、
三人が向かう先へと姿を消した。
シイナ「クウレ会えた。」
エルゼ「ね!また会えたね!」
イロナ「あれがクウレ…あの子も人間なの?」
エルゼ「違うんじゃないかな?シイナはあんなに美味しそうに砂を食べなかったし、」
「私達だって海水をあんなに飲めなかったでしょ?」
イロナ「見た目はすっごく似ていた気がするんだけどー?あの子の後を追うの?」
エルゼ「そうだね、他に行く道もないし
同じ行き先なら後を追ってもいいんじゃないかな?」
焦らずゆっくりと道なりに
進み後を追っていく三人。
クウレに遭遇し、
後を追ってから二十分ほどして、
再びクウレの姿をその目に
捉えると、そこには食べる手を止める
クウレと別の存在が浜辺の先にいた。
エルゼ「な…に、あれ……?!」
それは声に出すのもやっとなほど
全身を震え上がらせ、
クウレに感じた時以上の身の危険に
恐怖の感情を感じさせる。
クウレの前に立つその存在は、
全身に縦や横の線がいくつも入っていて
身体は赤く、赤く燃えるような色に、
溢れる唾液や、瞳から下に真っ直ぐとある線、
全身の線から垂れている物全てが赤く、
燃える火と命を連想させる。
流れる水は油のように火をつける。
火種は心、燃やすは己 突き動かすは
破滅への道。
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