第37話 side Aoi
「おはようございます。」
朝5時。
パンのいい匂いにつられてリビングに入るとニコさんのお母さんがキッチンに立っている。
「すみません、泊まらせていただいて。」
昨晩の無礼を謝る。
「あら、おはよう。早いのね。眠れた?」
「あ、まぁ。」
実はまったく眠れなかった、興奮して。
あのあと寧々ちゃん(「さん」付けはやめてと言われた。)が和室に案内してくれて、そこに布団を敷いた。
もうなんなんだ、言葉で言い表せないくらいのフワフワと浮ついた気持ちは。
仲直りできただけでも嬉しいのにニコさんとキスしちゃったよ。
しかもニコさんからしてくれるとか思い出すだけで悶える。
「朝ごはん準備するからソファにでも座ってゆっくりしてて。」
座らせてもらって部屋を眺めてると、本が置いてある一角に母さんの本が何冊も置いてあり、付箋がたくさんついている。
昨日はカーテンがしてあったからわからなかったけど、窓の先に目をやると綺麗に手入れされた庭があった。
「おぉ。すごい。」
つい声が漏れた。たくさんのハーブに、果物の木も。バラもすごいな。それに多分ニコさんが寄せ植えした季節の草花。
「ん?」
「庭、すごいですね。」
「下手の横好きよ。庭に出ていいわよ。なんなら手入れしてくれも。」
「いいんですか?」
今の仕事は切り花中心だから、こういった自然を目の前にするとワクワクが止まらない。
無我夢中で庭をいじっていたら
「おはよう。」
振り向くと身支度を整えたニコさんがいて、庭に降りて俺の隣に座った。
「おはようございます。」
「眠れた?」
片想いしてたときよりドキドキしてしまうのはなんでだ。まともに顔が見られない。
「全然っす。ニコさんにあんなことされたら。」
と耳元で囁いたらニコさんは茹だこのように真っ赤になった。
可愛すぎか。
「ガーデニングすごいっすね。」
「うん、お母さんが好きなんだよね。あの人のファンなの。桃木野紗耶。」
「あぁ…本がたくさん置いてありましたね。」
「知ってるよね?」
知ってるも何も自分の母親と伝えたらどういう反応するだろうか。
「花屋で知らない人はいないでしょ。」
父さんと母さんの関係を知ってたら、母さんのことを話すと同時に兄ちゃんと兄弟ってバレる。
「だよねぇ。うちの社長の元奥さんだもんね。」
「えっ。」
やっぱり知ってるのか。
「らしいよ。いつも宇佐美が自慢してる。あ、ご飯できたって。行こう。」
そう言ってニコさんは先に部屋に入って行った。
兄ちゃん、そんなこと自慢しないでよ。
どこまでもやってくれる兄にガッカリした。
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