21話 『プラスマイナスでどちらが大きいか』

 そして金曜日。亜久里の将来を左右する、会議の日がやってきた。

 会議は各参加者のスケジュールの問題から、四時間目に行うことになった。

 場所は第一多目的室。長机と椅子が二十セット以上並んで置かれている広い部屋だ。

 前には檀上とスクリーンがあり、視聴覚室として使われることも多い。


 今回の参加者は、校長と教頭、それに亜久里の担任、生活指導の教員二人の計五人の教員。それに当事者である亜久里と、ダンス部のキャプテンで亜久里の親友でもある舞原瑠美。ここまでがこの会議の正式な参加者だ。

 ここに、『参考人』という立場で美弥子とたすくの参加が許可されている。


「――えー、それでは会議を始めさせていただきます」

 担任が檀上で宣言すると、参加者が揃って軽く一礼をして会議が始まった。


「……」

 丞と亜久里の視線が、同じく会議に参加している音姫美弥子に向けられる。

 美弥子はすっと落ち着いた眼差しで前を向いているが、彼女もまた二人のことを意識しているのは気配で感じた。

 やれることは全てやった。あとはその成果を美弥子にぶつけるだけだ。


「えー、それでは乾さんと舞原さん、ちょっと前へ来てもらえますか?」

「はい!」


 ハキハキとした声で返事し、亜久里と瑠美はスクリーン前に歩いていく。

 とにかく教師陣への心象はよくしろという丞のアドバイスを愚直に守っているようだ。

 檀上前には、それぞれ壁際に一つずつ長机と椅子のセットが設置されている。二人はスクリーンを向いて左側の椅子に着席した。


 担任がここまでの経緯を、都度亜久里と瑠美に確認を取りながら語っていく。

 始まってすぐに、丞は会議がやけに厳かに進んでいることが気になった。

 担任の二人への質問の仕方や話しかけ方も、やけに他人行儀というか堅苦しい。参加している教師陣の放つ空気も妙に重い。


「……」

 なんとなく事情は察せられた。

 おそらく教師陣にとってもこの会議は、もはやただの一生徒の問題行動に対する『話し合い』の域を大きく超えてしまったのだろう。


 原因はおそらく、この会議そのものへ学校中の関心が集まってしまったこと。

 校内でも随一の知名度を誇るレスバカップルと生徒会長がぶつかるというマッチアップは、教師陣がどのようなジャッジを下すのかで勝敗を決することになった。

 つまり彼らの審判そのものに関心が集まったのだ。

 元から校内でも話題になった亜久里の騒動に加えてこのような形で注目を浴びてしまった以上、彼らも半端な裁定をするわけにはいかなくなったのだろう。

 学校の多目的室が、今や法廷さながらの緊張感に包まれていた。


「――えー、以上が本件の概要になります。先生方、ここまでで何かご質問はございますか?」

 担任が尋ねると、他の教師達は沈黙で返答した。

 ここまでは全員がとっくに共有している情報に過ぎない。本番はここからだ。


「はい、それでは本題に入ります。この度皆様にお集まりいただいたのは、今回の一件に関して学校側がどのような対応を取るべきかを話し合うためです。今回はやや事情が複雑な事件になっておりまして、教員だけでは判断が難しい点もございましたので、事情について詳しい人達を呼んでおります。二年の袖上丞君と、三年の音姫美弥子さんです。二人とも今日はわざわざ時間を作ってくれてありがとう。あとでお話を聞かせてもらいます。よろしくお願いしますね」


 担任に名指しされ、丞と美弥子は椅子から立ち上がって各人に一礼した。

 ……今の担任の説明にはやや建前が含まれている。

 実際は教員含め、この件の処分は満場一致で決まっていた。それが美弥子の介入によってここまでこじれた、というのが正解だ。

 そんな事情を踏まえて、教員達もこの会議の実態がただの事情聴取や話し合いの場ではなく、美弥子と丞と亜久里……三人の決戦の場だと把握していた。


「えー、それではまず、事件の当事者である乾さん、そして舞原さんのお二人に、先生方からいくつか質問をしていただきたいと思います。では先生方、よろしくお願いします」

 担任に促され、生活指導員の一人が亜久里に声をかけた。


「じゃあまず乾さんに。私達は、その動画編集……っていうの? やったことないから分からないんだけど、こういう失敗ってよくあるものなの? 事前に気づくことって難しいのかな?」

