第2話 膨れぬ腹穴

朝を迎え、旅の出発してから数日が経っていた。


エルゼは口を閉じることなく

ひたすらシイナに話しかけては、静かになったかと思うと今度は

独り言をいいながら進み、

シイナは相変わらずエルゼの言葉を聞いては

困った顔をして戸惑っていた。


夜になるとエルゼが言葉を教え、

シイナは星空を眺めながら言葉を話せるよう

耳を傾けている。

そんな数日間が続き、今朝シイナが

エルゼの名前を口にするようになった。




「ふふぅ〜〜ん♪いぇいぇーい♪」



有頂天になっているエルゼは

シイナより少しだけ前に進んで、いつも以上に

元気を増して行進している。


エルゼ「自分の名前を言い続けて

良かったな〜。」


「いや〜〜、シイナが私の名前を呼んでくれるなんて〜♪」


すごく嬉しい そう言うとエルゼは、

また新たに知ることができた喜びと、

この気持ちを大事にしようと

胸に抱く自分の感情に、笑ったり驚いたりと

忙しなく表情を変えている。



エルゼ「それにしてもどうして急に

なまえ言えるようになったんだろう?」


「やっぱり耳元でずっと囁いてたのが

良かったのかなー?」






昨夜、


エルゼ「ねぇシイナ、今日も なまえ 囁いて

もいい?こうしたら覚えてくれる気がするんだー、はやくシイナとお話しできるようになりたくてさー。」



横になる二人、まるで親が子の子守り

をするように、

寄り添いシイナの耳に向けて声を出そうとする。


「それじゃあ始めるねー、後でシイナの名前も

呼んであげる♪」



「エルゼ、 エルゼ、 エルゼ エルゼ

エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼ、エルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼエルゼ、」



二人でお話ししたいという純粋な願いが

逸る気持ちとなって呪詛を唱えるように

なまえを口にしている。



「どうどう?覚えた?もう言える?」


「…………、」

怯えた顔にも見えるシイナの困り顔、



「そっかーダメかーー、」

「きっとまだ言い足りないんだね、よぉ〜し」



「エルゼ、エルゼ エルゼ、エルゼ、エルゼ、

エルゼ、エルゼ…………………………

…………………………………………………」


エルゼはお構い無しに名前を連呼し、

それは朝まで続いた。

朝になりエルゼが旅の出発をしようかと

口にしようとした時、


シイナ「エルゼ……、」


とても細く砂のように乾いた声で

初めて自分の口から音を出した。


エルゼ「え!?嘘!? 今シイナ……私の名前!?」



驚いて固まっていたエルゼだったが

すぐに踊りはしゃぎ回って喜びをあげていた。

それから今に至るまでずっと上機嫌な

様子で足を進めている。



エルゼ「大丈夫?喉渇いてない?」



さきほどの声を聞いて心配しているのか、

エルゼがそんなことを口にする。


エルゼの提案で二人は夜になると、

砂漠の上を横になるのだが、

シイナにはその意味は分からず、

エルゼもまたどうして横になっているのか

理解できていなかった。

二人は一度も目を閉じることなく、

朝が来るのを待つ。


同じように、旅を始めてから今まで

シイナは水という物を口にしておらず、

エルゼもシイナと出会う前は

砂漠と空 以外のものを目にしたことは

無かった。



エルゼ「みず〜〜どこにもなーい。」

「景色もずっと変わらないなー、

昨日は天気も良くて砂も温かいって

話してたけど、今日も天気が良くて砂が

温かいって話しかしてないよー。」



さっきまで上機嫌だったエルゼも、

変わり映えしない景色に飽き飽きしていた。



エルゼ「ねぇシイナーわたっ……

…… っぅうわわあ!!」


こちらを振り向きながら歩いていたエルゼが

下にあった小さな穴にはまった。



エルゼ「びっくりしたー!なんでこんなとこに穴なんか開いてるんだろう、

シイナ〜腕引っ張ってくれない?」


「………、」


エルゼの伸ばした手をシイナは握り返して

そのままつっ立ってる。



エルゼ「え?まって シイナ私を引っ張って〜〜〜!!私の気持ち伝わって〜〜〜!!!!!!!!!!」





何とかして穴から出ることができたエルゼ。


「あ〜〜良かったー、もう出れないかと

思ったよー、これは一刻も早く言葉を話せるようにならなきゃね…って何見てるの?」


シイナが向いている先をエルゼが見つめる、


エルゼ「うわぁー、穴がたくさん!」



二人が見ている先には大小さまざまな

穴が辺り一体に広がっている。



エルゼ「凄いねー!シイナー!」

「ここの砂漠は、私達が歩いてきた砂漠とは違うのかなー?」


シイナ「エルゼ、……………!、!。……!!」


エルゼ「うん?どうしたのシイナ?」


握っている手であっちに何かある

と伝えようとするシイナ。



目の前にある場所以外にも穴砂漠は広がって

おり、目線の遠くに砂煙が上がっているのが

見えた。



エルゼ「よしシイナ、あそこに行って

みよう!」


シイナの手を引いて駆け足で砂煙のある

場所へと向かう。

近づくほど穴はたくさんあり、

中々進まず苦戦しながらも目的の場所に

辿り着く。



ジャリジャリジャリ……、


そこには手に取った砂を口いっぱいに

放り込んでいる生物???

食事をしている最中だった。



エルゼ「何あれ! もしかして あれも人なの

かな?砂たべてるよ!シイナ!!」


真新しいものに興奮してはしゃいでるエルゼ、

喜びを共有しようとシイナに話しかけようと

するとシイナがしゃがみこみ、


ジャリ……、



エルゼ「砂食べてるよ!?シイナ!!」

「ペッ!して、ペッ!!」


口に入れた砂を吐き出すのを手伝い

シイナが砂を戻したのに

安堵して、再び謎の生物を見る。



生き物はエルゼやシイナよりも大きく、

二メートルほどあるからだに肌色の皮膚、

紫の髪と紫の瞳をしていて、

瞳はギラギラと獲物を欲っする目を

している。



エルゼ「ああいうの化け物って言うのかな?」



新しく見るものに気持ちが昂る

一方で、緊張が肌を駆け巡り

を感じ始めている。



砂煙る穴の砂漠の中心に

膨れぬ穴の化け物と二人の旅人が

対峙する。


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