記録4 故郷にサヨナラバイバイ
ヒースの問題発言から数日後。
自分は一人森の中で鍛錬していた。
結局ヒースの旅に出る宣言は本気だったらしく宴の日以降両親を説得している。
まああの様子じゃあ無理だろうな。
ヒースが旅に出れば村の若手が減ると同時に前回起きた誘拐事件のような出来事に対処できる人がいなくなるという痛手だ。
昨日ヒースの親にもあの子を止めてくれと言われたしどうしたもんかと考えながら遠くの的に矢を当てる。
……旅か
一息着こうと木に寄りかかるように座り旅について考える。
そういえば自分は今まで遠くに行ったことは一度もない、子供のころ読んだ絵本で氷の大地やら妖精たちが住む世界樹とかに行ってみたいと憧れていたが今は全然興味がない。
でも―――
『お前の持つ『パンドラ』に必要な資格は全部で4つ、資格はそれぞれ四大国家にある。 『イオクニ』 『アヴァロン』 『アグト』 『イージス』、その国から与えられる試練をクリアすれば資格をゲットできる。 そして4つ全て集まればぁ―――』
『集まれば?』
『―――願いが叶う楽園へと導かれる。 ま、こんな感じだな』
あの日、ヒースの言っていたことがまだ頭の中に残っている。
願いが叶う楽園、それがもし本当なら俺は……
▲
日も落ちあたりが暗くなる夜中、自分は村から離れた薬草が群生している平原に待ち合わせをしていいた。
「で、リーフ話ってなんだ。しかもこんな夜遅くに?」
旅の件がどうなったのか聞きたくてね、今のところは行けそうか?
「全然、いっその事黙って行こうかと考えているとこだよ」
それ、先生にすぐ捕まると思うが?
「そこなんだよなー。 ……で本題は何だ? わざわざこんなところに来たんだ、誰かに聞かれたくないことを聞きたいんじゃないのか」
話が早くて助かるよ。
ヒースの察しの速さもあるがそもそもこんな話をするなら村で話せと誰だって思うだろう、だったら本当に聞きたかったことを聞いてしまおう。
なあヒース、お前との付き合いも長いけどこれまでずっとお前のことで分からないことがあったんだ。 というか子供のころのお前が魔法の練習をしてた頃から思っていたんだが――
―――お前、もしかして転生者か?
転生者、異なる世界で死んだ魂がこの世界に流れ着き記憶と強大な力を持って生まれるという存在。
最初の転生者は大昔に魔王を倒した勇者アイン、彼は自分から転生者だと名乗っておりその実力と正義感あふれる性格で様々な事件や魔族との戦いを勝ち抜いていき誰もが不可能と言われていた魔王の討伐に成功する伝説を残している。
その伝説は本に記され皆に渡り全員の記憶に刻まれた。
自分も小さいころ絵本のやつを親によく読み聞かせてもらっていた。 大人になりヒースは転生者じゃないのかと考えた時に再び本を読み返したら転生者の特徴のほとんどがヒースに当てはまっていた。
聞くタイミングが遅くなったがさてどういう反応が返ってくるか―――
「え、そうだけど今更知ったの?」
―――……ん?
「まじかあ、俺結構それっぽい行動を出してたんだけど気づかなかったの?」
いや薄々こいつ転生者じゃね? って思ったけどそういうのは架空の存在だとずっと思ってて。
「いやいや、小さいころから魔法を習得するか、レベル上げとかゲームとか変な単語使うやつがいるか、じゃあなんだ俺はずっと頭のおかしいやつと思われてたのか!?」
……多分、全員が頭のおかしいやつって認識されてると思う。
「えぇ……」
膝から地面に落ち手をついて落ち込むヒースに対し自分はもっと早めに聞いておけば良かったなあと若干の後悔をし―――
うんごめん、ほんとごめん。
と謝罪の言葉を言った。
▲
とりあえずこの話はこれまでにして、もう一つあるんだけど。
「なんだよぉ……まだあるのかよぉ」
まだ気分が落ち込んでいるヒースだが早く終わらせようと思い話を続ける。
お前の旅に俺も連れて行ってくれ。
「それは別にいいけど……いいのか? 俺の旅は――」
分かってる。 楽園を目指すんだろ?
「そうだよ、でもそう簡単にはいかない旅に出れば何が起こるかわからない事や未知が襲い掛かってくる。 幸福もなく悲惨で満ち溢れている旅になって後悔するかもしれない、それでもついてくるか?」
ヒースは立ち上がり覚悟を問うように自分を真っすぐに見つめる。
……俺はずっと知りたかったことがあるんだ。
「知りたかったこと?」
ああ、俺は外を知りたいんだ。
小さいころから憧れてたんだ、絵本で読んだ勇者アインの旅を。
異なる文化の国、太陽がぎらつく砂漠、氷の大地、精霊たち集う世界樹、火山を中心として出来た国、他にもいっぱい行きたいと思ったところがあるんだ。
そしてお前が言う楽園、そこが一体どんな場所なのかも知りたい。
「……ふ、あはははは!!」
ちょ、なんで笑うんだよ別にいいだろ一度も遠いところに行ったことないんだからさあ!?
急に笑い出したヒースに自分はそんなおかしいことなのかと不安な気持ちになるがヒースは悪い悪い、と言い話を続ける。
「確かにそうだったわ、俺たち一回も外の世界に行ったことなかったな色々とあって忘れてたよ。 でもまあ、それも旅の醍醐味だ一緒に行こうか、リーフ」
ああ、例えこの旅に後悔があってもこの覚悟は揺るがない。
こうして互いに固い握手を交わした後、村に戻り家族と村長そして先生にこのことを伝えた。
ヒースの時のように最初は反対していたが、自分とヒースの説得の末、一週間後に出るということで無事了承を得ることができた。
一週間もあるため旅の支度や鍛錬、村の仕事に自分たちは一層力を入れて励んだ。
▲
一週間後。
朝早くに村の入り口で自分とヒース集合し、その見送りで村長と家族、先生がいた。
「つらくなったらすぐ帰ってくるのよ、これ旅の道中で食っていきなさい」
うん、ありがとう母さん。
「無理はしないようにな、生きて帰ってくることが一番大切だ、土産話楽しみにしてるぞ」
はい村長、楽しみにしててください。
母からリンゴを二つ貰い村長から励みの言葉を頂いた。
ヒースの方も家族に色々と言われている。
「リーフ、これをあげるよ」
先生から一冊の本を手渡される。 なんだろうと開いてみるが全部白紙だった。
「旅に日記は欠かせないもの。 書いておけば過去を振り返ることができる、忘れずに書くんだよ」
ありがとうございます。 大事に使わせてもらいますね。
先生に礼を言い日記を鞄に入れ、そろそろ出発の時が来た。
「じゃあ行くかリーフ」
ああ、それじゃあ―――
『行ってきます!』
そういい自分たちは村を出て歩き始めた。
ここから先は何が起こるか分からない未知で溢れている。
少し不安もあるが楽しみでもある。
でもまあ、ついに旅に出たんだ今はただこの気分をゆっくりと嚙み締めよう。
こうして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます