第8話 side Nico

「ちょっとすみません。」

碧生くんが席を立つ。

まさか知り合いに見つかるとは。もしかして外から寝てるのが丸見えだったかな。私ってば、この間の倉庫といい今日といい、碧生くんに結構恥ずかしいことしてる。

しばらくして戻ってきた碧生くんが

「はい。ホットレモン。」

とカップを差し出す。

「え?」

「カラダ冷えたかと思って。」

冷たくされたと思ってたらさりげなく優しくされてとかなんてキュン要素しかないよ。

「ありがとう。」

ふふ、本当に優しい。一口飲むとカラダがあったまる。

「これなんですか?」

テーブルに残ってる塩バターマフィン。食べるの忘れてた。

「表面乾いてるかもしれないけど食べる?」

「いただきます。カフェラテももらってもいいですか?」

碧生くんが飲みかけのカップを指差す。

「口つけたよ。あっ、蓋取っちゃえばいっか。」

蓋つけたままだと間接キスになるって考える私は中学生か。上の蓋を外して渡す。

「つめた。」

冷えたカップを持って驚いている。

「何時からここにいたんですか?」

「1時前。」

「何時から寝てたんですか?」

「うーん、たぶん1時半くらいかなぁ。」

碧生くんが腕時計で時間を見て絶句する。

「まじで信じられない。今2時半前ですよ。本当に気をつけてくださいよ。」

「はい。」

また注意された。どっちが年上なのかわからないくらい心配されている。


碧生くんがマフィンを食べ、カフェラテを飲み干し、わたしももらったホットレモンを飲み終えた。

碧生くんはこの後どうするんだろう。聞いてみようとしたら碧生くんから聞いてきた。

「ニコさん今から時間あります?」

「今から?なんにも予定ない。」

「じゃあ、今日のお礼は今から俺に付き合ってもらいましょうか。遅くなってもいいですか?」

「また自分から言う。まぁ、いいでしょう。」

この間の倉庫のときも勝手にお礼を指定された。今度はなにを言い出すかと思ったらどこか一緒に行こうということみたい。

それにしても、わざわざ休みの日に、職場の先輩に会うとかめんどくさくないのかな。しかも、一緒にどこか行こうとか。

だけど、誘ってくれて喜んでいる自分が心の隅っこにいる。


トイレに行ってから店を出ると、先に外に出て待ってくれている碧生くんがいてちょっと遠目から眺める。

仕事のときはだいたいTシャツに黒パンツスタイル。かっこいいからそれだけでもかっこいい。初めてみる今日の私服はベージュ系で統一された羽織ものとパンツのセットアップにボストンメガネ。顔小さいしかっこいいなぁ。これは絶対モテるよねぇ。わたしが若かったらなぁ。そればっかりはどうにもならないか。

どうでもいいこと考えていたら、こっちに気づいて小さく手を振ってくれた。

単純にかわいい。

さっき心の隅っこにいた喜びが真ん中に陣取り始めてる。

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