第12話 side Nico

数日後

「ねぇ。ニコちゃん。」

六反田さんちのメンテナンスをしていたら制服姿の実花ちゃんがすごい形相でこちらにきた。

「あ、実花ちゃん。」

今まで見たことない表情だけど、それに気づかないふりして普段通り話す。

「ニコちゃん、あおくんと付き合ってるの?」

「え?」

急にそんなこと言われたからどう返したらいいかわからず付き合ってもないのにあたふたしてしまう。

「このあいだ見ちゃったの。2人で電車乗ってるところ。お店休みの日だった。」

「ひっ。」

と言葉にならない恐怖で声が出てしまった。

「ニコちゃん、実花があおくん好きなの知っててそんなことするってひどくない?」

「い、いや。約束してたんじゃなくて、たまたま出会って…。」

「出会って?」

「成り行きで…。」

「成り行きで?」

立膝で作業してるわたしが一言答えるたびにズンと一歩ずつ実花ちゃんが詰め寄ってくる。

「一緒に出掛けました。」

最後は肩を掴まれて揺らされた。

「それってデートでしょ!あ…もしかしてあのプレイスポットに行ったの?」

ぱっちりしたまつ毛バサバサの目でガン見される。こ、怖い。なんでわかるの。

目をそらしてうなずくと

「ねぇ、なんでそこで『実花ちゃんも誘おうよ』ってならないわけ!?」

目を見ろと言わんばかりに凝視されてる。

ひえー!そんなことならないでしょ。恐怖で涙が出そうだよー。

「ニコちゃん、もしかしてあおくんのこと好きなの?」

「え?」

好きかと言われたら…なんて答えたらいいかわからずに黙っていたら

「実花。」

実花ちゃんのお父さんが工房から出てきた。

「学校行け。」

一言だけ言ってまた工房へ戻っていった。

たった一言なのに、効果てきめんで実花ちゃんは黙りその場を離れた。

立膝を崩しその場にペタリと座りこむ。はぁ、アラサー女が女子高生にビビるとか情けない。心乱された。

考えてみれば、片想いの相手と一緒にお出掛けした女って完全に敵だ。見られることは想定外だった。気持ちが落ち着くまで花たちを眺めていたら、

「ニコちゃん、実花がごめんね。これ、食べて。」

一果さんがわたしの横にコーヒーとマカロンを置いてくれて隣に座り込む。

「ありがとうございます。」

ここのマカロン好きだから気持ちが一気に上がった。

「実花ってば碧生のことになるとあんな感じ。碧生が学生のときに彼女連れてきたことあってそれは大変だったもん。ま、そのあと旦那から雷落とされたけどね。」

彼女…くらいいたよね、当たり前か。

「ニコちゃん、お店の担当はずれないでよ。」

「碧生くんに変えましょうか。」

「ダメダメ、ニコちゃんの花が好きなんだから。実花もどうしたらいいものかしらね。」

「ちょっとトラウマになりそう。フフ。」

つい本音が漏れてお互い苦笑いする。

一果さんが立ち上がりながら言う。

「実花に遠慮なんてしないでいいからね。」

「え?」

「ふふ、お邪魔してごめんね。続きよろしく。」

相変わらずなんか含みある言い方していくなぁ。

しばらく実花ちゃんに会ったら気まずいし(怖いし)、しばらく真波さんに行ってもらおうかな。

それかやっぱり碧生くんに責任取ってもらおうかな。

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