第20話 side Nico

あぁ。よく寝た……ん?いつもと寝心地が違う。家で使っているイマイチな枕と全然違う。

あまりの気持ちよさにもう1回顔を埋める。

「気持ちいい。」と声が自然に漏れる。

…というか、わたしはどこにいるんだ。

「あっ!」

服着てる?急いで布団をめくって衣服を確認する。髪は解かれ靴下は脱がされてるけどあとはそのまま。よくわからない場所にいることに本当は心臓バクバクでやらかしてないかすごく不安。少しでも自分を安心させたいから安心材料を見つける。

しっかり体を起こして部屋の様子をキョロキョロと伺う。

時計が目に入る。時刻は6時。

「仕事!」

…あっ、今日は休みだったということを思い出してホッとする。

それから引き続き黙って様子を伺うと微かにシャワーのような音が聞こえる。

えっと、そもそも昨日なにがあったっけ…真波さんと碧生くんと3人で飲みに行って…居酒屋の途中から全然記憶ないんだけど。30手前の女が何やっちゃってんのよ。

ということは、ここはもしかして碧生くんち?

壁にかけてあるリュックが目に入る。碧生くんが仕事のときに使ってるのと同じだ。ほかにも部屋を見回すと見覚えのある持ち物がちらほら。それにグリーンが多い。

なんにも覚えてないとか怖すぎる。失言してないよね?失態さらしてないよね?

こんな朝までぐっすり寝て、もうどんな顔であえばいいのよ。恥ずかしすぎる。

シャワーのような音がやんだ。緊張が走る。どうしたらいいか決まらずジタバタしてるうちにドアがガチャと開いた。

反射的に音の方を向くと、碧生くんがまさかのボクサーパンツ1枚で出てきた。見ちゃいけないと後ろを急いで振り向く。

「わぁー起きてたんですね。」

碧生くんも驚いて急いで元いた部屋に戻り、「すみません、下だけしかなくて。」と上半身裸、グレーのスウェットパンツを履いて出てきた。

顔とギャップのあるしっかり鍛えられた上半身に釘付けになる。

「まじまじ見ないでくださいよ、エッチ。」

女の子のように手でカラダを隠す仕草をする。

無意識に見惚れてた。視線を急いで外す。

「ごめんごめん。鍛えてる体が意外で。」

「植木とか重いもん持つから必然的に。もっと持てるようにジムに通ってもいるんですけどね。」

頭をタオルで拭きながら言う。

顔とのギャップに萌える自分がいる。

「ニコさん、酒癖悪すぎでしょ。笑って悪態ついて笑って怒って泣いて笑って寝る。なんでか途中途中笑うんですよね。」

昨日のことを思い出して碧生くんが笑い出した。

すっかり失態への謝罪を忘れてた。

「昨日は本当にご迷惑おかけしました。」

ベッドに正座して深々と頭を下げる。

「ホントですよー。大変でした」

「どうやってここまで連れてきてくれたの?」

「店の人とタクシーの運転手さんにおぶるのを手伝ってもらって。」

えー想像しただけでとんでもないことしてる。

「めちゃくちゃ恥ずかしことしてる。もうあの店いけないじゃん。しかもおんぶ…重かったよね。」

穴があったら入りたいくらい恥ずかしくて布団に突っ伏した。

「ニコさんくらい軽々です。そのために鍛えてきました。」

「嘘ばっか。」

適当なこというから笑っちゃう。

「すっきりできましたか?」

「ごめん、なんにも覚えてない。」

「マジっすか?」

碧生くんがベッドの上に乗ってきて真剣な表情でグッと顔の距離を詰めてきた。近くでみるとやっぱりかっこいい。

「じゃあここに来てからのあんなことも?」

上半身裸で急にせまられるような体勢とほんのりムスクのいい香りがして心臓がバクバクしてきた。

「え?」

あんなこと?なになに、ここで何した。

記憶を呼び起こすように頭の中をぐるぐるさせるけど何にも思い出せない。

実は碧生くんとやっちゃった?

なんにも覚えてなくて碧生くんの目に必死に訴える。

そんなわたしの必死さがおもしろかったのか碧生くんが吹き出した。

「ぷふ。何にもないですよ。かわいい。」

といたずらな表情をする。

今なんと!?「かわいい。」ってわたしに言ったの!?

あんなかわいい彼女いるのにこれはダメでしょ。ホントだめ。

そんなわたしをよそに、あおいくんはベッドから立ち上がりクローゼットから取り出したTシャツを着ながら「朝ごはん作ってます。食べましょ。」と言う。

ご飯いただいたら速攻帰ろう。実花ちゃんに知られたら死活問題だ。


でも、最後の「かわいい」という言葉の破壊力に不覚にもまたドキドキしてる。心臓が壊れそう。

せっかくかけたブレーキがきかなくなりそう。

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