第4話 親友のアエルに相談してみた

 昨日のレインハルト様の様子は明らかにおかしかった。

 王族を侮辱したのだから、一発で監獄に放り込まれてもおかしくないほどの言動だったはず。

 それなのに、なにも処罰がなかったどころか、むしろそのあとのレインハルト様の機嫌が非常に良かった気がする。


 こんなことでは私に婚約破棄を申し付けてもらうことが難しい。

 私一人ではこれ以上悪女っぽい行為が思いつかなかったため、私に恋愛小説を提供してくれた友達に聞くことにした。


 外で護衛に待機してもらっているが、静かなカフェの中で友達を待っていた。


「お待たせして申し訳ありませんミリアナ様」

「来てくれてありがとう~。アエルも紅茶で良かったかな?」

「待っててくださったのですか!? ありがとうございます!」


 アエル=サムマーリは男爵家の令嬢で、私よりも二歳年下で十三歳だ。

 私の両親からは「伯爵令嬢としてあまり下の人間と仲良くするな」などと言われていたこともあった。

 もちろん無視した。


 だが、彼女はお茶会で知り合って、小説関連の話で意気投合した私の親友である。

 たとえ誰がなんと言おうとも、私は彼女と仲良くしていくつもりだ。


「ひとまずお菓子も注文して一息しよっか」

「はい!」


 それぞれに用意された紅茶を飲んで、お菓子も口の中へ入れる。

 むしろ、それくらいしないと落ち着いて話せる状況でもなかったし。


「ところで、急に呼び出しちゃってごめんね。実は、アエルに相談したいことがあって……」

「はい。私でよろしければ!」


 いきなり本題に入ることにした。


「私、悪女になって婚約破棄される方法を知りたいの」

「ぶぶふふっふっううううう!!」


 アエルが盛大に紅茶を吹きだした。

 テーブルの上がアエルの紅茶で汚れてしまった。


「申し訳ございません! げふぅっ……、ミリアナ様に紅茶吹きかかっていませんか!?」

「むしろ、今の謝罪で少しかかった」

「ますます申し訳ありません!!」

「いいよ別に、気にしないで」


 私は持っていたハンカチで顔を拭いてから、テーブルの上も綺麗にふいた。


「ミリアナ様は優しすぎですよ……」

「それよりも大事なことなのよ! どうやったら悪女になれるかな?」

「本気なのです……?」

「もちろんよ! 色々と理由があるんだけど、そこは詮索しないでくれると助かる」

「は、はぁ……」


 伯爵令嬢という立場もなにもあったもんじゃない。

 アエルは相当なまでに呆れているのだろう。

 だが、私はアエルにしか頼ることができないのだ。


「つまり、ミリアナ様はなにかしらの事情で、小説に出てくるような悪役令嬢を演じたいと?」

「演じるっていうよりも本物の悪役令嬢かな……」

「うぅぅん……どうしてそういう発想になるのかわかりませんねぇ……」


 私だって本来ならばこんなことはしたくない。

 だが、とにかくレインハルト様のことを愛しすぎてしまっているから、相手側が綺麗さっぱりと別れることができる雰囲気を作らなくてはいけないのだ。


「あ、そういえば!」

「なになに?」

「毒というのは」

「毒!?」


 いや、さすがにレインハルト様やシャーリャ王女を殺すつもりは微塵もない。

 そんなことをしたら本末転倒なのだから。


「もちろん、ミリアナ様が悪女になるからと言って、本物の毒を使うようなことがあったら私でも全力で阻止しますよ」

「じゃあ毒って……?」

「例えばですけれど、対象相手の嫌いな食べ物をふんだんに使った料理をあげるとか」

「おぉ……」

「毒ではありませんけれども、嫌いな食べ物を受け取ったら嫌な気分にはなると思うんですよね」

「アエル天才じゃん!!」


 レインハルト様の嫌いな食べ物は知っている。


「お弁当を作りましたぁとか言って、毒の代わりに嫌いな食べ物のオンパレードだったら、絶望になりますよね」

「うんうん、それだったら私にもできそうだなぁ!」

「しかし……そんなことをしてなにか目的でもあるのですか?」

「まぁ、ちょっと複雑な事情があってね」


 アエルに相談して正解だった。

 これだったら、いざとなってヘタれてしまう私でもできるに違いない。

 だって、レインハルト様と会っているときに弁当を渡しさえすれば目的は達成できるのだから。


「アエル、ありがとうね!」

「いえ。なんだかわかりませんがご武運を」


 このあと、アエルと新作の小説の話をしたり、日頃の雑談をしてから解散した。

 有意義な時間だったなぁ。


 さて、それではさっそくレインハルト様の嫌いな食べ物の調達をしてから料理をしますか。


 両親からは、「伯爵令嬢たるもの、料理などする必要はない」などと言われてきた。

 もちろん無視してきた。

 料理はやってて楽しい。

 いつの間にか私は料理に没頭していて、両親も呆れたようで誰も止めるものはいなくなったのだ。

 私の料理スキルは、この日のために鍛えていたのかもしれない。

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