第7話 2人が結婚するまで5

 颯太のことが本気で好きになってしまった渚。

青春らしいなと感じながらほっこりとしている雅子は、顔を真っ赤にして恥ずかしがっている渚を見ながらニコニコと微笑んでいた。


「颯太くん、だったわよね。あの子はとっても良い子ね。行儀良くてイケメンだものね」


 長年飲食店で働いてきた雅子は、人を見極めることに長けている。

初対面の時点で、颯太がどんな人物なのかを判断出来ていたのだ。

まさに『年の功』というのはこういうことを言うのだ。


「はい、颯太くんはとっても良い人です!」


 ほんのり頬を赤くしながら、満面の笑みで断言するように渚は言った。

雅子は渚の顔を見て、渚がどれだけ本気で颯太のことを想っているのかをすぐに理解することが出来た。


(――――この2人なら、何でも上手くいってしまいそうね)


 雅子はそう思いながら、渚の後ろの奥で2人で話している颯太と和夫を見た。

和夫の表情から、恐らく渚のことを話しているところなのだろうと考えた。

 勿論、雅子も渚の家庭事情、学校事情も全部知っている。

友達が出来ないことだって知っている。

そんな渚に友達が、しかも男友達が出来たということに正直今でも驚いている。

 お互い感じ取った何か……本能的なものかもしれないが、それでも颯太の渚の出会いは、まさに奇跡としか言いようがなかった。


(この2人はもしかしたら……早いかもしれないねえ)


「さて、まだ2人は話しているみたいだし、ジュース持ってくるわね。オレンジジュースで良い?」


「はい! お願いします!」


 雅子は立ち上がり、ジュースを注ぎに厨房へ向かっていった。

1人きりになり、渚はちらっと後ろを向いた。

渚の眼に、颯太の横姿が写り込んだ。


「――――カッコいい……はっ!」


 思わず頭で思い浮かんだ言葉をそのまま口に出してしまい、渚は口を手で塞いだ。

顔も赤くなり、体温が上がっているのを感じた。


(颯太くん……好き)


 心の中で、渚は颯太にそう伝えた。

しかし、すぐに暗い表情になり、体を前に向けてテーブルを見つめ続けるのだった。











◇◇◇












 渚の事情は皆さん多少は把握出来たのでしょうか?

学校一の美少女と称される渚は、お嬢様とか良い環境に育ってきたと思われがちかと思います。

が、実は真逆でかなり酷く悪い環境で育ってきたのです。

 和夫が颯太に話していた通り、家では暴力を振るわれ、学校では容姿の良さから男子が群がってくることに嫉妬する女子たちに狙われ……完全に逃げ場がなくなっていたのです……。


「あ……渚ちゃん……」


「颯太くん……」


 お互い違う感情でぎこちなくなってしまった2人。

颯太は渚の家庭事情、学校事情を和夫から聞いた話、渚は颯太に対しての感情のせいで、まともに話せなくなってしまっていた。

全く反対の感情のせいで、よく分からない不思議な空気が2人を包んだ。


「さあさあ! 渚ちゃんはいつものやつだけど、颯太くんは何を食べるのかしら?」


「あっ、えっと……渚さんと同じやつでお願いします」


「かしこまりました」


 雅子が間に入ってきたお陰で、2人は我に返った。

とりあえず、今は渚の事情で落ち込んでいるところではない。

渚と遊んでいることを楽しもうと、気持ちを切り替えた。


「渚さんがおすすめする食べ物……何だろう? すごい楽しみ!」


「――――」


「えっと……渚さん?」


「えっ? あっ……ごめんなさい! ぼーっとしちゃって……」


(そ、颯太くんと2人で食事をするなんて……は、恥ずかしすぎるよ……)


 そう、このレストランで座っている客は颯太と渚しかいない。

さらに颯太と向かい合わせなわけで……。

颯太に好意を抱いている渚にとっては、まさに2人きりのデートと変わらなかった。

そう考えただけで、渚の顔はあっという間に真っ赤に染まってしまったのだ。

 

「そうなの? 顔が随分赤いけど……本当に大丈夫?」


「う、うん! 何もないから気にしないで!」


「それなら良いんだけど……」


 渚を推しているよっていう読者の皆様、この表情いかがでしょうか?

先程も申し上げましたが、この話は小説なので頭に浮かぶ渚の容姿は人それぞれ。

そのため、颯太に自分の顔を見られないように俯いている。

でも渚の表情は見たいので、下からのアングルで渚の顔をお送りします。

 想像が全ての小説ですが、全ての人の想像で唯一、全く同じ部分がある。

それは……そんな表情をした渚が一番可愛いってことです。

 そして、渚推しの読者の皆さんは、舌を出す犬のようにハアハアと言いながら興奮していることでしょう。

 ね?

合ってるでしょう?

だって、わたくしも全く同じ現象が起こっているのですから。

ハアハアハア……アオーン!

渚の恥ずかしがる表情最高だワン!

ナンバーワン!


「――――」


(颯太くん……黙られたらもっと恥ずかしくなっちゃうよ……。もう、颯太くんの顔見られないよ……!)


「――――」


(店長の話を聞いてから渚さんに話しかけづらい。それに、さっきから渚さんの顔が険しいし……)


 全く正反対のことを考えている2人。

こんな状態で本当に2人は結婚するの? と頭に思い浮かぶそこのあなた、これが付き合う直前に立ちはだかる『壁』というやつです。

今は考えていることがすれ違っている2人ですが、この後ちゃんと結婚するのでご安心を。

 さて、気まずい空気に押されて、なかなか話しかけられずに黙り込んでいる2人。

そんな2人のところに、厨房から雅子が料理を運んできた。


「2人ともおまたせしました。醤油ラーメンです」


「「あ、ありがとうございます――――!」」


 見事にシンクロを見せた颯太と渚。

つい2人はお互いの顔を見つめてしまったが、すぐに口を開いたのは颯太だった。


「あはは……シンクロしちゃったね」


「――――!」


 颯太が困った顔をしながら笑った。

それを見た渚はすぐに顔が赤くなり、また俯いて颯太に見られないように隠した。


(今日の渚さん何だか変だ……。何かあったのかな? 後で聞いてみよう。もしかしたら僕が解決できるかもしれないし)


 颯太はもっと渚を困らせたいのかな? とお思いでしょうが、彼に悪気はなく、和夫に言われたことを実行しようとしているだけ。

渚推しの皆さん、くれぐれも颯太に恨みの念を送らないようにしてくださいね。


「じゃあ、いただきます!」


「い、いただきま……す……」


 気まずい空気の中、黙ったままラーメンをそそる2人。

この会話以降、食べ終わるまで2人は全く話さないので時間を早送りします。

そんな2人を見るより、この後の2人の方が皆さん気になるでしょう?

 えっ?

ちょっとだけ黙食シーンを見たい?

――――皆さん、もしかして結構欲しがりなのですか?

仕方ないですねぇ……。

じゃあ……ほんのちょっとだけでございますよ?


「――――」


 ずぞぞ


「――――」


 ずぞぞ


 ――――さあ、和夫から言われたことを実行しようと渚を困らせようとする颯太くんと、颯太の顔を見ることが出来ない渚。

次回、急展開てんこ盛りの回です!

それでは、皆さんまたお会いしましょう!

EDテーマ『恋は急展開なのだ!』を流してっと……それでは、さようなら!

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