異世界あるある
「さて坊ちゃん、まずはアンタのステータスを教えてもらおか。
何を鍛えなアカンか分からへんからね」
路地裏での惨めな一夜を過ごした次の日の朝、寝不足な俺に対し、元気一杯といった感じのロリメイド姿の師匠ことレイシアさんが聞いてくる。
「路地裏で野宿したってのに、何でそんなに元気なんすか、年の功っすか。
ステータスオープン」
元気な高齢者の相手は疲れるね、そう思いながらステータス画面を出してみる。
すると目の前にステータスボードと言われる半透明な数値の書かれた板のようなものが浮かび上がった。
ハドリー Lv1
HP 2/10 MP 2/2
ちから 1
たいりょく 2
せいしん 2
すばやさ 3
ちせい 1
まりょく 1
つぎのLvまで10
「なんやこれ、ザッコいなぁ。ところで自分、HP減ってるけど、どうしたんや?」
「う、うごぉぉ、ア、アンタが腹パンしたんだろうがぁぁ」
年の功というワードに反応し、腹パンをしてきた
おそろしく速い腹パン、喰らったオレでなきゃ見逃しちゃうね 。
ていうか、HP残り2て。これって瀕死の重傷といってもいいのでは?
しかしクソガキ(領主の息子)の記憶からステータスの見かたは知っていたけど、実際見てみるとまるで昔ハマったゲームのようだな。
懐かしいなぁ、オルテニアファンタジー。
勇者アレクが15歳の女神の儀式でスキルを授かる日、魔物の軍団に村が襲われる。
村の人々が次々と倒されていく中、女神の加護とスキルを授かり勇者として覚醒する。
幼馴染たちの力を借りて、どうにか魔物の軍団を追い払ったアレクが見たものは破壊されつくした村と、一緒に戦った幼馴染の少年と姉のように慕っていた少女の2人の死体。
確かコタローとミーサだったかな?あの2人、実は軍団が襲ってくる前のチュートリアルダンジョンでレベル30まで上げればクッソ強くなるんだよな。
スライムしか出ないダンジョンで30まで上げるって、鬼クソメンドクサイよな。
よくそこまでレベルを上げたよなぁ、動画サイトでゲーム配信してた実況者さん。
確かそれに続いて他の実況者さんも試してみて、実はレベル30超えてからのステータスの上がり方が半端なく、勇者以上に強くなるという。
実はこの2人を殺すために魔物の軍団が襲ってきたんじゃないか、説まで出てきてたもんな。
でだ、思い出話は置いといて、俺のステータスを改めて見てみる。
……うん、誰がどう見てもザッコいです。すごく……ザコいです。
「うわぁ……わたしのステータス、低すぎ」
「ホンマやで。目も当てられへんとはこの事やな。ま、手が無いわけやあらへんけどな」
「マジでか?どうすればあのおっぱいを独占するクソ生意気なアレクの野郎をボッコボコに出来るんだ?教えてくれ、師匠!」
俺の脳裏には昨日、あの神のような、否、もはや宇宙といっても過言ではない胸と、将来に希望しか見出さない胸を弄ぶ、クソ野郎のにやけ面が浮かぶ。
「レベルを上げる事や!……というのは嘘で、地道に体を、戦闘技術を鍛える事や」
「え?レベルを上げたらステータスも上がるんじゃないの?」
「アホ、それが浅はかなんや。何もステータスはレベルアップだけで上がるもんやない。日々の地道な努力でも上がるんや。ウチが鍛えたった子たちもそうやった。
あれは冒険者として頑張ってた時や……」
老害の長い長い昔話が始まった。
要約すると、冒険者時代にパーティーを組んでいた後輩エルフ達(全て女性)を日ごろの訓練で鍛え上げ、ドラゴンやリッチ等、Sクラスの災害級モンスターを倒したそうだ。
で、その凱旋パーティーで、レイシアさんを除くメンバー(全て若い女性)全員が貴族の息子にプロポーズされてパーティー解散。……を以後3回も繰り返したそうな。
目の前で血の涙を流し「ウチかって、ウチかってなぁ、頑張ったんや!」と膝から崩れ落ち、地面をたたきながら咽び泣くレイシアさん。……惨いな。
レイシアさんとパーティーを組めば貴族と結婚できると、若い女性エルフの間で噂になり、いつしかレイシアさんのパーティーは〈婚活パーティー〉と言われるようになったんだと。
で、それが嫌でパーティーを組まずに冒険者を続けていたらしいんだけど、ギルドの偉いさん達から「さっさとパーティー組んでドラゴン倒せ」とせかされて、それが嫌になり逃亡。
流れ流れて長い旅の果てにお金も無くなり、止む無しにビブロー家にメイドとして就職。メイド服は変装用として持ってたそうだ。
「で、そのやっと手に入れた職もおっぱいがないからとクビになった、と。そりゃ憎みますよね、おっぱいを。長い旅の果てに手に入れた平穏な日々を、一切の揺れがない自分の胸が原因でクビになったんですから。挙句の果て、見せつけるように自分には一生できない胸で腕を抱きしめるという行為を見せつけられたんですから。そりゃ憎いですよ、恨みますよ」
「分かってくれるか、坊ちゃん!……とりあえずなんかムカつくからシバいとこか」
慰める体でディスったのがバレてしまい、再び腹パンされる俺。
一度目の腹パンですでにHP2だった訳で、いくら手加減されていたとはいえ、2度も喰らっちゃうと……
『ですから何度も言いましたが、ここはそう簡単に来れる場所ではないのですが……』
はい、またまたやって来ました、見慣れた白い景色。
ちぃーっす、女神様、また来ちゃいました。
『ところでレイシアさんの執筆活動は順調ですか?魔族と神族との狭間に揺れる主人公の気持ちがどうなるのか、続きが気になっているのですが』
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