俺たちの冒険はここからだ!(始まるとは言っていない)

オッスオラ加藤将!今はハドリー・ビブロー、今年で10歳!

仕事帰りにトラックにひき殺され異世界転生した、冴えないサラリーマンだ。

まぁ転生先の家族から追放されたので、ただのハドリー、10歳だけどな!

異世界転生といえば、チートスキルと知識チートで楽々スローライフ生活でウハウハ、そんな浅はかな考えをしていた昔の俺を説教したい。世の中は悪意に満ちている、とな。


「おらぁ!逃げんなこのクソガキ!」

「泣いたって許してやんねぇからな!」

「今までの恨み、思い知れや!」


まるで餓えたライオンの群れのように、俺を追い回す町中のご婦人たち。

普段は家族を見守る慈愛に満ちた優しい瞳は、今は殺気に満ち溢れ、そんな血走った目で俺を追いかけまわす。

つ、捕まったら終わりだ!物理的に終わっちまう!助けて!女神様!……女神の慈悲なんてなかった。

10歳の逃げ足では怒れるライオンの群れから逃げおおせるはずもなく、あっさりと捕獲され……


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」

「ドラドラドラドラドラドラドラドラドラ!」

「た、助け……あびゃびゃびゃびゃびゃ~!」


怒れるライオン群れに飲み込まれ、実家に帰るがごとく、女神様送りとなってしまった。


『以前にも言いましたが、ここはそう簡単に来ることができる場所ではないのですが』


実家のような安心感。白い景色と女神様の優しい声に、ライオンの群れに嚙み砕かれた俺の心と体はちょっとだけ癒される。


異世界転生してここが一番長くいる気がするんですが。ただいまって言った方がいいんですかね?


呆れた様子の女神様に、里帰りの如く、ここに舞い戻った理由を話してみる。

……というか、愚痴ってみる。


家を追放され、これからどうすればいいのか分からないので、胸が小さいとの至極正当な理由で一緒に追放された腐れ肋骨黒歴史レイシアさんに、これからどうしようかと相談したところ、


「好きにしいや、アタシに関係ないし。また職探さなあかんなぁ」


と、か弱き俺を見捨てて、どこかに行きやがったんだ!

はぁ?ふざけんな!と追いかけようとしたところ、何故か俺が追放されたと知っていた、怒れるライオンこと町のご婦人たちに追い回され、気が付けば女神様のもとに。


『その体の以前の持ち主の行いが原因とはいえ、あまりにも哀れです』


おお、分かってくれますか!女神様、そんな哀れな俺に、何か特別なチートなスキルを!


『でしたらわたくしの加護を授けましょう』


いや、呪いはマジ勘弁っす。


そんなくだらない意識での会話をしていると、白い景色が黒く染まり始める。

あ、そろそろ意識が戻るんだなと思った瞬間、肌寒さを感じ、目が覚める。


「って、ゴミ置き場じゃねぇか。って、身ぐるみ剥がされてるじゃねぇか!」


パンツ一丁でゴミ置き場に捨てられていた俺。

子供に一切の容赦ないライオンたち怖えぇ!

ライオンにビビり、狩場に足を踏み入れてはならないと心に刻み込みながら痛む足を引きずり路地裏のごみ置き場から大通りに出る。

そんな俺の耳に、言い争う声が聞こえてくる。


「だから、従業員は間に合ってるんだ!だいたいお前みたいなチンチクリンに何ができる?碌に料理も作れない、洗濯もできない。それでいて元メイドだなんてよく言えたもんだな。そのメイド服、どこで拾ってきたんだ?さっさと帰んな!」

「ぞ、ぞんなぁ~、もうどこもアダジを雇ってぐれなぐで、このままだと生活できないでずぅ~」

「体でも売ればいいだろ!って、金貰ってもお断りだな、そんな貧相な体じゃ」


どこかで聞いたことがある涙声の持ち主が、どうやら就職を断られている最中の様だ。


「さっさとどこか行かないと領兵を呼んで投獄してもらうぞ!」

「ふえぇぇぇぇ~ん!」


泣きじゃくりながら飲み屋から出てきた、メイド服に身を包むロリエルフ。

だが俺は知っている、この見た目はロリなメイドエルフだが、実際は500歳を超える高齢者だという事を!


