第3話 side Aoi

花屋と実花の店のちょうど中間にあるファミレスに来た。

実花と2人とか、めんどくさいから、申し訳ないけどニコさんを巻き込もうとしたら断られた。

「いつものファミレスじゃん。」

「文句言うなら帰る。」

「久しぶりなんだからもっと雰囲気いいところが良かった。」

口を尖らせてぶーたれる実花。

ちょっとでも不満があるとこの顔をする。

留学中の話とか、今どこに住んでるのかとか根掘り葉掘り聞かれる。

「あおくんがうちの担当になればいいのに。そしたら頻繁に会えるもん。」

「おばさんはニコさんがお気に入りなの。」

「お花なんて誰が生けてもそれなりになるでしょ。」

「お前、めちゃくちゃ失礼だ。」

つい語気が強くなる。

「だって。」

とまた口を尖らせる。

「飲み物取ってくる。」

「実花はサイダーがいい。」

「ふぅ。」

いろいろな気持ちがこもって大きなため息がでた。実花の相変わらずのわがままぶりもだけど、なによりニコさんの装花を貶された気がして腹が立った。

「はぁ。」

今度は気持ちを落ち着かせるため大きく息をする。

ご飯食べながらほとんど実花がしゃべる。

外国の写真見せて。と見せれば女の子が一緒に写っていれば誰かと詰問される。

休みは何してるの?と答えればデートしよ、勉強教えてとうるさい。

聞き流しながら食事が済み、実花はちゃっかりデザートのパフェを注文して幸せそうに食べている。

「あおくん。で、今は彼女は?」

毎回恒例の彼女の確認。

「いないよ。」

「良かった。」と満面の笑み。

「今度こそ付き合お。」

「もう諦めてくれる?」

にっこり提案する実花ににっこり拒否する。

毎回断ってるのに実花は全く諦めない。

「じゃあ、せめてどこ住んでるか教えてくれもいいじゃん。」

実花に家を教えたら目に見える。毎日のように押し掛けるだろう。家の前で待ってるだろう。

「教えない。さ、帰ろう。」

帰りたくないと渋る実花をなんとか家まで帰す。


仕事を覚えるのに必死であっという間に入社して1ヶ月。

店の皆さんの予定がなかなか合わず5月に入ってから俺の歓迎会を開いてくれた。

メンバーは店長とニコさんと主婦パートさん1人とアルバイトの学生1人の全部で5人。

隣に座る店長が、

「どう仕事は?」と聞いてきた。

「楽しいっす。」

ウソではなく本当に楽しい。

「そう言ってもらえて良かった。碧生くんには期待してるからね。」

「ありがとうございます。」

とどちらともなく2人で乾杯する。

「朱生くんに頼まれてるしね。」

と誰にも聞こえないような小さい声で呟かれた。

「店長には話してるんですね。」

「極秘任務です。」

と敬礼ポーズをする店長。

「はい。よろしくお願いします。」

と俺も敬礼で返す。

五十嵐さんは宇佐美マネージャーの学生時代の家庭教師だったという。今の仕事もマネージャーに紹介してもらって入社を決めたらしい。

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