第8話 2人が結婚するまで6
「ごちそうさまでした! とても美味しかったです!」
「それは良かった! また来てくれよ」
「それじゃ、渚ちゃんもまたね!」
「は、はい……。また来ます」
男性陣は新たな友情が、そして女性陣は雅子はほっこり、渚は顔が熱くなったまま心臓が飛び出そうになるほどドキドキしていた。
颯太と渚は頭を下げると、2人はレストランを出た。
「――――渚さん」
「――――!? な、なに……?」
颯太は和夫に言われた通り、渚を守らなければならない使命を伝えようと彼女の名前を呼んだ。
渚は颯太に呼ばれ、さらに心臓の鼓動が早くなり、思わず体が跳ね上がってしまった。
あら、あららら……。
2人がそれぞれ考えていることが全く噛み合っていない様子です。
本当に、本当にこの2人は結婚するの? ってお思いでしょうが、この2人は近々結婚します。
とっても仲が良くて、甘々な雰囲気を出してばっかりの夫婦になります。
あれ?
これ前にも言った気がするけど……まあ、これは重要なので2回言っても大丈夫です。
「もし渚さんが困っていたりしたら、遠慮なく僕に言って欲しい。微力にしかならないかもしれないけど……頑張って渚さんのこと助けるから!」
「そ、颯太くん……」
もう、颯太に対する好き好き度のメーターはマックスに達しようとしていた。
渚は顔から煙を出し、今にも倒れそうだった。
しかもよく見たら眼の瞳孔がハート型になってますね!
完全に恋する乙女な状態です。
しかし、その気持ちも束の間、頭の片隅によぎってきたのは自分の闇の事情だった。
(もし、わたしのせいで颯太くんが大変な目に合わせちゃったら……。だめ、やっぱり颯太くんにきちんと気持ちを伝えられない!)
赤く火照っていた顔はあっという間に元に戻り、逆に青ざめ始めていた。
それは、頭を抱えてしゃがみ込みたくなるほどだった。
「な、渚ちゃん……? 急に顔色が悪くなってるけど……大丈夫? 具合が悪いの?」
「えっ、あっ……ううん! 何もないから気にしないで!」
「そう……なんだ」
挙動不審の渚を心配していた颯太だが、渚は何とか誤魔化そうと首を振ってぎこちない笑顔を見せた。
この後もしばらく2人で街中を歩いていたものの、なかなか会話が成立せず、ぎこちない空気が2人を襲った。
すると、渚のスマホから、電話の着信音が鳴った。
「あっ、ごめんね……」
渚はスマホを取り出し、着信元のメッセージを見た瞬間、彼女の表情が曇った。
メッセージに書かれていた名前は母親だった。
「もしもし……うん、分かった。今からすぐ戻るね」
短い電話を終えると、渚は電話を切った。
「颯太くんごめんね。急な用事が入って今から家まで戻らなくちゃいけなくなっちゃったの……」
「そうなんだ……。じゃあ、今日はこれで解散ってことにしよう」
「うん、本当にごめんね……」
「ううん、気にしないで」
「じゃあ、それじゃあまたね颯太くん」
「うん、またね……」
渚は小さく颯太に手を振ると、急いで駅へと走っていった。
颯太も控えめに手を振って渚を見送った。
(僕……何か気に触るようなことしちゃったのかな……?)
そんな疑問と後悔が彼の頭の中で何度も回っていた。
そして、颯太と渚はこのデート以降、学校で会うことがあったとしても話すことはなくなり、2年生の秋まで続いたのだった。
果たして、本当に2人は結婚するのか?
何度も言いますが……2人は結婚します。
◇◇◇
本当に2人は話すことはなく、気づけば2年生になっていた。
2年生は先輩が抜けたことによって、リーダー的な存在になる。
颯太はバスケットボール部のキャプテンとなり、チームを引っ張る役割になった。
練習は今まで通り変わらなかったが、体育館の入口には渚の姿はなかった。
(今日もいない……。最近どうしちゃったんだろう……?)
