第6話


「朝奈~。お見舞いに来たぞ~」


「ゆうくん! 来てくれたんだ!」


 病室のベットに腰かける彼女を見た。

 満面の笑みを浮かべる彼女はいつもと変わらない様に見える。


 元気な声で手を振り、迎えてくれる彼女は俺の知っている朝奈だった。


「おう。思ったよりも元気そうだな」


「だから言ったでしょ? ちょっと体調崩しちゃっただけだって」


「良かったよ」


 彼女は、申し訳なさそうな困った顔をした。


「ごめんね。一緒に大学行けなくて」


「良いよ。体調を治す方が優先だろ?」


「うん。そうだね!」


 彼女は控えめにはにかんだ。


「大学はどうだったの?」


「あぁ。校舎が結構きれいでな。だけど広すぎて迷子になった」


「え~めっちゃ楽しみ!」


「学食の他にカフェみたいなのも入っててな。良くなったら一緒に行こうか」


「うん! それじゃあ早く治さなくちゃね」


 両腕で握り拳を作る彼女。

 あぁこれならきっと遠くないうちに、彼女と大学生活を楽しめるだろう。


 ふと視線の端にオレンジ色の花が見える。


「きれいだな。誰かお見舞いに来たの?」


「そう~。お母さんとお父さんが来てくれたんだ」


 朝奈の両親は県外にいるはずだが、娘が心配だったんだろうな。そりゃそうか。


「そうだったんだ」


「あれ~、ゆうくんはお土産はないの~?」


「あー。学校からそのまま来たから何も持ってきてないや。今度何か買ってくるわ」


「ふふふ。楽しみにしてるね」


 いたずらっ子のように笑う彼女。

 とっておきの物を持ってきてやろう。

 そう思った。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る