第3章 好きだから論破したい

11話 【踊ってみた】昴ヶ咲高校ダンス部の踊りが神すぎた件!

『――アイアムアグリー、ユーアグリー。どうもー愛♡アグリーチャンネルでーす』

 画面に元気いっぱいの亜久里あぐりの笑顔が映し出された。


『今日はちょっと変わった企画で動画を撮ってまーす。まずは皆に紹介したい人達がいます。――それでは、どうぞー!』

 亜久里がカメラを向けると、映る風景が一気に広がった。

 そこは昴ヶ咲高校の屋上だった。その中央に、五人の女子生徒が横一列に並んでいた。


『どうも! 昴ヶ咲高校ダンス部、『フェアリーリング』のキャプテン、ルミです!』


 脱色して白に近くなったロングヘアに、そこそこ派手なメイク。

 亜久里とはまたベクトルの違うギャルだった。

 彼女は舞原瑠美まいはらるみ。入学から二年続けて亜久里のクラスメイトで、特に仲のいい友人だ。

 パッパラー! という効果音と共に、可愛い丸文字のフォントで『フェアリーリング』と紹介テロップが画面に映し出された。


『うちの学校にはダンス部がなかったんだけど、去年チア部から独立したんだよね』

『そうなの。だから部が出来てまだ数カ月しか経ってないし、まだ部室も準備中だから屋上で練習してます。今はまだ何もない部だけど、あたし達、本気で夏の大会に出場するつもりです!』


 いつになくかしこまった様子の瑠美。

 だがその目線だけは力強いものがあった。


『はい、ってわけでぇ~? 今回はうちの大親友のルミルミ率いる、フェアリーリングの皆とコラボ動画でーす! 皆―、お願いだから最後まで見てあげて! てか後でダンスパートあるから! そこまでは見てお願い!』

『お願いします!』


 瑠美が頭を下げると、他の四人も一斉に『お願いします!』と一礼した。


『あ、そうだ。フェアリーリングの公式チャンネルもあるんだよね?』

『あります! あたし達の練習風景とか、日常の出来事とかを紹介してます! 是非チャンネル登録してください。お願いします!』

『ねえねえ、今登録者って何人くらいなんだっけ』

『いやちょっともう勘弁してよ…………四二人です!』

『その内一五人は身内でーす』

『それを言うなて!』


 瑠美が亜久里の肩を小突くと、他の部員たちが楽しそうに爆笑した。

 亜久里と瑠美も同じくケタケタと笑う映像に、『フェアリーリングの公式チャンネルは概要欄からどうぞ!』というテロップが表示される。


『いやぁ亜久里さんほんとありがとうございますぅ~。登録者三万人目前の亜久里さんのチャンネルとコラボしていただけるなんてぇ~』

 瑠美が甘ったるい媚びた声で亜久里の腕や肩をサスサスと撫でる。


『今までで一番亜久里さんと友達でよかったと思ってますぅ~』

『ちょ、これが一番とかマ? 今日帰りにクレープよろね?』

『うーわ友達からコラボ料取るとか、おめえ変わっちまったな。毒されちまったよMeTubeに』


 互いにニヤニヤと笑いながらじゃれ合う二人。

 『今日で親友やめます』というテロップが表示される。

 周りの四人は相変わらず楽しそうに二人を眺めていた。


『さーて、それじゃあ早速、ダンスを披露してもらえますか皆さん!』

『はい! お願いします!』


 亜久里が言うと、ルミも列に戻ってダンスの準備を整えた。

 画面外で亜久里がなにやらゴソゴソと物音を立てる。ダンスに使う音楽を流す役割らしい。

 しばらくするとカメラは亜久里の手から離れて何かの上に設置され、ダンス部の五人を定点で映した。


『それではいきます! 昴ヶ咲高校ダンス部、『フェアリーリング』の皆さんのパフォーマンスです! お願いしまーす!』


 亜久里の声と共に流れ出す音楽。ダンス部のパフォーマンスが開始された。

 ダンスは約一分半。今流行りのアニメソングにオリジナルの振り付けを付けたものだった。

 ダンスが終わると、亜久里一人分とは思えない大きな拍手が出迎えた。


『すごーーい! 超カッコいい! マジエモイ! マジサイコー!』

 惜しみない賞賛を送る亜久里に、フェアリーリングの面々は深いおじぎで応えた。


『ありがとうございます! あたし達、まだ粗削りだけど、精一杯頑張ります。皆さん、応援よろしくお願いします!』

『うちめっちゃ感動した! ルミルミ凄い! 夏の大会も絶対応援に――』


 ――そのとき、ガシャーン! と遠くでガラスが割れる音をスマホが拾った。


『え、なに今の?』

 亜久里がスマホと一緒に移動。画面が激しく揺れ、しばらくすると一点で安定した。

 屋上から見下ろす形でグラウンドの様子が映される。

 どうやら野球部が送球を誤り、校舎のガラスを割ってしまったらしい。


『あちゃー、なんかやっちゃってるっぽいね。せっかく動画の締めだったのに』

『いいよ全然。亜久里のチャンネルに載せてくれるだけでありがたいし』


 小さく『野球部には後で苦情入れておきます』とテロップが表示され、最後に亜久里が自撮りの要領で自分とフェアリーリングの五人を映した。


『それじゃあ皆、フェアリーリングの応援よろしくね! あ、もちろんうちのチャンネルもね! チャンネル登録と高評価よろしく!』

『よろしくお願いしまーす』

『それじゃ、おつあぐでーす』


 そのシーンの直後、チャンネル登録と他のオススメ動画を促すエンディングが流れ、動画は終了した。




「……なるほどな」

 動画を見終えたたすくは、とりあえず状況は理解できた。


 同じく学校の屋上で動画を再生させ、動画と同じようにカメラを移動させ、同じ角度で屋上を映し、その後同じようにグラウンドを映した。警察の現場検証の真似事といったところか。

 割れたガラスはもう新しいものに取り換えられ、昴ヶ咲高校は既にいつもの平穏を取り戻しているかに見えた。


「……これは厄介だな」

 もう一度動画を確認しながら、丞は深く嘆息しつつ左手で頭を抱えた。


 ……この動画が亜久里のMeTubeチャンネルにアップされたのが、およそ十日前。

 そして現在――この動画はネット界隈で絶賛炎上中だった。


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