第15話【シャーリャ王女視点】

 ──レイハルは私のもの。

 私はそう思っていたし、政略的に考えればレイハルと婚約するものだと確信していた。


 ♦︎♦︎♦︎


 一年前、私の運命が変わってしまった。

 どういうわけかフランフール伯爵家のご令嬢ミリアナさんがレイハルと婚約が決まってしまったのだ。

 もちろん当時、お父様に理由を聞こうとした。


「お父様、なぜレインハルトが伯爵家の人間と婚約を結んだのですか!?」

「フランフール伯爵家の偉大な功績を考えれば、当然の流れだと思うが。本来ならばシャーリャよ、お前がレインハルトと婚約してもらう予定だった」

「だったらなぜ……」


 私だって、フランフール伯爵が我が身を削ってでも働きづくめる人間だということくらいは知っている。

 過労死してもおかしくはない。


 伯爵が所有している領地での食料生産量だけで、国の大半を補えている。

 これもフランフール伯爵が日夜対策と的確な指示をしてきたからだ。


 だが!

 だからと言って、なにもしていないミリアナさんがレイハルと結ばれるのは違うじゃん!


「私は忙しいのだ。シャーリャのワガママや戯言にかまっている暇はない」

「ひどい! いつもそうやって子供の気持ちを無視するのですよね! お父様だけじゃないわ! 上位の貴族はみーんな地位や名誉にこだわって自分勝手──」

「すこしは黙らぬか!」

「いえ、黙りませんわ! 私だけじゃないもの。お茶会で知り合った子も意中の相手がいたのに別の人と婚約を無理やり決められて……」

「当然のことだ。子は親に従い、貴族としての任務を全うするのが仕事だ。良い加減、王女という立場であることをわきまえよ!!」


 これ以上訴えても無駄なことはわかっている。

 もうなにも言い返せなかった。


 ♦︎♦︎♦︎


 あれから一年もたったのね。

 少しは気持ちを改めた。


 赤ん坊のころの記憶はないけれど、私は生まれたころからレイハルとずっと一緒にいた。

 お父様たちが多忙だから使用人たちに子育てを任せるのが一般的かもしれない。

 だが、なぜかは知らないけれど、親族だけで育てたいという想いがあったそうだ。

 その結果、私はレイハルに育ててもらったようなもので、小さいころは毎日ずーーーーっと一緒だった。


 私の大事なだいじなお兄ちゃんがレイハルだ。


 少し前までは、レイハルが婚約したとしても、私のことをしっかり見てくれればそれでもいい。

 そう思っていた。

 だが、レイハルとミリアナさんの婚約が決まってからというもの、レイハルの仕事が多忙になった上にミリアナさんばかり相手していて、私との接点は消えた。


 ミリアナさんについては過去に何度かコンタクトをとったこともある。

 私の考えているようなことを全て代弁して上位貴族にも恐れずに訴えてくれる女神みたいな印象だった。

 ときにはわがままで横暴な私のお兄様にも立ち向かう女勇者のようにも見えたことすらある。

 みんなからは怖がられているけれど、本当は誰よりも優しい人だ。


 だが、レイハルを奪われて心が痛いのは変わらない。

 だからこそ、ミリアナさんを見かけたとき、あんなことを言ってしまったのだ。


「実はレイハルも私のことを愛してくれているのですよ」


 当然ミリアナさんを困惑させてしまった。

 しまいには、王族の権限で脅迫するようなことまで言ってしまったのだ。

 自分に嫌悪感を抱いて、その日はレイハルに用事があったのにそのまま逃げるように退散した。


 どうしてあんなことを言ってしまったのか。

 王女として全身全霊で威厳を出して演技をしていたけれど、本当は文句を言いはじめた自分が辛かった。


 今度ミリアナに会う予定を作って、謝罪したい。

 だが、レイハルのことは大好きだし私自身どうしたらいいのかわからない。


 いっそのこと、王女なんてやめてむしろ悪女にでもなってやりたい放題したい気分だ。

 今度ミリアナに会ったときは正直に伝えようと思う。

 その前に、男爵令嬢のアエルちゃんに相談しておこ。


 お父様たちは王女として底辺貴族の人間とは深く関わるなと言われているけれど、あの子に関してはガン無視して仲良くしたい。


 早速、私はコッソリとアエル宛に手紙を書いて呼び出しの連絡をしておいた。

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