「――日頃から投稿する動画に関しては入念にチェックを行っていましたし、このようなことはほとんどありませんでした。ただ今回は本来動画に映す予定のなかったグラウンドや校舎が背景に映りこんでしまい、その細部までをくまなくチェックすることができませんでした。以降はカメラの画角などにも気を配り、チェックが困難な背景はそもそも映さないよう心掛けるということで、再発を防止したいと考えています!」


 ――フッ、と美弥子の失笑が聞こえてきた。

 亜久里が苛立った様子でギロリと睨みつけるが、美弥子は気にも留めずにすぐ元の鉄面皮に戻った。


「……」

 もし人目がなければ丞は頭を抱えていただろう。


 ……即答し過ぎだし、口調も硬い。なのに言葉だけはすらすらと出てくる。

 ……暗記してきたのが丸出しだ。練習のときはもう少し柔らかく話せていたが、あれは練習相手が丞だったからというのも大きかったようだ。

 亜久里はこの場の空気に呑まれて緊張している。これを教師達がどう受け取るかは天に任せるしかない。

 次は別の生活指導員が尋ねた。


「あれから、周りの反応とかはどうでした? ネットだけじゃなくて、学校の友達とか」

「……えっと」


 亜久里がちらりと丞の方を見て助けを求める。

 想定問答をみっちり練習したせいで、逆にその範囲外の質問に弱くなってしまっていた。

 だが丞はあくまで、この後のテーマにおける参考人として呼ばれているだけだ。その立場を逸脱するような助言はできない。

 丞からの援護がないと察した亜久里は、意を決してアドリブで語りだした。


「……正直、いろんな人からいろいろ言われました。友達とかうちのファンは、結構慰めてくれたり、うちは悪くないって庇ってくれたりしたけど……アンチからは、ウザ――んんッ! ……厳しい意見を貰うこともありました」

「そのとき、君はどう感じたのかな?」

 次は教頭が尋ねた。


「……マジで悔しかった、です。うちのことはまだいいんですけど、学校の悪口とか、ダンス部のことまで言われて……うちらのことなんて今まで知らなかった人らが、あの動画だけ見ていろいろ言ってきて……嫌でした」

「ふむ。実際、我々もここまで事が大きくなるとは思っていなかった。だからこそ判断に慎重を期すためにこういう場を設けることになったわけだが。……そうだな、君は何が一番悔しかったのかな? 悪口を言われたこと? 部外者にとやかく言われたこと?」

「…………」


 亜久里が黙り込む。

 先程まであれほどハキハキと答えていた分、その沈黙はことさら教員達に強く印象を残した。


「うちは……最初、そんなに悪いことをしたと思ってませんでした。こういうことになった後も、自分の心配ばっかして……でも、いろんな人がうちのために動いてくれて……」

 亜久里の目が少し泳ぐ。

 教師達は亜久里を急かすことなく、彼女が自分の答えを言葉にするのをじっと見守った。


「それで、思ったんです。いいとか悪いとかじゃなくて、うちは……こんなに大勢の人に心配かけて、迷惑もかけてたんだって。うちは何よりそれを反省しなくちゃいけなかったのに……自分のことばっかり考えてました。……それが悔しいです。自分の、自分勝手さとか、不甲斐なさとか……。そういうの、です」


