第30話 side Nico
一連の出来事から1ヶ月ほどが経った。
わたしと碧生くんはというと、それこそしばらくは碧生くんがいろいろ話しかけてきたけど、スルーすることを繰り返していたらいつの間にか最低限の挨拶と仕事のことでしか話をしなくなった。
それで良かった。自分の気持ちに諦めをつけるにはこうするしかなかった。
さすがに真波さんに何度も心配されたけどなんでもないと貫き通した。
ちなみに宇佐美もときどき現れたけどこちらの対応は言わずもがな。
今日は仕事が早上がりで、でもまだ夕食まで時間があるから店近くのファストフード店でコーヒーでもと入った。
カフェラテとチョコパイを注文して窓際の席に座る。
スマホであてもなくSNSを眺めたりニュースサイトを見たり他人の相談事を読んだり。
やっぱり平和が一番だよね、なんてちょっと不幸な経験談を読んでいたら、
「みぃ、もうそろそろ元気だしなよ。」
「そうだよ。もっといい男は世の中いっぱいいるって。わたしの彼氏に頼んで合コンしよ。みぃと仲良くなりたいって男もいるし。」
何人かの女の子が後ろを通り、わたしの斜め後ろのボックス席に座った。
話の内容からカレシにでもフラれたのかな。うんうん、辛いよね、なんて勝手に仲間意識が芽生える。カレシではないけど。
女子高生たちに遠慮や恥じらいという言葉ないのか大きな声で話が続く。
「ひどいよね、こんなにかわいいみぃからキスしてもらえたのに、怒って無視するとかさ。」
「自分からみぃにしたくて、それを先越されたから怒ってるとか?」
「そうよそうよ。まじ男って子どもだよね。あ〜、みぃ泣かないの。」
スマホを眺めながら、女子高生っていつの時代もこういう話するのねって聞き流していたら、
「怒った顔はマジで見たことないくらい超怖かったの。10年ずっと好きだったんだよ。ほかの人なんて考えられないよ。」
泣き声まじりでしゃべっているこの子が「みぃ」ちゃんだろう。
それにしても女子高生で10年片想いって長くない?え、幼稚園からとか?
「あおくんのこと大好きなのに。」
えっ。『あおくん』って…。
『あおくん』と言ってるのってもしかして実花ちゃん?
確認せずにはいられなくてこそっり横目で女の子たちを確認する。
制服姿の女の子が4人。そのうち1人はやっぱり実花ちゃんだ。
気になりスマホ見てるふりして話に耳を傾けた。
話を要約すると、
碧生くんが全然振り向いてくれないから実花ちゃんからキスしたけど、それを怒っていてすべての連絡を無視されている。
実花ちゃんはあの日からまともにご飯も取れてなくて勉強も散々らしい。
合間合間にわたしの悪口もあった。
『年増のくせに色目使うな』とか『たいしてかわいくもない』とか。
実花ちゃんたちはカラオケ行こうと店を出ていき、わたしは席で悪口が頭で反芻ししばらくフリーズした。
悪口はさておき、実花ちゃんと碧生くんはキスはしたけど、その前後にいろいろあってわたしが誤解してるってことはわかった。
もっと早く知りたかった事実。
この話を聞いてしまってどうすればいい。
息切らしてわたしのところに来た碧生くんの話を聞いてたら違ったかな。
ううん、現場を見ちゃったんだから信じることできなかった。
スマホのメッセージアプリの碧生くんを開く。
碧生くんとの最後のやり取りがもう1ヶ月以上前。
あの日の朝、「話を聞いてほしいです。」で終わってる。
碧生くんを無視して今さらわたしから話したいとか虫が良すぎる。
きっと碧生くんだってもうわたしのことなんてどうでもいいだろう。
でも、今さらだけど。
ブロックを解除した。
冷めたカフェラテも、中のチョコが固くなったパイの味もわからないままお腹に入れて悶々しながら家路についた。
家に帰るとテーブルにホットプレートと、経木に置かれたとてもおいしそうな牛肉が置いてある。
「このお肉どうしたの?」
「お父さんが会社のくじ引きで当てたって。」
「なんのくじ?」
どうやったら会社でこんないい肉が当たるんだ。
「会社の懇親会費を全然使ってなかったからいろいろ買ってみんなでくじ引きしてな。お父さんは1等だぞ。」
お父さんって何気にくじ運いいのよね。
「ニコ、お酒買ってきて。」
キッチンで野菜を切ってるお母さんが言う。なんで家着く前に言ってくれないかな。
「えー帰ってきたばっかじゃん、寧々は?」
「お先にいただいてまーす。」
すっかりくつろいで部屋着姿でわたしが楽しみに取っておいたハイボール缶を飲んでる。
「それわたしの!」
いっつも勝手に飲む。
イライラしつつ、焼肉食べながらお酒を飲むことを考えたらさっさと買いに行こうと思えた。
「はいはい。行ってきますよ。」
「ニコちゃん大好き。」
満面の笑みで寧々が言ってくる。
調子のいい妹だ。
スーパーは近所だしお腹空かせるために歩いて行こう。
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