「も、もうお金無いのにどうすれば……冒険者はもう嫌だし、でもお金がないと生活が」


と呟きながら、ぱちりと指を鳴らす黒歴史レイシアさん。

するとついさっき黒歴史レイシアさんが追い出されたばかりの飲み屋から爆発音が。


「だれが貧相な体や。まだまだ成長期やっちゅうねん」


や、やべぇ!客観的に誰もが認める事実を、的確に指摘されただけで爆破しやがった!

やっぱりこのエルフ、ヤバイやつじゃねぇか!


「で、坊ちゃん。パンツいっちょで何してんや?身ぐるみでも剥がされたんか?」


成長期という、過ぎ去った、もう二度と取り戻せない黄金期にすがる、見た目ロリメイドエルフが俺を見てニヤリと笑みを浮かべる。

こいつ、俺の金を狙ってるな?誰が渡すか!この金がなければ俺は生きて……無えじゃねぇか!


「うわぁぁぁぁ!俺の金が!生命線がない!ライオン共に持ってかれた!」


慌ててライオンを探そうと駆け出した瞬間、見覚えのある顔が目に入る。


「あいつは……勇者じゃねぇか。あんなにも胸のある笑顔が素敵なお姉さまに腕に抱き着かれ……許せねぇ!」


奪われた生活費をライオンの群れから奪い返すという、絶望しかない任務に赴こうとした俺の目に、笑顔が素敵な歩くたびにゆさゆさと揺れるおっぱいオブおっぱいにエントリーされるであろう、神を胸に宿らせし現代に降臨した女神に腕を抱かれ歩いている少年の姿が映る。

初めての出会った時は、転生したての俺をボコり、女神様送りにした。

そして今、ライオン達との絶望的な戦いに挑まなくてはいけない俺の目に、女神の大いなる慈愛といっても過言ではない、もはやその存在が宇宙といっても過言ではないのではないか?そんな宇宙の、生命の神秘を秘めているであろう大いなる世界遺産レベルの胸に腕を埋めるという傍若無人な振る舞いを見せ、今の俺の地獄の立場との差を見せつけてくる少年。

女神様によると、こいつが勇者。俺が転生する原因となった、勇者だそうだ。


「もう、アレク君!買い物にいつまで時間をかけてるんですか!ミーサお姉ちゃんもアレク君に抱き着かない!」


そう言って、少し小ぶりな胸を勇者(全人類の半数を占める男性の内、87%はいるであろうおっぱい教徒の敵)の空いている腕に押し付けるように抱き着いていく。所謂両手に花、ハーレム状態だ。


「あらあらサマンサちゃん、今日は大胆ねぇ」

「今日は近所のおばさんたちが臨時収入があったって、ごちそうを食べさせてくれると言っていました。早く帰ってお腹いっぱいごちそう食べましょ!」


あぁ、きっとその臨時収入の元は俺の財布だな。

勇者の腕を奪い合うように抱きかかえ、おっぱいホールド状態でまけいぬの前からキャッキャと去っていく勇者と胸神おっぱい姉妹。

あ、この子か、俺が勇者にボコボコにされた原因は。

領主のクソガキがこのサマンサって子に犯罪まがいの事をしようとしたんだよな。

気持ちは分かる、超可愛いしな。

俺と同い年の10歳であの胸だ。あと数年もたてば、姉と同じくその胸には人類の希望といっても過言ではない、勇気という名のおっぱいを宿らせるであろうこと間違いないだろう。

そんなサマンサちゃんをどうにかしたいという気持ちは分かる。

だが、直接手を出すのはダメだ、愛でろ。選ばれしおっぱいは愛でなければならないのだ。クソガキにはそれが分からなかったんだろうな。

だが、勇者。いや、全人類の敵、アレク。貴様は許さない!