 先程とは打って変わった、たどたどしい物言い。

 ――だが、だからこそ教師達の胸に響くものがあった。

 暗記した文章を読み上げるだけの言葉にはない、亜久里本人の心がこもっていた。


 傍聴していた教師達が顔を見合わせる。

 何かに納得したように頷くと「分かりました」と教頭が一言言った。

 言葉自体は淡白だったが、教育者として生徒の反省の意をしっかりと汲み取っているように見えた。


「――あの、いいですか?」

 不意に声をあげたのは、亜久里の隣に座っていた舞原瑠美だった。

 担任が許可すると、瑠美は厳かな会議の空気にも怯むことなく話しはじめた。


「亜久里――乾さんに動画の撮影と投稿を依頼したのはあたしです。目的は新設したばかりのダンス部の宣伝のためです。それで……騒動のあと、ダンス部のMeTubeチャンネルの登録者は八倍以上に増えました」

「……えっと、それで?」

 瑠美の言葉の真意が分からず、担任が聞き返す。


「つまり、乾さんは昴ヶ咲高校の部活動の宣伝にメチャクチャ貢献してくれたんです。それは学校にとってもメリットじゃないですか? 今回、乾さんの悪いとこばっか注目されてますけど、ちゃんとプラスになった面も見てあげてください。少なくともダンス部の皆は乾さんにめっちゃ感謝してます」

「ルミルミ……」


 ほう、と丞が感嘆の息を漏らした。

 これまでの想定問答では出なかった着眼点。なるほどそういう切り口もあったかと感心した。


「だから……今回の一件だけで乾さんのチャンネルをなくすとかは、マジで無いと思います。チャンネルが残れば、もっと別の……学校にとっていい使い方だってたくさんできると思います。そのチャンスを奪わないでください。お願いします」


 瑠美はそう言って頭を下げた。釣られて亜久里も頭を下げる。

 場の空気が明らかに二人に対して好意的に傾くのを、丞も肌で感じられた。


 ――本来なら、この会議のピークはここなのだ。

 教師達が質問をし、それを受けて処分を決める。これだけ反省の気持ちをしっかりと述べられれば、普通の教育者であれば「今後は気をつけなさい」と言って、それで終わりだろう。

 ここまで入念に備えてきた丞にとってはヌルく感じてしまうが、問題行動を起こした高校生への処分など、普通はこれくらいのスケールなのだ。

 なぜそうならないかは、もちろん……


「――いい面にも注目しろという話でしたが」


 そんな甘えを許さない『氷姫』。

 鬼の生徒会長、音姫美弥子がこの場にいるからだ。


「なら悪い部分にもしっかりと目を向けるべきだと思います。――先生」

「な、なんですか?」

 担任が若干たじろぎながら応える。


「私は今回、MeTubeなどのSNS文化に関する参考人として招致されたはずでしたね?」

「は、はい。そう聞いています」


 比較的新しい文化であるため、年配の教師陣では正確な審判を下せないという理由――半分は建前だが――で、美弥子はアドバイザー的立ち位置でここにいる。

 その立場を弁えここまで口を挟んでこなかったが、とうとう美弥子が議論に介入した。


「ちょうどその話題に移ったようですので、ここからは私の方でお二人に質問をさせていただいてもよろしいですか?」

「……えっと、どうですか、二人は」


 担任が亜久里と瑠美に問いかける。

 暖かく和みかけていた場の空気が、一気に氷の刃に貫かれたように冷えて張り詰める。

 教師陣もいよいよかといった面持ちで二人の様子を観察している。


「――望むところです」


 亜久里がそう言い放つと、美弥子は軽く鼻をならして椅子から立ち上がり、檀上前の長椅子まで移動した。

 亜久里と相対する形で向き合い、静かに火花を散らす。

 さながら法廷で睨み合う弁護人と検察のような構図だった。


「……悪い部分ってどういう意味? 今回の騒動の件?」

 瑠美もまた毅然と美弥子に向かい合い言葉を交わす。


「それは別です。乾さんのチャンネルの、良い点、悪い点、今回の騒動、この三つは切り分けて考えましょう」

「……よく分かんないんだけど、何が言いたいわけ?」

「今回の騒動は、言ってしまえば『乾さんの不注意』によるもので、チャンネルの良し悪しとは別の話だと考えます。その上で、乾さんの動画が昴ヶ咲高校の宣伝に寄与した面があるというのも事実だと思います」

