第2話「その鳥の名は……」



「おじさんごめん、父ちゃんが迷惑かけて」


日が傾いた頃、ようやくネフくんが家に帰ってきた。


ネフくんにケンちゃんの介抱を任せ、俺は家路につく。


「あ、そうだこれ。ネフくんに」


僕は木彫りの鳥をネフくんにプレゼントした。


「えっ! いいの?! 貰っても!?」


「先月、誕生日だっただろ?」


「ありがとう、おじさん!

 かっこいいな!

 今にも飛び立ちそうだね!

 おれもいつか人間が乗れるほどの大きな鳥を掴まえて、空を飛んでみたいな!」




【上手に作るのね、本物みたい。

 今にも空に飛んで行きそう。

 ねぇ知ってる?

 私の世界では羽がなくても乗り物に乗れば空を自由に飛べたのよ。

 その乗り物の名前はね……】 




「おじさんどうしたの?

 泣きそうな顔をしてるよ?」


「いや、なんでもないよ。

 日が完全に落ちる前に家に帰るよ」


「うん、バイバイ!

 またね!」


村を出て山道を急ぐ。


背中に背負った食料の入った袋は重いが、行きに入っていた木彫りの置物ほどではない。


日はどんどんと傾いていく。


ふと空を見上げれば烏が群れをなして、飛んでいた。


烏を見ると、烏の濡れ羽色の髪をしたあの人を思い出す。


【ねぇ知ってる?

 私の世界では羽がなくても乗り物に乗れば空を自由に飛べたのよ。

 その乗り物の名前はね……】


「飛行機……何百人もの人を乗せて、山を越え海を越え人や荷物を運ぶ魔法の乗り物」









彼女と出会ったのは六年前。


手頃な木を求めて山奥に足を踏み入れたとき、倒れている彼女を発見した。


この世界で見たことのない漆黒の髪と黒檀色の瞳、あどけなさの残る整った顔。


纏っている衣服は上等だったが、木の枝にでも引っ掛けたのかあちこち破れていた。


俺は彼女を背負って自宅に連れて帰った。


彼女は三日間うなされていたが、四日目に目を覚ました。


「お腹すいたーー!

 ハンバーガーショップのハンバーガーとポテトとコーラのセットが食べたい!

 あと宅配ピザチェーン店のミックスピザとマルゲリータでしょ!

 南国カフェのホイップクリーム山盛りのパンケーキにタピオカミルクティー!

 ああでも、和食も捨てがたいな〜〜!

 お寿司に天ぷらにたこ焼きにきつねうどんに鶏の唐揚げにすき焼きにお刺身に豚汁……!」


彼女は起きてすぐ空腹を訴えた。


彼女の口から出てきたのは聞いたことのない食べ物ばかり。


都会で流行っている料理だろうか?


「あいにくだが、家にはこれしかなくて……」


俺は買い置きしておいたパンにチーズを挟み彼女に差し出した。


「パンがもさもさして食べにくかったらスープもあるよ」


彼女はスープを受け取り「ありがとう」と言って、ほほ笑んだ。


その瞬間雷に打たれ、弓矢で心臓を射抜かれ、ドラゴンのブレスに焼かれたような衝撃が体を走った!!


二十三年間生きてきて……こんな気持ちになったのは初めてだった。


心の中の全てを彼女にもっていかれた。



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