第4話 2人が結婚するまで2

 自分の心を抑えることで精一杯だった颯太は、渚をその場に置いてきてしまったことに気がついた。

女の子を置いていくなんて、男として失格だぞ颯太!

罰として鞭100回叩きの刑だ!

っと言いたいところだが、わたくしにはそれが出来ないので残念……。

何故ならわたくしはナレーションだから。

そんなことしたら訴えられますんで……。

 とにかく、颯太は渚と一緒にいた場所まで戻ることに。

角を一つだけ曲がれば良いため、すぐに着く。

足早に戻り、角を曲がろうとしていた時だった。


ドンっ!


「あ、ごめんなさ――――渚さん!?」


「あっ……」


「――――っ! ご、ごめんね渚さん!」


「こ、こちらこそごめんなさい!」


 ぶつかってきたのは渚だった。

完全に体が密着してしまっている状態になってしまい、2人は慌てて謝りながら離れた。

 さあ!

これで2人はまともに話せなくなってしまった!

どうする颯太、どうする渚!


「えっと……さっきは渚さんを置いていっちゃってごめんね!」


「――――う、うん……。大丈夫……」


「じゃ、じゃあこっちにバスケのコーナーがあるから案内するね」


「あ、ありがとう……」


 まだドキドキしている状態だが、自分で無理やりそれを抑え込んだ颯太。

なんとか渚に話しかけ、バスケットボールコーナーへと誘導することが出来た。

 一方咲はというと……。


(まだ……すごいドキドキしてる……)


 颯太以上に心臓の鼓動がうるさく鳴り響いていた。

胸に手を当て、激しく鼓動する心臓を抑えようと深呼吸をしていた。


「ほら渚さん、これがバスケコーナーだよ」


「――――! す、すごい数! あ、靴がある!」


 渚は真っ先にバスケットシューズが並んでいるコーナーへと向かった。

颯太は渚の後をついて行った。

 渚は壁に飾られている、沢山の種類のバスケットシューズをまじまじと見つめていた。


「これってバッシュって言うんだっけ?」


「そうだよ。バスケットシューズを略した呼び方がバッシュ」


「へえ……。結構大きいんだね」


「バスケって飛んだり走ったりすることが多いから、色んな機能を備えているから大きいんだよ」


「色んな機能?」


「そうそう」


 興味津々に聞いている渚を見て、颯太は分かりやすく説明するために、棚から1つのバスケットシューズを手に取った。


「これは僕がよく買っているメーカーなんだけど、持ってみる?」


「う、うん!」


 こくこくと頷く渚。

颯太は渚にバスケットシューズを渡した。


「――――! 思ったよりもすごく軽いね!」


「そうなんだ。バッシュって見た目の割にすごく軽いんだよ。足の負担を軽くするためにね」


 渚はバッシュを上下させて重さを感じた。

バスケットシューズって進化を続けていて、とっても軽いんですよ。

わたくしもバスケットボール経験者なのでよく理解することができるんですが、昔のバッシュは本当に重たかったんですけど、今は軽いですね!

 おすすめのメーカー、ですか?

今は生産終了してしまったと思うんですけど、靴の側面に矢印のマークが付いた某有名メーカーですね。

一般的にはバドミントンシューズのイメージが強いと思うんですが、

名前を出してしまうと色々あれなので名前は言えないんですけど、あれはわたくしが履いたバスケットシューズの中で一番でしたね!

 小学生などのジュニアサイズは今も生産しているのですが、シニアサイズがなくて……。

あまり知られていない、隠れ名バスケットシューズでしたね。

もし復活したら……ぜひとも欲しいのであります!

 ふう……では、わたくしのオタク話はこれくらいにしておいて……。

颯太と渚のやり取りに戻りましょう。


「へえ……あ、ねえねえ」


「どうしたの?」


「踵のところに透明になっているところがあるけど、これは何?」


 渚が指を指した箇所は、バスケットシューズの踵部分。

最近の流行りで、バスケットシューズの踵に空洞があるのだ。

説明は……颯太くんに任せましょう!


「それはエアークッションと言って、着地した時に踵の負担を減らす役目をしてくれるんだ」


「そ、そんな機能が……!?」


「そーなんです……!」


 おっと、いきなり2人の顔の作りが変わってしまいました!

