第19話 クリヴァイム家へ帰宅

「ただいま戻りました……」

 私だけ、クリヴァイム家のドアを潜る。

 ここまで移動した馬車は近くに停車していて、ジュエル殿下は近くに隠れている。

 義父様がイライラしたような仕草をしながら出迎えてきた。


「遅い、遅いぞアイリス!! だが、まあ逃げずに……グウェッ、しっかりと仕事をしにきたことだけは褒めてやろう」

「はい……」

「返事はどうでもいい! さっさといつもどおりに炊事と洗濯、掃除をした上で俺の仕事を全部やるのだ! グウェッ!」


 さっきから義父様のしゃっくりが止まらない。

 それよりも、王宮で幸せな時間を過ごしたあとだからか、私にふりかかるストレスが半端ない。

 今までよく我慢してやってこれたなと、自分自身に感心してしまうほどだ。


「では……まずは炊事をやらさせていただきます。材料は昨日のままでしょうか?」

「お前が準備もせずに家を出て行ったから悲惨な状況になっている! 足りないものは全て買ってこい! ついでに痒み止めも買ってこい」

「はい……」


 暴行の上で追い出したのは義父様だろうが、と言いそうになってしまった。

 今までの私では考えられない行為だ……。

 感情を抑えすぎていたんだなと、改めて思い知らされた。


「なにをグズグズしているのだ……、グウェッ! そうやって時間稼ぎをしているのだな!?」

「いえ、私はただ……」

「うる……グゥェッさい!」


 いきなり私の胸ぐらを掴んできた。

 先ほどからしゃっくりが凄まじく、義父様の息がやたらと臭い。

 ボロボロの服がビリっと破けてしまった。

 すぐに私は振り払おうとしてしまう。


「アイリス……、おまえ……逆らったな!?」

「い、いえ……そんなつもりは」

「黙れ!!」

「いや、黙るのは君の方だよクリヴァイム男爵よ」

「な……!?」


 ジュエル殿下がいつの間にか来てくれていた。

 すぐに破れた服を押さえながらジュエル殿下のもとへと駆ける。


「あ、あなたはジュエル王子! グウェッ! なぜ、ここに……!?」

「「ジュエル王子ーーー!?」」


 部屋の外にいたフリンデルとゴルギーネまで慌てながら出迎える。

 当たり前だけど、私とジュエル殿下に対する扱いがまるで違う。


「あ……あら、アイリス義姉様~、帰ってきたなら呼んでくださいまし。おかえりまさいませ」

「……ジュエル殿下、お会いできて光栄でございます。ゴルギーネと申します。アイリスよ、今日もいい天気だよなぁ……」


 しかも、今まで私にはゴミのようにしていたけれど、ジュエル殿下が現れた途端にものすごく待遇がよくなった……。


「うむ、聖女アイリスは国のために貢献してくれた上、私の大事な友でもある。よって同行していた」


 すぐにフリンデルが喰いついた。


「な……!? ちょっと待ってくださいよ。聖女は私なんです!」

「ほう、君が?」


 フリンデルは誇らしげな表情で主張をはじめた。


「はいっ! 昨日も雨を降らせたのは私の力です。しかも、前回の雨のときも私が祈った直後に降ったので。今はこちらのゴルギーネ様に聖女活動の宣伝をしているところでして、つきましては殿下の方でも宣伝を」


 ジュエル殿下は、一度私の方をちらりと見てきた。

 すでに私がフリンデルに対して「またか……」と思っていたのが表情に出ていたらしい。


「お願いしますジュエル殿下! どうか、フリンデルの凄さを世に広めていただくご協力を……」

「ふむ。では証拠を見せてもらわねばな。フリンデル殿よ、今ここで雨を降らすことは可能か?」

「わかりましたわ!」


 フリンデルが雨を降らせようと祈った。

 しばらく待つが、一向に雨が降る気配はない。

 義父様のしゃっくりがやたらと聞こえてきて、むしろこちらの方が気になる。

 しかも、義父様は身体中をひたすら引っ掻いている。


 あれ……、さっき私が祈ったことと同じ現象になっているけれど……、まさかね。

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