第6話 2人が結婚するまで4
男友達なんて今まで居なかった。
そんな言葉に衝撃を覚える颯太。
「だからな、渚ちゃんが颯太くんを連れてきた時は本当に驚いたんだ。もしかしたら、騙されているのかもしれないと思ってここに呼び出した。驚かして悪かった」
「い、いえ……。こちらこそ、教えてくださってありがとうございました」
「これは本人に言うんじゃねえぞ? 全部を知っているわけじゃないが、渚ちゃんは結構デリケートで、落ち込んだら本当に死のうとするからな? だから、絶対に本人の前で言うなよ?」
「分かりました……って死のうと……する……?」
――――はっ!
申し訳ありません、今回はかなり重たいので気づかないうちに無言になってしまうんです……。
颯太は体をガタガタと震わせた。
目元が暗くなり、明らかに具合が悪そうな顔だ。
和夫も、ここからは完全に険しい顔へと変わった。
「あの子は家庭的にも問題を抱えている。過去には首元にアザをたくさん作って店に来た時だってあった。相談に乗ろうとしても、渚ちゃんは転んじゃったと言って本当のことを話そうとしてくれなかった」
「――――」
「でも……今思ったことだけど、颯太くんなら打ち明けてくれそうだな」
「えっ……?」
「今まで自ら友達を作ろうとしない、友達を作ることを拒んできた渚ちゃんに友達、しかも男友達だから、颯太くんには相当な信頼があるって分かる。小さい頃から渚ちゃんを見てきた俺だから絶対間違いない」
相当な信頼がある。
その言葉が颯太の心の中に響き渡った。
颯太も友達が出来ず、ほとんどの時間を1人で暮らしてきた。
学校一の美少女と唄われている渚と友達になれたことは、まさに奇跡としか言いようがなかった。
「颯太くん、俺から頼みがある」
「な、何でしょう?」
すると、和夫は颯太に深々と頭を下げた。
まるで、組長に頭を下げるかのように。
「どうか……どうか、渚ちゃんを守ってくれないか!」
「え……ええ!?」
「俺みたいなじじいが渚ちゃんを完全に守れるわけじゃない。でも、同い年で渚ちゃんの友達である颯太くんなら大丈夫だと思える。颯太くんなら任せられそうだと感じた。だから……渚ちゃんを守ってくれないか?」
和夫の願いに颯太は少し考え込んだ。
和夫の言う通り、友達は恐らく自分くらいしかいない。
相談に乗れる相手も自分しかいないだろう。
しかし、それが自分に努まるのだろうか……? という疑問と不安が頭に
(でも……店長さんにここまで頭を下げられたら、断れないよね……)
それに、渚と長い付き合いがある和夫が、颯太なら任せられそうと言ってくれた。
渚を守ることが出来るのなら……。
「――――分かりました。渚さんのことなら僕にお任せください! 僕も昔からなかなか友達が出来なかったんです。ここまで仲良くしている友達は渚さんが初めてです。そんな人を守らない理由なんてありません!」
「颯太くん……頼んだぞ!」
颯太と和夫は立ち上がり、固い握手をした。
先程まではヒヤヒヤした展開だったのが、いつの間にか2人との間に絆が生まれていた。
これが男の絆というもの。
それ以上の言葉は言わなくても、男というのはすぐにこういうのは分かるのです。
さて、一段落したところで、今度は女性陣の会話を覗いてみましょうか。
この時点ではもう既に女性陣の話は終わってしまっているので、時を巻き戻しますよ!
リモコンをポチッとな!
◇◇◇
「ここが、渚さんがおすすめするレストラン?」
「うん! じゃ」
ストップストップ!
巻き戻しすぎ!
もうちょっと後……。
「いらっしゃ」
もうちょっと先!
ちょっと早送りにして、と……。
「さて、あの2人が終わるまで、渚ちゃんに聞きたいことがあるの」
っと、皆さんおまたせしました!
ここからは渚と雅子の女子会になります。
颯太と和夫の話とは違い、終始ほっこりした話なので、皆さん肩の力を抜いて2人の会話を聞いてくださいね。
それでは、再生!
