助けられた後で?
「おい、にしてもコレやべーぞ……。救急車呼ばねーと」
「そうですか? 出血は大分派手ですけど、傷自体は、打撲と打ち身が中心っぽいので傷口だけ手当をしておけば、多分動き回るのにそう支障はないかと」
一旦プリン頭の男とその仲間を所轄のお巡りさんに引き渡し、
「おいおい、流石に無理だろ……」
「傷自体は骨折もないようですし、それほど憂慮すべきモノではないですよ。ほら、見てください、この辺りの傷口とかもう固まって塞がりかけていますから」
「……、そういう問題じゃないだろ……。女は血に慣れてるとはよく言うが、流石に
「あなたは?」
「捕まえた男の方にちょっと話を聞いてきます」
「良いでしょう。分かりました」
「手錠が合っても穿くくらいは出来るだろう、穿け」
車の中に押し込められたプリン頭の男へと拾ってきた衣類を投げつける。
「ふんっ」
男は
「まず、なんでアイツを狙った? 明らかにタイミングが良すぎる。一体どこの誰の差し金だ? 答えろ」
明らかに怒気を孕んだ高圧的な物言いだった。
「ハッ!! そんなもん、話すわけがねーだろうがヨォ!! こっちゃ金だってたんまり貰ってんだ!!」
「ほう。金を貰っているねぇ」
「あっ……。クソがヨォ……」
「やはり依頼主がいるのは確定か。それで、一体どうやって俺たちのことを知った? あんな短時間で尾行を決行するなんざ、よっぽどの即断即決だよなぁ?」
「ケッ、これ以上は言えねぇな!!」
「……、そこまで義理立てするほどの相手ってことか」
プリン頭の男の悪意の籠った視線を完全に無視して
「はっ!! 依頼人がどうとかは関係がねーんだよ!! こっちゃ信用が命なんだ、それを失くしちゃ死んでも取り返しがつかねェぜ。例えサツに捕まったとしてもなァ!!」
「まっ、今すぐに吐かなかったとしてもどうせ調べりゃ芋づる式に分かるこった」
「知らねーな。それなら勝手に調べりゃいいじゃねーか。調べられてバレるのと自分で口を割るのとじゃ大違いなんだよ、こっちではヨォ!!
いや違う。それは銃身で太ももを叩くのが目的だったわけではない。
「あっ、えっ……」
ごちゃごちゃ言ってると、ド玉に鉛をぶち込むぞ。
「今欲しい情報は粗方分かったし、時間を掛けりゃ深堀出来る目途もある。とりあえずは良いってことにしといてやる」
拳銃をスーツの内側に備え付けているホルスターへとしまい、プリン頭の男へと嘲笑にも似た笑みを投げて、車のドアを外から閉じる。
それから他の刑事にその男はもう連れて行って貰って構わないことを伝え、
「すぅ……、あ痛っ、いつつっ……」
車に備え付けてある担架に乗せて血だまりから引き離され、上衣を脱がされて頭部と上半身の応急処置を受けていた
「あ、あれ……?
目覚めてすぐに上体を起こそうと試みたモノの、頭の内側と外側とそれから体のあちこちから生じる鈍い痛みにうめき声をあげる羽目になった。
「おう、目ぇ覚めたか。ったく心配させやがってよ」
「そんなすぐに起き上がろうとしないでください。ケガ自体はそれほどでもないとはいえ、あちこちに包帯巻いているんですから」
「包……、帯……?」
疑問形で復唱し、痛みの少ない腕と目線を動かして、腹部や首元、頭部の具合を少しばかり確認してみる。
網目の荒い包帯の感触とその下に添えられているコットンガーゼの感触が身体のあちこちから指先に伝わってくる。持ち上げた腕にも当然のように白い包帯は巻き付けられている。ただ白いとは言ってもあちこちからじわりと血が滲みだして小さな赤いシミが出来てもいる。
「あ、あぁ……、そうか……、俺襲われて……」
「実行犯と見張りの数人はこっちでしょっ引いた。今日もう一か所回る予定だった会社には断りを入れてある。お前はこのまま病院送りだ」
「そっか。……、この場合はありがとうっていうべき? それとも悪いっていうべき?」
「ありがとうでいいぞ。そもそもお前が捕まったことに落ち度はねーんだ」
「じゃあ、助けてくれてありがとう」
「
「何が、って言われても、俺自身正直あんまり把握できてないんだけれど……、ファーストフードの出入口のところで二人組とすれ違ったと思ったら、多分スタンガンを喰らって、それで……。得体のしれない薬品を血管に打ち込まれた……、多分。で、気が付いたらこの場所にいて、ちょっと前までボコボコにされてた、かな」
意識の混濁と極度のストレス状態から解放されたばかりであるため、自らの記憶が正しいものであるのかどうかさえ、確信が持てなかった。
「薬品を打たれた……?」
「あー、うん。多分……。右腕かな、上腕部、正面側中央辺りに注射痕が多分残ってると思うんだけれど……」
軽く腕を上げて見せるが、その部分にはがっつりと包帯が巻き付けられていて判別できなかった。
「悪いんだが、
「……、仕方がないですね。ちょっと待ってください」
留め具を外し、グルグルと包帯を緩め、当ててあったガーゼを取る。
腕には鉄パイプによって殴打されたときに付けられた大きな青あざがありありと残っていた。
「悪いが少し触るぞ」
「あぁ」
殴打痕が大きすぎて注射痕が残っているかどうかをぱっと見で判別することが出来なくなっていた。
そのため腕に指先を当てつつ、目を近づけてよく観察する。
「うっ、痛っっ……」
大きく広がった青あざに触れるのだから、当然痛みが走るに決まっている。
ただし、
「あった」
腕を覗き込む目を鋭く尖らせながら、短く言い、内ポケットから携帯端末を取り出してパシャリと一枚写真を取る。
「もう包帯を巻きなおしても?」
「あぁ問題ない」
「今日は一旦ここまでだ。血液検査の手筈だけはこちらで整えておくから、お前は病院で手当てを受けた後はそのまま入院するなり、家に帰るなりして休め」
「そんな当たり前のこと言われても……」
「分かってるならいい」
もしかすると、無茶をやらかす先輩か後輩かがいたのかもしれない。本人が一番無茶をやらかしそうな気配があるというのに……。
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