第15話 嬉しい気持ちと残念な気持ち

 荷物をまとめ、ライムハルト殿下と共に馬車で故郷へ向かう。

 寄り道で、実家に顔を出すことになった。

 保留状態にしていただいているので、まだ正式に殿下と婚約が決まったわけではないが、私の気持ちはほぼ固まっていた。

 その報告に加え、命を懸けるダンジョンに入るわけなので、その旨もお父様には伝えておこうかと思う。


 そして夜。

 故郷までは遠いので、馬車の中で野宿となる。

 馬車の中ではライムハルト殿下と二人きりなので、多少の覚悟はしていた。


 だが……。


「殿下、暗闇の中どこへ行かれるのですか?」

 足音が馬車の入り口からしたので気がついた。


「心配かけてすまない。だが、私は外で寝ようかと思っている」

「何故ですか? 風邪ひきますよ?」

「すまないが、私も男なのだよ。ソフィアのような美しい女性と一晩一緒にいたら、気が狂ってしまいそうで怖いのだ」


 正直なお方だ。

 私とて、既に殿下のことを意識しているのでドキドキして寝れないかもしれないと考えていた。

 おかげで殿下のわずかな足音にも気がつけたわけだが……。


「そのときはそうなっても構いません。外で寝られる方が心配で私は一晩中起きているでしょう」

「しかし……、恥ずかしながら保証できぬ」

「それは私も同じですから……」


 殿下があまりにも正直に心情を語ってくれるので、私も本音で伝えてしまった。

 暗闇なので殿下がどんな顔をされているのかはわからないが、私は少なくとも真っ赤になって心臓の鼓動も著しく早くなっている。

 なんてことを言ってしまったのだろう。

 これでは私がお願いしているみたいではないか。


「では……お言葉に甘えさせていただく」

「へ……?」


 なんと、殿下は私の真横に寝そべり、同じ毛布に入ってきたのだ。

 殿下の持っている毛布も重ねてきたので、暖かい。

 彼の体温も伝わってくる距離なので、更に暖かく感じた。


「ソフィア……こんな時にお願いするのもどうかと思うが、私のことは今後、名前で呼んでいただけないだろうか」

「お望みとあらば従います」

「いや、その主従関係のようなものも無しにしてもらいたい。ソフィアとは対等にいきたいのだ」

「しかし……、王子相手にそのような態度は……」

「構わぬ。公の場以外では同じ冒険者として、常に対等な立場でいたい。これは私の望みでもある」


 そう言いながら、私の頭を撫でてきた。

 反則だろう!

 こんなことをされては冷静さも失い、言われるがまま従うしかできない!


「ライムハルトと呼ばせていただきます……」

「うむ、嬉しい」


 しばらく無言が続き、ライムハルトの吐息が私の後頭部あたりに吹きかかる。


 変な気分になってしまいそうだ……。

 このような状態で寝れるわけがない!


 私の気持ちなどお構いなしに、ライムハルトはグッスリと寝てしまった。


「よくこの状況で寝れるわね。それとも、私に女としての魅力がない……」


 紳士な行動をとってくださるのは嬉しい。

 だがその一方で、少しくらい触ってこようとする男っぽい行動を全くされない上、すやすやと眠ってしまうことには不満だった。

 しばらくして、私も眠りについた。

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