第14話 side Aoi
担当になった呉服屋の装花が終わって店の駐車場に社用車を止めようとしたら宇佐美マネージャーが店裏でタバコを吸っているのが見える。
車から降りると「よっ。」と声をかけられた。
「お疲れっす。」
ペコッと頭を下げて、車から荷物を下ろす。
「なんだよ、よそよそしい。仕事慣れたか?」
「店長も日比野さんもいろいろ教えてくれるので勉強になります。」
「そっか。俺の推し店舗だからな。今度、父さんが3人で飲もうって言ってたぞ。」
「そういえば、父さんに入社式から会ってなかった。うん、いつでも大丈夫。」
「じゃあ、父さんの予定見て連絡するわ。」
と言って派手な赤い外車で去っていった。
宇佐美朱生は俺の5歳上の兄。親が離婚して兄ちゃんと離れたけど、定期的に近況報告がてら父さんと3人で会っている。父さんの会社に入ればニコさんと一緒に働けると思い、母さんにも相談したらいいんじゃないかと行ってくれたから入社試験を受けることにした。兄ちゃんみたいにコネ入社だけはしたくなかったからこの会社を受けることは父さんには黙っていた。最終まで行ったときはさすがにどちらからも連絡が来たけど。完全に隠すことは無理でも自分の力でできるところまでしたかった。
初日この店舗へ連れて来られたとき、兄ちゃんの態度がいつもと違った。ニコさんに対して他の人とは違う接し方。これはきっと好きだなとピンときた。典型的な好きな子をいじめるタイプ。
だけど兄ちゃん、もうすぐ30だろ。そろそろちゃんとしたほうがいい。弟から見ても不憫なくらい恋愛に対して経験値がないとみた。
それと、マネージャーと俺が兄弟と知ったらニコさんはどんな反応するんだろう。あんな感じのマネージャーの弟ってことだけで偏見持たれそうだ。いや、そもそも社長の息子と知られたら、それだけで敬遠されそう。だからしばらく黙っておこう。
外回りの片付けを終えて店頭に上がるとニコさんが注文の花束を作っている最中だった。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様。今日朝から暑いよね。」
「暑かったっす。」
一緒に遊んだあの日から照れくささもあるけど少し距離が縮まった気がする。
「誕生日の花束ですか?」
作業台の上にバースデーカードが置いてある。
「うん、毎年注文くれる方でね。今年はひまわりいっぱいにして欲しいって。」
ニコさんの手捌きをみて勉強する。
どうもリボンが苦手。器用にリボンを作るなぁ。誕生日の花束…
そういえば、
「ニコさん、誕生日いつなんですか?」
「11月20日。碧生くんは?」
「2月11日です。」
「数字の並びが逆だ。覚えやすい。」
ニコさんは笑いながら言う。
なるほど、これは思やすい。あとでスマホのスケジュールに入れておこう。
暑いからか客足が芳しくない分、にこさんと雑談ができる。朝の時間があっという間に過ぎ、
「先にお昼行ってきていいよ。わたしは真波さんと交代するから。」
「じゃあ、お先に…」
と昼休みに入ろうとしてたところで1人お客さんが入ってきた。
「いらっしゃいま…。」
実花が入ってきた。
無意識にニコさんをチラッと見ると顔が引き攣ってる。
「あおくん、お昼ご飯一緒に食べよ。昼休みでしょ。」
さっと近寄って手を握ってくる実花。
「碧生くん行っておいでよ。」
えっ。なんで後押しするんだよ。
実花のうしろから別のお客さんもはいってきたので、ニコさんはそちらの対応に入った。
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