いきなりリアル感満載の顔になってしまった2人。

後ろからはゴゴゴ……! というオノマトペまで聞こえてきた。

どう見てもテレビショッピングのノリです。


「さらにですね、バッシュはなんと……!」


「な、なんと……?」


「グリップが凄いんです!」


「グリップが凄いのですね!? ところでグリップって何……?」


 おおっとここで良い流れが一気に崩れてしまったぁ!

思わずずっこけそうになる颯太だが、何せ渚はスポーツ初心者。

そんな専門用語なんて知っているわけがない。

 さあ颯太くん!

わたくしは説明するのがめんどいので颯太くん宜しく!


「グリップというのは滑りにくさと言ったほうが良いな。展開が早いバスケは急に止まったりしなければいけないんだ。だから、グリップ力はすごく大事なんだ」


「なるほど! グリップってそういう意味だったんだね。初めて聞いた単語だから思わず聞いちゃった」


「大丈夫だよ渚さん。他に聞いてみたいことがあったらいっぱい質問して。僕が答えられる範囲で答えてあげるから」


「うん! ありがとう颯太くん!」


 その言葉を放った瞬間に見せた渚の満面の笑みに、颯太はドキッとしてしまった。

さすがは学校一の美少女と讃えられているだけはある。


(これ他の男子に見られたら、男子は発狂するだろうなあ……)


 そう思った颯太だった。

まあ、そう思っている彼も心の中で発狂していますけどね。


「あ、そうだ颯太くん」


「どうしたの?」


「あの……その……颯太くんがいつも履いているバッシュってここで売っているの?」


「えっ、うん。奥の方にあるけど……」


「ちょっと見てみたいなあ……」


「――――!? あ、うん……良い、よ……」


 渚は顔をほんのりと赤くして、モジモジしながら颯太に聞く。

颯太はまたドキッとしながら、渚を案内した。


(えっ……なに今の仕草……。あんなことをする渚さん初めて見た……。か、可愛すぎるよ!)


(や、やっちゃった……! もう、わたしのバカバカ!)


 良いねえ良いねえ!

いい感じになってきましたよぉ皆さん!

この感じを皆さんは期待していたことでしょう!

わたくしも今絶賛鼻血ブシャーしてます!

 甘ったるい空気に包まれながら、颯太は渚を連れて奥の方へ進む。

お互い顔を赤くしながら。


「え、えっと……。あ、これが僕が使っているバッシュだよ」


 颯太は棚の上部に飾られているバスケットシューズを手に取って、それを渚に見せた。

渚はそれを手に取ると、小さく口を開けながら見つめた。

生まれて初めてバスケットシューズというものを生で触れた渚。

大きさの割に軽いというのに驚いているのもあるが……。


(これが、颯太くんがいつも履いているものと同じバッシュ……)


 自分の大ファンである颯太が、いつも使っているバスケットシューズに触れることが出来たということに、どこか感動するものがあった。


(渚さん、こんなに見つめちゃって……もしかして、結構気に入っちゃったのかな?)


 渚がそんなことを思っていることにも気づかず、颯太はごく平凡なことを思ったのだった。










◇◇◇









 一通り見終わった2人は、店から出た。

時計を見れば、いつの間にか昼近くなっていることに気づいた2人。


「颯太くん、どこかでお昼食べよう?」


「うん、そうだね。どこが良いかな……」


「それなら、わたしのおすすめのレストランがあるんだけど、そこにする?」


「うん! じゃあそこにしよう!」


 颯太は渚に案内されながら、レストランへ向かった。

また隣同士でドキドキ展開……となることは全く無く、普通に仲が良い男女友達のように、お互い楽しく話す。

 2人はショッピングモールの中へ。

渚がおすすめするレストランは、ショッピングモールのフードコーナーにあるのだ。


「渚さん、この中にあるの?」


「うん、大手企業も並んでいるけど、1店舗だけあまりお客さんがいないお店があるの。でも結構美味しくて、わたしはそこの常連客なの」


「へえ、じゃあ期待しておこうかな」


「えへへ、期待しておいてね!」


 さて次回、颯太と渚の甘々なランチタイムです。

2人のデートはどこまでの展開まで進むのか……お楽しみに!

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