第2話 知られたくないから秘密

その人は彼女と同じ出身の人だった。学年はいくつか違っていたし、見たことがない人だった。でも向こうは彼女のことを知っていた。だから私のことも知っていた。

彼女のことを嫌っているのかと思ったら違うみたい。その人は彼女に怯えていた。


「貴女のことが心配なの」


その人は言った。

彼女に怯えていたから、私が一人になるのを見計らって声をかけてきた。

私は、そこで彼女の秘密を知ってしまった。言われなくてもわかっていたことと、知りたくなかったことを聴いてしまった。




その人と会ったのはそれっきりだった。

どうでもいいことだよ。その人のことなんて私にとってどうでもいいこと。だって知らない他人なんだから。

大事なのは彼女のこと。彼女と私のこと。




私にはもう、彼女しか見えていなかった。







その人が私に囁いたこと。


「あの子、レズよ」


知ってるよ。知ってるからこうして彼女の側にいるの。

腹が立ったわ。好きになることのどこがダメなの? 恋をすることの何が悪いの?

彼女は私のことが好き。そんなの、目を見ればわかる。でも、彼女は私の「友人」として隣に立っているの。距離をこれ以上詰めようとしないで、私を傷つけないようにしてくれてるの。

その人に彼女の優しさがわかるはずない。私はそう思った。

だから強い口調でその人に言い返した。


「知ってますけど?」


その時、私は確かに見た。その人の目の奥にほんの僅かな火が燃えたのを。それは嫉妬の炎だった。

多分私の目にもあるよ。私の知らない彼女を知ってる。それだけでムカムカする。

だから柄にもなく意地っ張りになっちゃったんだ。


その人は何かに納得したみたいに頷いて、私に一言、ごめんなさいと言った。その目にはもう火は燃えていなかった。

その人は念を押すみたいに勘違いしないでねと続けた。


「私、あの子の元カノだったの。ずっと前のことだから、本当に勘違いしないでね。今は何にもないんだから」


元カノやら元カレが出てくるとろくなことにならない。私は友人たちの恋ばなで知っていた。

だから「今は何にもなく」ても、続く先の話はきっといい話じゃないんだなって感じた。


「あの子の昔のこと知ってる?」


私は首を横に振った。彼女の口から過去のことを聞いたことはない。


「気にしないで。あの子、絶対話さないだろうから。私も自分で調べたのよ」


あまりにも昔のことを話そうとしないから。

その言葉には知らなければよかったっていう後悔が滲んでいた。




その人は私に伝えてくれた。自分が知って後悔したことを、私にも背負わせようとしていた。

聞かなければよかった。逃げてしまえばよかった。彼女とこのままずっと一緒にいたいなら。

このままの関係で止まっていられたら、私たちは幸せなのかもしれない。

でも私の心は囁いた。







このままでいたいの?







私はきっと、心のどこかではもう一歩、彼女に近づきたいと思っていたのかもしれない。

彼女の心に、過去に、これからの未来に寄り添いたいと思ったのかもしれない。


だから、私はその人の話に耳を傾けた。

最後まで、何も言わずに。

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