「何ですか?」
「あの男の子……颯太くんだっけ? 随分とイケメン君ねえ」
「わたし、颯太くんの大ファンなんです! 颯太くんはバスケットボール部のキャプテンなんですけど、その姿が格好良いんです!」
渚は大きな眼をキラキラと輝かせながらそう言った。
「あらあら、その感じだと相当颯太くんのファンなのね! 2人は何がきっかけでお友達になったのかしら?」
「わたしはどうしても下を見たまま歩く癖があって……。そしたら、偶然颯太くんの後ろから激突しちゃったんです。颯太くんはそれのせいで転んでしまって……。膝とほっぺから血を流していたので急いで手当をしたのが、颯太くんと初めて話しました。わたしと颯太くんは途中まで帰り道が一緒なので、会って話しているうちに仲良くなったんです」
「なるほど、それがきっかけで颯太くんと仲良くなったのね。それで……颯太くんのことはどう思っているのかしら?」
「どう思っているっていうのは……?」
いまいちピンときていない渚。
雅子はテーブルに身を乗り出し、渚だけに聞こえるように囁いた。
「颯太くんのこと、男の子として好きなのかしら?」
「――――!?」
雅子にそう言われ、はっとした渚。
顔がどんどん赤くなっていき、ドキッと心臓が大きく鳴った。
「わ、わたしがそんなこと……あうぅ……」
「ねえねえ渚ちゃん、どうなの?」
渚の答えにとても期待している様子。
さあさあ皆さん、可愛い渚の表情を御覧ください! って言ってもここは小説なので皆さんそれぞれの好みの顔になってしまいますが……。
渚の今の様子だけお伝えしておきましょう!
視線を逸し、顔は頬を中心に真っ赤、手は脚の間に挟んでモジモジしている。
そして、つま先はいつもよりさらに内側を向いている姿になっております!
さあ皆さん!
この材料を元に、あなただけの三井 渚という学校一の美少女を思い浮かべてください!
おっと!
ここで渚が口を開きました。
渚は何というのでしょうか!?
「わ、わたしは……実は……颯太くんのこと……男の人として好きなんです……」
はい来たああああああああああぁぁぁぁぁぁあああああぁぁぁぁぁああああああああああああああああぁぁぁあぁぁあぁぁ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
皆さん!盛り上がって! ます! かああああぁぁぁぁあ!!!!!!!??????
読者全員愛しの渚ちゃんが、遂に颯太が好きだと自白しちゃいました!
皆さんこの展開を本っっっ当に楽しみにしていたことでしょう!
(い、言っちゃった……!)
渚は顔を手で覆って隠した。
本当に恥ずかしくて、雅子に見せたくなかったからだ。
「まあ! 良かったわね渚ちゃん! おばさんは応援するわ!」
「あ、ありがとうございます……」
心ときめく展開に、雅子は完全に青春時代の心へと変わっていた。
渚は今にも顔が爆発しそうになっている。
「ところで、渚ちゃんは颯太くんのどこが好きになったの?」
「え? えっと……優しくて、格好良くて……毎日わたしと話してくれるところです。今までそこまで話すことなんてなかったので……。でも、颯太くんと一緒に帰るようになってから毎日が楽しくなって……気づいた時には、もう既に颯太くんのことが好きになっていました」
渚にとって、それが颯太のことが好きになる最大の理由だった。
学校一の美少女と言われるだけあり、昔から男子から告白されることは多々あった。
勿論、本気で告白してくる男子もいたが、半分以上は下心満載の男子から告白されるパターンだった。
さらに、男子から毎日のように告白されている渚を嫌う女子も多かった。
何であいつが、何であいつが……と陰口を叩かれ続けた渚は苦しみ続けた結果、男女ともに恐怖症のようになってしまい、孤独になることを選んだのだ。
そんな渚に現れた存在が颯太だった。
見た目の良さ、そして、雰囲気から少しずつ気になり始めた渚は、こっそり颯太が部活動をしている様子を見ていると、すぐにファンになったのだ。
その後、あの出来事があり、颯太と話すようになった。
日を重ねていくうちに、渚はファンから片想いへと変化していったのだ。
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