「……」


 怪訝な表情を浮かべる亜久里と瑠美。

 内容だけ聞くと亜久里を擁護しているかのようにも聞こえる不気味な幕開け。

 だがもちろん美弥子の真意は別にある。


「舞原さんの言い分は、『乾さんのチャンネルは昴ヶ咲高校にも影響を与える力がある。だから簡単に潰したりするべきではない』というもので間違いないですか?」

「――ッ」


 丞の顔が強張る。今の美弥子の言葉は罠だと見抜く。

 だが普段レスバなどしない瑠美はあっさりとその罠を踏み抜いてしまう。


「そうです。それがなに? どっか間違ってる?」

「いいえ。私も同じ意見です」

「……? じゃあ……いいじゃん別に」

「いいえ、まったくよくありません。なぜならあなたが今言った通り、乾さんのチャンネルが昴ヶ咲高校にを与える可能性も大いにあるからです」


 本来の瑠美の主張は、『今回の騒動は学校にとって、悪い面だけでなくプラスの面もあった』だ。

 それを考慮してくれと頼んだだけで、マイナスの効果については言及されていなかった。

 だが美弥子は主語を歪め、『亜久里のチャンネル』と『学校への影響』を無理矢理紐づけた。

 それを気づかせないまま言質を取り、『亜久里のチャンネルが不健全だと学校にも悪影響を及ぼす』という式を提示したのだ。


「だ、だから! うちはもうこんな失敗繰り返さないって言ってんじゃん!」

「それは当たり前です。それ以前の問題として、そもそもあなたが普段行っている配信活動が不健全なものであれば、それだけで学校の評判に傷がつきかねないんですよ。――と、仰りたいんですよね舞原さん?」

「そ……れは……」

「『学校への影響力を持つ』というのはそういうことでしょう? いわば学校の代表として相応しい活動をしていなければならない」


 ――詭弁だ。話を拡大解釈させすぎている。

 もちろん一般常識として、学生は所属する学校の一員としてその看板を背負うことになるだろうし、不名誉な行いが学校の評判に傷をつけることも気を付けなければならない。

 だが美弥子の言い分ではいきなり亜久里が学校のMeTube代表のような扱いになっているし、その行動が即座に学校に多大な影響を及ぼすかのような過剰な危惧を強調している。


「……あ、あたしは……」

 ……が、瑠美はそれを指摘できない。


 美弥子の言葉のカラクリに気づけず、自分の主張がどこで捻じれてしまったのかも分かっていないだろう。

 だが『あなたが今言ったことですよね?』と釘を刺されて安易な否定ができなくなってしまい、口ごもるしかない。

 そんな瑠美の様子を傍聴し、教師陣の放つ空気が変わる。

 美弥子がことさら強調する『学校の評判』というキーワードは、彼らにとっても無視できない要素だ。


「――てかさ、なんでうちのチャンネルが不健全なものって決めつけてんの?」

 その状況を打ち破ったのは亜久里だった。

 持ち前の負けん気さで、怯むことなく美弥子に突っかかっていく。

 いや、むしろ今までの緊張がほぐれ、いつもの調子が戻ってきていた。


「要は健全な配信をしてればいいんでしょ? 別にうち変な配信してないし」

「あの、音姫さん。そもそも健全か不健全かって、どうやって判断すればいいのかな?」

 亜久里の言葉を受けて、檀上でやりとりを見守っていた担任が質問を投げる。


「一般的には、投稿しているプラットフォームの規約に照らし合わせるのが無難でしょう。――乾さん、あなたは以前、MeTube運営からガイドライン違反の警告を受けていましたよね?」