おっぱいを独占しようとするその大罪、俺が天罰を与えてやる!

俺は怒りのあまりパンツ姿でアレク達を追いかけ、背後から襲い掛かる!


「ひゃっはぁぁ~!ぶち殺したらぁアレクぅぅぅぅ~~!」

「きゃぁぁぁぁぁぁ!変態ぃぃぃぃ!!」


アレクに飛び掛かった瞬間、女神おっぱいの叫び声と股間に走る衝撃!


「おっふぅ、あ、ありがとうございま……っす」


おっぱいを司る女神ミーサ様の悲鳴と共に繰り出された、神の如く光り輝くおみ足での前蹴りが、俺の股間ブラザーを直撃する。

女神からの施しに思わず感謝の言葉を口にする俺。

膝から崩れ落ちる俺の顎に「いやぁぁぁ~!」と叫びながら女神候補ちっぱいサマンサのアッパーカットが炸裂する。

吹き飛ぶ俺。「うわぁ……うわぁぁ~」と呟く勇者アレク。

吹き飛ばされ、ぶっ倒れた俺の耳に、肋骨教団教祖レイシアさんの声が聞こえた。


「何でや。アタシと何が違うんや。同じ生き物やないか、何でこんな差つけられなあかんのや。アタシが何をしたっていうんや」


肋骨教団教祖レイシアさんを見てみると、ガクリと膝から崩れ落ち、自らの肋骨に手を添えている。

きっと俺にご褒美股間蹴りを下さった時に、おっぱいが見せた重力を感じさせない躍動感溢れる動きを見てしまい、自分との差を思い知り惨めになってしまったんだろう。


「憎い、世の中が憎い。胸がなんや。おっぱいが何や!ちょっと柔らかくてポよポよして揉むと気持ちよくて、ちょっと幸せな気持ちになるだけやないか!アタシのとそんな差はないやろ!」


まるで血の涙を流し、血を吐くように呟く、現実を認める勇気を持つ事が出来ない肋骨教団教祖レイシアさん。


「アンタ、アレクって小僧が気に食わんみたいやな。アタシはあのデカ胸がムカつく。だから決めた。アンタを鍛え上げ、アレクをぶっ倒させる。そしてアンタはデカ胸を奪い取って、無茶したれや!」


えぇ、何この人?自分にないものを持っている人を逆恨みして、か弱い子供元おっさんに犯罪行為をさせるつもりなの?……だが、それがいい!

おっぱいさえあれば、世界は幸せになる!そのおっぱいを独占する奴は悪だ!

つまりはおっぱい姉妹を独占するアレクは悪。悪を退治するのは当たり前な事。

悪を倒したらご褒美あってもかまわないよね?ということはおっぱいもらってもOK?


「し、師匠!おっぱいの為……いや、世界平和のために俺を鍛えてくれ!必ずアレクをぶっ潰す!」


こうして俺は女神様曰くチートな存在の元メイドエルフのレイシアさんと師弟関係を結ぶこととなった。

このチートな師匠の下、自らを鍛え上げ、アレクをぶっ倒し、おっぱいを救うぞ!


夕日が沈む街角で、周囲の冷たい視線も気にせず俺たちはガッチリと握手をし打倒アレクを誓う。


まずはしなくちゃならないことは、と……アレクとミーサ、サマンサ姉妹おっぱい神に土下座をかまし、お金を恵んでもらった。

だって俺たちお金無いんだもん。

嫌がる3人に、泣き叫びながら抱き着き、どうにか晩御飯代ほどのお金を恵んでもらう。少ないお金に「もっとよこせや」と舌打ちをしつつ師匠と二人で屋台飯を食い、路地裏で野宿する。

……くそぅ、これも全部おっぱいを独占するアレクのせいだ!いつか必ずぶっ潰してやるからな!

お金を恵んでくれた相手をぶっ潰すと、ゴミくずのような誓いを立てる俺。


だがしかし、いよいよ始まった、俺の異世界生活!さぁ俺たちの冒険はここからだ!





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