第4話 ドロドロでダラダラ
数日降り続いた雨も止み
旅を再開する二人だったが、謎の物体を
口にして以来とても気だるげな様子のシイナ、
体を起こすようエルゼが促すも、
立ち上がることが出来ぬほどダラダラと
している。
仕方なくシイナを背中に担いで砂漠を歩く
エルゼ、時々漏れるシイナの声は怠い
とも聞こえるような低いうめき声だった。
エルゼ「シイナ〜大丈夫?休みたかったら
言ってねー。」
シイナを気にかけ、いつものように
話しかけることも独り言をひたすら言う
こともしないエルゼ、時々心配の声をかけては
長い沈黙が続く。
エルゼ「病気とかじゃないといいんだけど…
私達 病気になったりするのかな?」
その後 一時間ほど歩き、雨の
名残りのある場所へと着いた。
エルゼ「この辺りは水たまりが多いねー。」
「さすがにこの水は飲めないから我慢だね、
ごめんねシイナ、辛いでしょう?」
肩の上に乗せた腕はすり抜けるように
溶け落ちてしまいそうなほど
力なく、いよいよ言葉も出てこなくなって
きていた。
エルゼ「シイナが食べちゃったあれ、
なんだったんだろう?またあれを見つけて
シイナが食べちゃったら困るなー。」
「あれに近づいちゃダメって教えられる
ように名前考えよう。」
「えーっと、シイナが食べてから
すごく怠そうにしてるから……
怠い…るい…るいーぜ、うんルイーゼ!」
「良いシイナ?あの物体はルイーゼ、
もう絶対食べちゃだめだよ?」
釘を刺すように、けれど優しく
諭して注意を呼びかけるエルゼ。
エルゼ「これだけ水が残ってるなら、綺麗な
水もあっていいと思うんだけど〜。」
そう愚痴をこぼして歩き進んでいると、
エルゼ「もしかして本当に綺麗な水ー!?」
目線の先 一キロほど離れたところに、
遠くからでも確認できるほど青々とした
木がいくつか生えており、その木が囲んでいる
中心に大きな湖があった。
エルゼ「良かったー とりあえず一休み
できるけど、まだちょっと距離あるねー。」
よし と一言、気合いを入れ直し
決して落とさぬようシイナを抱える手に力を
込める。
エルゼ「ついたー!!!」
ふぅと一息、背中のシイナをそっと降ろす。
そして目の前の水をすくうとそれを口に運び、
問題がないか確かめる。
エルゼ「よし、大丈夫そう」
「ほらシイナ 綺麗な水だよ。」
すくった水を仰向けになるシイナの口に
持っていき飲ませる。
その後 、横になったままのシイナの様子を
見るも特に変わる様子もなく、
依然として気怠い声だけを上げていた。
エルゼ「水を飲めば治らなくても、
多少良くなると思ったんだけどなー……、
他に打つ手もないし……。」
お手上げ状態となったエルゼは、
虚ろう様に湖の先を見る。
エルゼ「?……あそこに誰かいる?」
ぼんやりと湖を眺めていると、自分達の
反対側、湖の先に誰かいるのが見えた。
少し距離が離れているためそこにいる誰かを
注視するエルゼ。
エルゼ「人 かなー?私達に似ている
ような…?気がする…。」
そこにいる人物は纏っていた薄い布の服を
肌蹴て、湖で水浴びをしている。
やがて体を洗い終わると、湖の中心に行き、
半身を浸かるようにして髪を丁寧に洗う。
エルゼ「き…綺麗な人…、」
その白く長い髪は、まだ日の明るいこの時間を
夜に変えてしまうような、
月下に静かに香る美しい花のようだった。
近くまできていた美しい人物と目が合う
エルゼ、美しいその人は一度向こう岸に服を
取りに行き、その身に纏うと
湖の周りを進みながら こちらへとやってくる。
エルゼ「え、えっと…あなたも同じ人なの?」
???「……、」
エルゼ「シイナみたいに言葉が分か
らない人?」
???「わ からない ひと ?」
柔らかな声と共に首を傾げてみせる人物。
エルゼ「分からなそうだけど、シイナより
喋れるのね!あなた!」
???「しゃべれる…?」
同じようにエルゼの言葉を繰り返すその人物は
不思議そうにしながらも、
警戒せず状況を楽しむように微笑む。
そしていつものようにエルゼの
名前決めが始まった。
エルゼ「あなたの名前は?」
???「な まえ…?」
エルゼ「そう、なら私が決めるね♪」
「えーっと、とても綺麗でーなんだか色っぽい…色……いろ、イロナなんてどう?」
「あなたの名前はイロナ!!」
イロナと名付けた少女にエルゼは
指を指す。
イロナ「イロナ?」
私?と言わんばかりに自分を指差し
名前を口にした後、その名前をとても気に入る
ように笑顔をこぼした。
イロナ「イロナ! イロナ!!」
エルゼ「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ!」
喜んでいたイロナはエルゼの後ろにいた
仰向けのシイナが目に入り、
気になって覗き込む。
エルゼ「ん?あぁこの子がシイナ。
いつもはこんなじゃ無いんだけど元気なくて」
イロナはシイナに近づき
顔を覗くようにかがむ。
お互いに目が合い、しばらく見つめ合う二人、
イロナの瞳はトロンと垂れていたシイナの瞳を
丸く輝かせ、魅入られる誘いをするように
視界を離せなくする。
イロナの瞳を見ていたシイナは、また
胸の奥が熱くなるのを感じ
その瞳の主に手を伸ばす。
イロナはそっと伸ばされた手を取りシイナは
起き上がった。
エルゼ「シイナーーー〜〜〜!!!!」
喜びの悲鳴を上げるエルゼ、
さっきのが嘘
のように平然な顔をしてエルゼをみる。
イロナもよく分からないが
エルゼの嬉しそうな表情と抱きつく二人の
姿に微笑んでいる。
その後三人は日が落ちて夜を迎えても
湖のそばで仲良く話しをしていた。
特にイロナはシイナよりも覚えが良く
エルゼの言葉をオウム返ししては、
笑う仕草を真似たりする。
エルゼ「イロナはどうしてこんなに言葉を話せるのかなー?これが個人差って言うやつ?」
イロナ「どうしてかな?」
エルゼ「しかもやり取り出来てる感じが
するし…、ねぇ?シイナ。」
シイナ「うん…」
エルゼ「シイナも今日で返事はできるように
なったもんね♪」
「あ!そうだ、私達 朝になったら此処を発つけどイロナも一緒に旅をしない?」
イロナ「旅?」
エルゼ「そう、旅!新しいものを見つけに行くの、三人で行ったらきっと楽しいよ!」
イロナ「旅…楽しい!楽しいの好き。」
エルゼ「やったーー!!なら明日から私達
三人の旅だね。」
咲いた花は二本 三本、綺麗に咲いて色づいていく、その色の花はやがて実る種を
望むように魅惑の香りを撒き散らしながら……
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