第27話 side Aoi

朝5時。

目が覚めるといつもと違う景色で思い出すのに数秒かかった。

おじさんがもう工房で仕込みしているようで、甘い香りが部屋に漂っている。

「おはよう。」

伸びをしながらリビングへ向かいおばさんに声をかける。

実花は自分の部屋に戻ったのかソファにはいなかった。

「おはよう。碧生、ありがとうね。実花が迷惑かけてごめんね。」

「いや、大丈夫。おじさんは寝たの?」

「仮眠程度ね。碧生はそのまま仕事行くんでしょ?」

「そのつもりで来た。」

ソファにどかっと座ってテレビをつける。

数年前までここで放課後や休みの日に過ごしことも少なくなかったからついその感覚で動いてしまう。

「車置いていってもいいよ。」

「助かる。コインパーキング止めようかと思ってたからさ。」

「仕事も車で行けばいいのに。」

「ダメダメ。あんな車で行ったら職場で何て思われるか。国産車にしてくれってあれだけ言ったのに。」

「紗耶がお祝いしたかったんでしょ。コーヒー飲む?」

「うん。」

おばさんがマグカップにブラックコーヒーを持ってきてくれて、俺の隣に座る。

「隣失礼。なんか久しぶりだね、並んで座るの。」

「うん。」

「紗耶は元気に飛び回ってるみたいね。」

「みたいだな。SNSでしか把握してないけど。」

「とりあえずSNSは見てるならいっか。」

「そうそう。まったく知らないよりいいじゃん。」

「それにしても立派に育っちゃって。」

「だろ。伯母さんと一果おばさんのおかげだな。」

「紗耶も陰ながら支えてたよ。」

「うん。知ってる。」

「でもおばさんたちがいないと俺グレてたと思うけど。」

「それは否定できない。さてと、朝ご飯はパンでいい?ダンナのクロワッサンがあるの。」

「ラッキー。俺がめちゃくちゃ好きなやつじゃん。」


「じゃあ、仕事行くわ。」

「あおくん下まで送る。」

実花も起きてきて学校のため制服を着ている。

「今日はありがとう。」

と言いながら腕を絡めてくるけどはらうのもめんどくさいし、すぐだからそのままにする。

玄関から店の横を通り、商店街に出る。

まだ朝早いから車通りも少ない。

「じゃあ。」

仕事場へ歩き出そうとしたけど実花が手を離さない。

「ねぇ、あおくん。そろそろ真剣に考えてくれない?」

「なにを?」

「実花とのこと。」

真剣にと言われてもいつも真剣に断ってるつもりだ。どうしたらわかってくれるんだ。

「実花、俺はいつもちゃんと言ってる。実花を好きになることはない。」

繋がられてた手を離す。

「なんで?実花のこと嫌い?」

「嫌いとかじゃなくて、そういう風に見れない。」

「好きな人いるの?」

「いる。だからごめん。」

実花はその返事を聞いて顔が下をむいた。と思ったら、

「そっか…なら。」

と実花はつぶやいていきなり唇にキスをしてきた。

突然のことでなにが起きたのかわからなかった。

車の音で我に返って体を離そうとしたとき、目の前を真っ赤な車が通る。

まさか兄ちゃんの車じゃないよなとたかを括ったけどまさかの助手席にニコさんが乗っていてばっちり目が合ってしまった。

キスしてるところを見られたことに動揺し、力加減せず実花を突きとばす。

「いたっ。」と実花はよろけたけどそれどころじゃない。

こんなとこ見られるなんてもう…追いかけて弁解しないと。

走ってその場を離れようとしたのに実花が腕を掴んで離さない。

「どこ行くの?」

行くのを阻止する実花の顔見ると怒りが沸々と湧き抑えきれない。

「お前、何してくれてんの。」

いつもみたいに諭すようなしゃべりかたなんてできない。

「え …あおくん…怒ってる?」

怒りに任せて止まらない。

「俺の話聞いてんの?いつもいつもいつも…どんなに言ってもわかってくれない。お前のことなんかこれっぽちも好きと思ったことない。むしろ嫌いだ。もう連絡してくんな。」

『嫌い』というワードに反応して実花は泣き出した。

「あおくん…ごめんなさい。」

泣きたいのは俺のほうだよ。

その場に座りこむ実花を置いて、俺は店まで全速力で走る。

ニコさんに誤解とかないと…きっと言い訳にしかならない。

だけど行かないとだめだ。

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