プロローグⅡ:ヴァリトッツォ
幻霊暦902年11月8日18時
妖幻交錯帝国ヤム
帝都フォルニスの帝城にて
× ×
大広間。そこには多くの神官達が祈りを捧げていた。ある者は太陽神へ。またある者は地母神へ。
火の神、水の神、戦の神……。
八百万の神々の実在を知る彼らは、人によって信仰する神が異なっている。中には誰それ?と思わず聞き返すようなマイナーなものも。
全員が祈りを終えたタイミングで一人の神官が立ち上がり、前に進み始める。
仕える神に応じて神官服のデザインは所々異なっているのが普通だが、位が高くなるほど豪華になるのは大半のケースに当てはまる。
彼の神官服はこの場の誰よりも上等な布が使われているだけでなく、装飾品も厳かさと豪華さが絶妙にバランスの取れたものとなっている。
彼の名はヴァリトッツォ。月の神を信仰する神官のトップ、総神官長である。
「皆々様、今宵はお忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます。ご存じの方もおられるでしょうが改めて。私の名はヴァリトッツォ。月の神の総神官長を務めております」
ここで一度言葉を切り、広間に集まった神官達を見回す。彼らは皆、聖句遣いとして名の知れた実力者ばかりである。皆真剣な眼差しでこちらを見ている。
「ご存じのように間もなく皆既月食が起こり、それと同時に紅の厄災が発生する。そのような神託が各地の神殿に下りました」
一柱の神が神託を行うことはごく稀にあるが、100や200を優に超える神々が同時になど前代未聞である。
「残念ながら、厄災の種子を滅することはできません。しかし、発芽を阻害し、その成長を大幅に抑えることはできます」
失敗は許されない。皆が一丸となって必ずや成功させなければ。
「では、始めましょう。大結界を大陸全土を範囲に起動。種子の発芽を絶対に阻止します」
この日、不可視の膜が帝国から、王国から、小国から、大陸を覆うように徐々に広がっていきそれぞれが合わさり合い、やがて一つのドームを形成した。
月が紅に染まる。
されど地上に異変は見られない。
厄災の発芽は無事阻害された。
神が、人間が、一つとなって最悪の事態を防いだのだ。
しかし、厄災の種子は依然と残ったまま。
その数、108。
世界の危機は未だ終わらない。
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