颯太にとって数少ない友達のため、渚をかなり心配していた。
毎日体育館の入口を見て渚がいるかどうか見ていたが、毎日そこを見てもいなかった。
心配が増幅していく中、それは徐々に部活動でも影響が……。
渚のことが心配で練習に集中できず、颯太が本来持つ力を全く発揮出来なかった。
(だめだ! 今は練習に集中しないと……!)
しかし、颯太はこのままブランク陥り、長いトンネルから出られなくなってしまった。
自分が満足するバスケットボールが出来ず、近くの公園にあるバスケットコートに訪れては狂ったように個人技を鍛えていた。
親はその姿を心配し、休んだらどうかと提案するも言うことを聞かず、ひたすらバスケットボールに打ち明けた。
「――――違う! もっと、もっと……!」
しかし、がむしゃらにやったって良くなることはない。
遂に颯太は燃え尽きてしまった。
バスケットボールが大嫌いになってしまい、颯太はキャプテンという役を投げ捨て、部活動をやめてしまった。
「颯太! 部活をやめたってどういうことよ! 説明しなさい!」
「――――もう、僕は何もしたくない。だからやめた」
颯太は親に一言だけ伝え、自分の部屋へ向かった。
颯太はバスケットボールから完全に離れてしまうのだった。
◇◇◇
颯太がバスケットボール部をやめてから5ヶ月後。
颯太は教室の黒板をぼーっと見ていると、ある言葉が彼の頭の中に浮かんだ。
(――――彼女が、欲しい)
そう、この作品で颯太の最初のセリフは、実はこの場面なんです。
かなり闇落ちした颯太が、頭の中で言った言葉という、冒頭で使うにはあまりにも重すぎるセリフを何故起用したのか?
作者曰く『だってこの場面しか颯太が彼女が欲しいって言わないから……まあ、しょうがないよね!』っと吹っ切れたそうです。
もっといい場面使えば良かったのに……。
颯太がふと思った『彼女が欲しい』という言葉。
しかし、彼は恋愛経験など一度もないし、そもそも女子とは疎遠気味。
彼女が出来るきっかけなんて全く無かった……わけではなかった。
「――――渚さん」
ふと、颯太は一人の少女の名前を呟いた。
それは、学校一の美少女と唄われている颯太と同学年、クラスメイトの三井 渚だった。
颯太がこの学校で唯一の友達であり、過去に一度だけ2人きりで遊びに行ったこともある。
(――――あれ? もしかして、あの時渚さんと2人きりで遊んだって言うことは……完全にデートというものでは?)
半年近く経って、やっと気づいた颯太。
やれやれ、本当に鈍感な男です……。
デートという恋人が使うような言葉が出てきた瞬間、颯太は一気に体が熱くなった。
(いやいや、もしかしたら、渚さんにとっては僕はただの友達かもしれないし……うん! 絶対にそう!)
いいから早く自覚しなさい!
もう颯太は渚のことが好きになっているんだから、もう認めちゃいなさい!
早くくっついて結婚しちゃいなさい!
って、皆さんはお思いですよね?
そんな皆さんの願いが、さらに叶っていきます。
颯太は頭を横に振って否定しようとしたが、レストランでの渚の顔が頭に浮かぶ。
颯太から視線を逸し、頬を真っ赤に染めてもじもじする渚の姿。
それを思い出した瞬間、颯太はまた顔を赤くした。
「あの仕草……もしかして、僕に好意を寄せていたって、こと……?」
はい、その通りでございます。
あの仕草は、大好きな颯太が正面にいることが恥ずかしすぎてそうなったのです。
全く……そういうところだけは敏感な男なんだから……。
颯太は天井を見つめたあと、ゆっくりと立ち上がった。
彼の目の色は変わり、何かを決心したのだった。
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