第18話 犯人探しと恩返し(後)

 私はそもそもがただの貧乏女。

 クリヴァイムからの奴隷のような日々を抜け出せたわけでもない。

 王宮での夢のような時間は終わりなのだ。


「クリヴァイム家の当主である義父様には逆らえませんので……」


 顔には出さないようにしたが、それでも恐怖と悔しさが少し出てしまったかもしれない。


「ふむ……。父上、本日大臣たちとの会議だった予定を変更してもよろしいですか? アイリスと一緒にクリヴァイム家に向かい調査をしようかと」

「うむ。むしろその方がよかろう。どうもその家のことが気になる」

「ではアイリスの護衛も念のために連れて行きますが、私がアイリスをお守りします」

「え……えーと、どういうことですか?」


 勝手に話が進んでいてついていけない。

 しかも私に護衛なんかつけても経費の無駄遣いじゃないか。

 どうも王宮で特別扱いされてしまうので、私自身もそういった処遇に慣れないのだ。

 だが、ジュエル殿下が詳しく説明してくれた。


「アイリスは自分自身で思っているよりも、もっと評価される人間なのだよ。それに気が付かずに仕事を無理やりさせようとする男爵が気になるだけだ。それに、なによりもアイリスの顔が帰りたくないと訴えている。つまり、家に帰れば嫌なことが待っていると解釈するべきだ」

「それは……」


 欲を言えば夢のような時間を経験してしまったので、元の生活は厳しい。

 けれども、義父様のことを告げ口したことがバレれば、もしかしたら私は死にそうになるほどの苦しみを味わうことになりかねない。

 だからハッキリと伝えることができないのだ。


「ともかく私は一緒に行く。アイリスよ、普段の男爵の動きをみたいので、少し作戦をたてたいのだがかまわぬか?」

「えぇと……」

「どうなのだ!?」

「ひっ……! かしこまりました!!」


 私がオドオドとしているから怒られてしまった。

 ジュエル殿下が悪いわけではなくて、これは私の性格難だということくらいはわかっている。

 だが、どうしても今までの恐怖からのトラウマが克服できない。

 オドオドしている私に対し、ジュエル殿下は私の頭の上にそっと手を置き、優しい言葉をかけてくださった。


「アイリスよ、何があったかは聞かないでおく。だが、私たち王族がアイリスの力になりたいと思っているのだ。何も恐がることなどない」


 私にとってジュエル殿下の言葉は、今までの不安だった気持ちが一気に吹き飛ぶような魔法のようだった。

 思わず涙をこぼしてしまう。


「どうして……王様や王子がそこまでして私のことを……」

「それは聞くでないっ!!」

「は……はひ」


 ジュエル殿下があまりにもヨソヨソしい態度をしながらそう言ってくるので何も言えない。

 きっと、聖女だとわかったから国のために役立つ道具として考えてくれているのかもしれないな。

 でも、道具として利用されてもクリヴァイム家の時のような処遇じゃなければそれでもいい。

 私はあの地獄のような日々を送ることがなくなればそれでいい。


 国王陛下は、ジュエル殿下にニヤニヤと微笑んでいた。


「ほほう~ジュエルもいよいよか……」

「兄としては少々悔しい気持ちはあるが、ここはジュエルが先行していたのだからな。私は応援する側にまわるとしようか」

「父上!! 兄上!!」


 なんの会話をしているのかはわからないが、普段は国の王様でも笑ったりすることもあるんだな。

 そりゃこの三人は家族だからそりゃそうか……。

 家族って本来はこんなにも暖かくて仲がいい関係なのか……。


 私は、三人の掛け合いをみながら羨ましくも少し寂しかった。

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