第6話 side Aoi

骨董屋の喜多見さんは噂どおり細かかった。あれだけ指摘するなら自分で生けられるんじゃないのかと思う。

社用車を駐車場に止めるとニコさんの車があり、事務所に電気がついている。

もう20時半なのに。もしかして俺待ち?

急いで事務所へ戻ったけど誰もいない。店かな、と目を向けるけど真っ暗で人がいる気配はない。

事務所奥の倉庫で物音がする。

「ニコさんいますかー。」

と覗いてみたらニコさんが脚立に立って段ボールを上げようとしている。

その瞬間、ニコさんの体が段ボールと一緒に後ろへ倒れそうになる。

「危ない!」

咄嗟に駆け寄り、足を踏ん張って段ボールを両手で支え、ニコさんを自分の体で支える。

間一髪ニコさんが倒れずに済んだ。

「碧生くーん。」

体を預けながらニコさんが泣きそうに言う。

足元の脚立が不安定になり斜めになっているのでこのままだとニコさんが結局落ちてしまう。でも長時間はこの体勢、無理。

段ボールを犠牲にするか、ニコさんを犠牲にするか。

「ニコさんすみません。」

腕に力を込めて段ボールをエイっと後ろへ投げる。書類がバラバラと散らばる音とドンと大きな着地音。

これで両手が空き、すぐさまニコさんを後ろから抱きかかえる。

脚立ががたんと倒れた。

「足、床につけられますか?」

「うん。」

「はぁ。」

2人で大きく息ををつく。

怪我しなくて良かった。

「段ボール落としてすみません。でも、なんで無理するんですか。俺が帰ってこなかったら大怪我してましたよ。」

つい強めの口調で言ってしまった。

「ごめんなさい。」

ニコさんが見る見るしゅんとなり、

「だって真波さんにできることはやりなさいって。碧生くんに頼みすぎだって。」

小学生が親に怒られてるように話し出す。いつもはこういうこと頼ってくれるのになんで今日はと思ったけどそう言うことか。

俺は全然嫌じゃないのに。

とにかく怪我とかなくてよかったとホッとした。

「碧生くん。」

「はい。」

「もう1人で立てるから、あの…腕外してくれていいよ。」

えっ…えっ!安心しちゃってずっとニコさんを抱き締めてた。

「ご、ごめんなさい。」

さっと体を離す。

ニコさんは顔を上げず、床に散らばった書類を集める。手伝おうとしたら、

「ここは大丈夫だから。碧生くんは仕事の後片付けあるでしょ。」

と下を向きながら言われた。表情がわからず、この場にいる空気じゃないようだから自分の後片付けをしに倉庫を出た。


今日の日報を入力しながらさっきの出来事が頭の中をグルグルグルグル。

あーなんですぐに手をはずさなかったんだ、俺。

デスクに額を付けて突っ伏す。

本当に無意識だった。

でも思い出すと恥ずかしいよりドキドキしちゃって苦しい。

…ドキドキ?

「碧生くん。」

急にニコさんに声をかけらてドキッとした。

「は、はい!」

「こっちは終わったけど碧生くんは?」

「あ、終わりました。」

終わってないけどもういい。

「段ボール、明日でいいからあげてもらえる?」

「はい、やっておきます。」

「ありがとう。じゃあ帰ろっか。」

気付けば21時を過ぎてた。

2人で事務所を出る。

ニコさんはいつも通りに戻っていた。だから俺も何もなかったかのように接する。

「これからも、なんでも言ってくださいよ。」

というとニコっと笑ってくれて

「ありがとう。頼りにしてます。」

とその笑顔と言葉に胸がキュンとなる。ちょっとニヤけそうで誤魔化すために

「あ、今日助けたお礼はコンビニスイーツでいいっすよ。」

「自分で言う?まっ、怪我せずに済んだからね。何かあげる。お疲れ様。」

笑いながらニコさんが車に乗り込む。

「お疲れっす。」

ペコッと頭を下げて見送る。

俺とニコさん、結構仲良しになってるよな。

ニコさんとのやりとりを思い出すと自然と顔が緩む。緩みすぎないように頬を叩いて自転車にまたがり家に帰った。

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