第9話 side Aoi

「ここ行きたかったの!」

予想をはるかに超えて喜んでくれた。

「喜多見さんがくれたんです。」

お客様の喜多見さんから、商店街の福引で当てたという店の最寄駅から5駅先のアトラクション施設のペアチケットをもらった。

行くとしたら…ニコさんの顔が頭に浮かんだけど、言っても職場の先輩をこういう場所に誘うのはハードルが高くて、とりあえず財布に眠らせていたら2日前に実花に見つかった。


一果おばさんがご飯食べにおいでと言ってくれたから夕方にお邪魔し、そのとき一緒にいた実花が、テーブルに置いていた俺の財布からはみ出してるチケットを目敏く見つけた。

「あー!ここ行きたかったの。どうしたのチケット?」

焦って取り上げると変に思われるから平常心で返事する。

「もらった。」

「行きたい行きたい。」

「ダーメ。」

チケットを取り上げる。

有効期限まであとちょっと時間はある。そもそも、実花とは一緒に行きたくない。

「実花と行こうよー。もう期限切れちゃうよ。」

「行かないったら。」

「誰と行くの?」

「誰とも行かない。」

今のところ。

「じゃあ、いいじゃん。実花と行こ?」

「行かないってば。」

あーめんどくせ。

「なんでなんで。実花と行くと楽しいよ。」

『友だちと行ってこい』、とあげちゃえば丸く収まるのか。

「実花、塾の時間。」

おじさんが車の鍵を持って登場。

「も〜。あおくんいるし休んじゃダメ?」

「行くぞ。」

出た。おじさんの有無を言わせぬ雰囲気。

「はーい…。」

しょぼくれて荷物をもって出掛ける実花の背中に。

「行ってらっしゃい。」

と明るく声をかけ見送る。

おじさんが助けてくれてなんとか実花から逃れられた。

が、毎日のようにメッセージが届く。

『わたしとデートしよ♡』

『一緒に連れてって♡』

『行きたーい♡』

うるさすぎて、通知をミュートにした。


「イケメンには甘いよね〜わたしなんて打ち解けるまでに1年かかったよ。」

「そんなに?えー、人の良さそうなおばあちゃんと思ってました。」

初めて行った日から親しみある人だと思ってた。

「気に入られちゃったね。」とニコさんが言う。

喜多見さんありがとう!

休みだからって家でグータラしなかった俺、グッジョブ。3時間前の自分に心のなかで親指を立てる。

まさか今日、こうやって一緒に電車乗ってデートできるなんて思ってもなかった。

とくに予定もなかったからドライブするためにあそこの商店街を抜けようと通り、赤信号で止まったのがカフェの前。なにげなく目をやったらニコさんが外の席でカックンカックン寝てるじゃないか。

ただただ心配で近くのコインパーキングに急いで止めて、カフェに入って隣で見守った。もちろん同伴者がいなさそうかしばらく遠目で確認してから。


一緒にきたアトラクション施設では、予想以上に嬉しいハプニングだらけだった。

まぁ、体動かす施設だからハイタッチとかの軽いボディタッチはできるだろうとそうぞうではなく妄想していた。それに加え、手を繋いだり腰に手を回したり、もう恋人でくること前提の場所じゃないか、ここは。


今日ではっきりした。

俺はニコさんのことを好きになっている。

急に誘ったのにいっぱいはしゃいでくれるし、ちょっと恥ずかしがりながら手を繋いでくれる。自分だってヘトヘトなのに疲れてないかって気にしてくれる。

俺といてこんなに楽しい表情してくれたら好きになっちゃうじゃん。

カフェで偶然会ったのだって運命じゃないかなんて大袈裟だけど感じた。いい大人が公共の場で寝てるとかどうかと思ったけど、ほっとけなくて、起きるまでと思って隣に座ったら、俺に寄りかかってきて気持ちよさそうに寝るから幸せだった。


ニコさんが彩る花に惚れてこの会社に入ったけど、いつの間にかニコさんが彩る毎日が楽しくてどっぷりハマっちゃったようだ。

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