第24話 王子は悪事ができなくなった

「むしろ、おめでたい関係の間柄に私などが交えていただいてよろしいのですか?」

「だってアエルは私の親友でしょ。親友をお姉さまたちに紹介して輪を広げて行きたいの。これからの貴族会はそういう社会にするのよ」

「はい?」

「お姉さまのおかげでおかしな社会を無理やりにでも変えてやる覚悟が持てたの。もうすぐアエルの家にも伝達が届くはずよ。楽しみにしていてね」

「は、はぁ……」


 しばらく雑談をしてわかったことがある。


 シャーリャ王女は今まで縁談を全て断っていたが、話だけは聞くようになったという。

 その中に、少しだけ気になる人が現れているのだとか。

 しかもその相手がアエルのお兄様だそうだ。


「お姉さまのおかげで私にも春が訪れそうですわ」


 私とレインハルト様だけでなく、シャーリャ王女にも春が来たようだ。

 アエルも、シャーリャ王女が頑張って改革をしてくれたおかげで、良い婚約相手を見つけられると思う。

 アエルの性格ならすぐに見つかると思うし、男たちから寄ってきそうな気もするが。


 私の誤解で周りを散々かき乱してしまったようだけれど、奇跡的にも良い方向に事が進んでくれたみたいでホッとしている。

 どうやら、私は悪女になりたくともなりきれなかったようだ。

 これからも、昔と変わらず善良な令嬢でいることにしよう。


 ♢


 シャーリャ王女の部屋から退出し、王宮を出ようとしたときに正面から最も会いたくない人間がこちらにむかってきた。


「ミリアナ!! きさまがシャーリャをたぶらかし、くだらん政策を作らせてしまったのだろ!?」

「げ……、王子」

「答えろ。そしてこの責任はどうとるつもりだ!」


 昔から大嫌いで、前に社交界で王子がふざけたことをしていたから注意した記憶がある。

 今回もあまりにも理不尽なことを言ってくるものだから、私もカッとなった。


「責任もなにも、シャーリャ王女の考えた政策は私としてもありがたいことですし、貴族界が平等になったらこれ以上喜ばしいことはないかと思っていますので」

「ばかかお前! これから公爵夫人になるのだろ? 貴族の中でもエリートになって、なんでも自由になり、威厳をいくらでも発言できる環境になる立場になるはずだったんだぞ。それを捨ててでもこんなくだらん平等化を肯定するつもりか?」


「えぇ。おかげで王子に対しても堂々と文句を言えるようになるのですから。これからはお互い対等になるのです。今までの身勝手な行動には遠慮なく文句を言いますので」

「ぐ……この悪女め……」


 王子はそれ以上なにも言えず、逃げるように去っていった。

 王子のワガママでいったいどれだけの民衆が苦しんでいたことか……。

 それもシャーリャ王女の政策のおかげで変わるだろう。


 私は一安心して、このあとお父様の管理する領地へと向かった。

 まさかこの後、領地の人たちからだけでなく、国中の人たちからなぜか私までもが感謝されてしまうなど考えもせずに……。

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伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜 よどら文鳥 @yodora-bunchooo

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