第16話 side Nico
お昼に碧生くんと実花ちゃんを見送った後からとんでもなく忙しかった。
ダリアを1輪ずつ30束の注文が入ったり、鉢植えの配達が入ったりで全然休めず。空いてる時間に事務作業とレポートをと考えてたのに何にもできなかった。
でも、忙しかったおかげで今朝の出来事を頭から追い出すことができた。
閉店後、お店の片付けは碧生くんにまかせて事務所で残務を処理して、昇格のレポートに手をつけようとするけどまったく気が乗らない。来週末にはテーマと枠組みを宇佐美に報告しないといけない。どうしようと頭を抱えていると「ブブッ」と隣の碧生くんのデスクの上でスマホが鳴っている。
ちらっと画面を覗く。ちらっと覗くつもりが画面を凝視せざるをえなかった。胸にずきーんと痛みが走り、少しめまいのようなものを感じる。
スマホの壁紙が実花ちゃんとのツーショット。
わざわざ壁紙にするって…碧生くんもいろいろ言いながら実花ちゃんが好きなんじゃん。
あれ?なんでこんなことで動揺してちょっと傷ついちゃってるの、わたし。
ううん、「ちょっと」じゃない。「だいぶ」傷ついている。
写真の2人は全然違和感なくてお似合い。自分のスマホに保存した写真を開く。碧生くんと一緒に撮った写真をみて、やっぱりわたしが年上だなぁと痛感する。
なにこれ。ダメージが大きすぎる。碧生くんが懐いてくれてたことに自惚れちゃったよ。
てっきりわたしのこと好きなんじゃないかって。
そして、わたしも少し気になるようになってた。
涙が出そうで食い止めるためにどうしようもなくなって
「あ〜っ!!」
と椅子に座ったままそっくり返り叫ぶ。
すると、店の方から小走りで
「なんか叫んでませんでした?」
と声が聴こえたようで慌てて碧生くんが戻ってきた。
「あ…ううん。」
まともに顔を見ることも話もできなさそう。気まずくて居た堪れなくなり帰る準備にとりかかるわたしを見て、
「あ、もう帰りますか?じゃあ俺も…。」と帰り支度を始める碧生くん。
一緒に帰るのは無理。
「ごめん、戸締りお願い。お疲れ様でした。」
碧生くんを置いてそそくさと事務所を出た。
ダメだ。これは泣ける。
家に帰ってお母さんが作ったご飯食べてお風呂入って帰りにコンビニで買ったお酒を出してダイニングテーブルにとりあえずパソコンを広げてみる。
だけどうけたダメージでそれどころではない。テーブルに突っ伏し、
「はぁぁぁ。」
「ちょっとなんのため息?あっ、恋煩い?」
ソファでテレビを観ていた寧々がからかってくるけど反論する元気もない。
「年下イケメンくんとうまくいってないの?」
うまくもなにも、そもそもなんにもなってなかった。
「寧々のスマホの壁紙ってなににしてる?」
「なにいきなり。彼との写真だけど。」
寧々はテレビに目を向けたまま答える。
「はぁぁぁ。」
その答えに大きなため息が出る。
「え?え?なに?」
ですよね。そういうことですよね。もういろいろ頭の中ごちゃごちゃするのヤダ。お酒を一気に飲み干す。なんにもしていないパソコンを閉じてテーブルの上を片付ける。
「おやすみ。」
冷蔵庫からもう1本缶チューハイをとって自分の部屋へ上がる。
お酒の力を借りて寝よう。
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