第5話 レインハルト様の嫌いな食べ物を詰め込みまくった弁当

「今日は随分とウキウキ気分なのだな」

「はい、とっても♪」


 そりゃそうだ。

 やっと婚約破棄をしてもらうための準備が整ったのだから。


 この日のために、ほぼ徹夜で料理を作って、嫌われそうなレシピを発明したのである。

 これをレインハルト様が食べてくれれば、きっと吐き出して毒だのなんだの言って騒ぎになるだろう。


「今日は、このまま庭園でお弁当を一緒に食べたいなと思って、作ってきたんですよ」

「なんと!? ミリアナが作ったのか!?」

「もちろんですぅ~!」


 順調順調~。

 これだったら簡単にレインハルト様を怒りモードにして、私はあっという間に嫌われ……。

 あんまり先のことを考えることはやめておこ。


 せめて、最後くらいはレインハルト様と一緒に、外でご飯を食べることを楽しみたいし。


「怪我しなかったか? 指切ったりとか火傷したりとか……」

「え? 大丈夫ですよ。この日のために料理をずっとやってきていたようなもんですし」


 私は無意識にありのままの事実をそのまま伝えた。

 すると、どういうわけかレインハルト様が私と反対側を向いてハンカチで目の近くにあてていた。


 泣いているのか……?

 いや、まだ弁当の中身を見せていないし、ショックで泣くような場面にはなっていないのだが。


「すぐに食べたい!」

「へ? あ、はい。わかりました……」

「あまり気が乗らないのか?」

「いえ、そんなことはありませんよ。木の影にでも行きましょうか」


 弁当は最後の最後にしたかった。

 もう少しだけ、二人きりの時間を堪能しておきたかったのだ。

 だが、レインハルト様の希望には従いたいため、計画よりも早い段階でお昼ご飯になった。


「はい、これがレインハルト様のお弁当です~」


 名付けて『婚約破棄してくださいスペシャル』とでも言っておこう。

 実際に完成させるまでかなり苦労した。


 レインハルト様の嫌いなニンジンとセロリ、キノコ類をどう調理するかで迷った。

 私は、どうせ嫌われるのだしやるならとことんやろうと、一捻りを加えてみたのだ。


 まずニンジンとキノコをこれでもかというくらい細かく刻んで、それを他の具材に混ぜ込んだ。

 完成したものは、ニンジンとキノコがたっぷり入っているが、見た目はただのオムライスである。

 これは食べた瞬間に「おのれミリアナめ……」などとなり、私へ怒りが向くことだろう。

 見た目がわからないまま食べる運命になってしまう、いわば詐欺同様の悪女的行為である。


 続いてセロリだが、これも誤魔化してみた。

 生のままは私も嫌いだから、火であぶり更に調味料を使って独自の味付けに変えてみた。

 これもガリッとした瞬間にセロリの味が口の中に広がる仕組みになっている。

 嫌がらせにも程があるよな……、と思いつつ作ったレシピだ。


 更にニンジンをすりつぶし、似たような色のオレンジもすりつぶして混ぜ合わせた。

 これでオレンジミックスニンジンジュースの完成である。

 知らず知らずのうちのゴクリと飲んだら悲鳴をあげるだろう。


 自信作の弁当をどーーんとレインハルト様に手渡した。


「ありがとう。蓋、開けて食べてもいいか?」

「もちろんですよ。全部食べてくださいね~」


 あぁ、私ってば本物の悪女になってしまった。

 今までも両親には無意識に反抗ばかりしてきたけれど、今回は異常だ。


 ついにレインハルト様がなにも知らずにオムライスを口にした。


 さようなら私の短かった幸せな日々……。


「これは……!」

「どうでしょうか?(こんなもの食えるかぁ、婚約破棄を宣言するって早く言ってくださいね)」

「美味い……!」

「は?」


 私は口を開けた状態で、そのまま固まってしまった。

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