「うぐっ……!?」


 亜久里が目に見えて動揺する。丞も少なからず驚いた。そんな情報まで仕入れていたとは。


「あ、あれは! 肌色のパジャマをバカAIが裸だと誤判断しただけだから! てかめっちゃ昔の話じゃん今関係なくない!?」


 確かに以前そういうトラブルがあったのは事実だ。そしてそれをいつかの配信で愚痴っていたのも丞は覚えている。

 だがかなり遡らなければそのアーカイブは見つからないはず。

 ……やはり美弥子もこの会議のために入念に準備をしてきている。


「不服に思ったのなら再審査を請求すればよかったのでは?」

「し、したけど……通らなかったの。でもそれは運営のミスだから! うち悪くないし」

「つまり、少なくともMeTube運営があなたの配信を不健全なものであるとみなし、警告を出したのは事実ということです。――そして今回、二度目の事件があった。運営が出してくれた警告、その反省を活かせなかったということ。なら三度目もあると考えるのは当然では?」


「――ちょっと待って、それおかしくない?」

 亜久里が負けじと反論する。


「今回の動画は運営からガイドライン違反なんてくらってないから。なんでそれを『ツーストライク』にカウントしてんの? あんたの理屈だと今回の動画は不健全な動画じゃないってことになるじゃん」


 美弥子が小さく、ほう、と息を吐く。

 亜久里からこういう的確な反論が返ってくるのが意外だったようだ。


「今回の動画は、MeTubeの規約には違反していなかったが、ネット社会のモラルには反していたから批判を受けた形になります」

「ならMeTube関係ないじゃん!」

「MeTubeの規約はネット社会のそういった規範にも基づいている部分があります。無関係ということはないでしょう」


「――ッ! それは違う!」

 亜久里が突如声を張り上げる。


「MeTubeの規約はあくまでMeTubeが営利目的で定めてるだけだから! スポンサー企業が広告を載せたいと思える動画かどうかを判断してるだけ! そんな一企業の一コンテンツの基準をネット社会全体の規範って取るのは間違ってると思います!」

「…………フン」


 美弥子が不愉快そうな表情を、傍聴席にいる丞に向ける。

 亜久里らしからぬロジカルな反論。しかも早口ですらすらと言ってのけたことから、丞の入れ知恵だと感づいたようだ。

 備えていた想定問答の成果だ。


「あくまでMeTubeの規約は無関係だと言い張るなら、やはり最後は結局、昴ヶ咲高校があなたの配信活動をどう判断するかの問題ということになります。そうですね、先生?」

「え、あ、ああ。そうなるけど……それをネット文化に疎い先生方だけで話し合うと判断しづらいから、こういう場を設けたわけで……」

「そのための参考人が、もう一人招致されていますよね」


 美弥子の言葉で、多目的室にいる全員の視線が丞に集まった。

 それを一身に感じながらも、丞の視線はまっすぐ美弥子を射抜いていた。


「彼の意見も聞いてみませんか」

「そうだな……袖上君、いいかな?」

「――もちろんです」


 これまで徹底して沈黙を貫いてきた丞がついに立ち上がり、檀上前に歩き出した。

 亜久里の隣まで歩み寄ると、彼女と目が合った。

 亜久里は一目見て安心したような、丞が隣に来て頼もしそうな表情を浮かべた。


 見ると、亜久里の指先が長机の下……膝の上で小刻みに震えていた。

 美弥子と気丈に戦っているように見えたが、実際は心細かったようだ。

 丞は優しく微笑みかけると、持参したノートパソコンやスマホを机の上に並べて着席した。


「自分のチャンネルが健全かどうか、乾さん自身と論じ合っていても埒があきません。詳しい第三者の意見を交えて判断したいので、袖上さん、ご協力お願いできますか?」

「喜んで」


 丁寧な口調でやりとりする二人だが、場の空気は異常なほどピリついていた。

 教師や瑠美、隣で見守る亜久里すら思わず生唾を呑みこむような鋭い気迫がぶつかり合い、議論はいよいよ本番へと突入した。


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