第14話 再び森の奥へ

「ねぇ、私一人でも大丈夫だってば!」

「そうはいかない。レレーナに何かあっては困るからな。森に入るなら俺もついていく」


 レオンハルトから告白されたあと、暫くしてから森へと再突入した。


 大丈夫なのは本心である。

 レオンハルトほどの騎士の腕前があれば、国創りのために他にもやるべきことがあるのではないか。

 そう思って同行を遠慮してもらったのだが、ついてきてしまった。


「でも、結界の中から結界を拡張していく方法を発見したし、危険はないんだよね」

「それでも心配だ」

「たとえば?」


「もしも迷子になったらどうする? 確か一度帰り道が分からなくて泣いていただろう!」

「それは6歳くらいの時でしょう!!」

「そうだが。あの時は俺も迷って一緒に泣いていたが」


 昔と今を一緒にしないでほしいものだ……。


「他にも危険はある。いくら結界の中からとは言っても、転んだらどうするんだ? こんな悪路では歩いているだけで怪我をするかもしれないぞ」

「それはそうだけど……」

「レレーナは焦っているように見えるんだがな」


 うん、焦っている。

 早くみんなが平和に住める国にしたいと考えているから時間を無駄にしたくはない。

 だからレオンハルトも自分のやるべきことをやってほしい。

 それだけだ。

 今は決して、一緒にいたくないから着いてこなくていい、などと考えていない。


「レレーナはすでに人の何十倍も頑張っている。自分の時間も大事にしていいとおもうんだが」

「そう言われてもね……」

「せめてレレーナが結界の拡張をスムーズにできるように協力したい。それが終わったら短縮した時間分は休んでほしい」


 レオンハルトからの気遣いが嬉しかった。

 お言葉に甘えて、この作業が終わったら少しだけ休もうかと思う。

 話をしながら、未知の領域へと奥深くまで進んでいった。


 ♢


「ここまで結界を拡張できれば十分でしょう」


 デイルムーニよりも一回り広いくらいの面積だろうか。

 仮にデイルムーニに住む全員が移住してきたとしても、建物さえ出来あがれば困ることはないはずだ。

 レオンハルトが常に周りを気にしてくれていて、結界のすぐ外にいるモンスターは彼の手によって討伐してくれた。

 そのおかげで、かなり短時間でここまで結界を拡張することに成功したのだ。


「ありがとう、アンタのおかげで予定よりも早く作業ができたわ」

「いや、正直驚いている。まさかこんなにもスムーズに結界を展開させることができてしまうんだなと。さすが魔女に昇格しただけのことはあるな」


 たわいもない話をしながら馬車のいるところまで歩いてもどる。

 レオンハルトとこんなに会話をすること自体が初めてだから新鮮だった。

 まともに話すと、今までの彼への嫌なイメージがどんどんと浄化されているような気がした。


「なぁレレーナ。一つ頼みたいことがある」

「なに?」

「俺のことは名前で呼んでくれないか?」


 そう言われてみれば今まで名前で呼んでいなかったな。

 別にこれは見下してアンタと言っていたわけではない。

 幼馴染だったから呼びやすかっただけなのだ。

 それを気にしているのなら、呼び方を変えることくらい問題などない。


「レオンハルト?」

「幸せだ」


 こんなことだけで、こんなに喜んでくれるのなら、いくらでもレオンハルトと呼んでも良い。


「レオンハルト」

「レオンハルト!」

「レオンハルト~」

「れおんはると」


「さすがにしつこい」

「ごめんなさい」


 イタズラに読んでみたら怒られた。

 こんなやりとりがあまりにもおかしくて二人で笑ってしまう。


 まさか、レオンハルトとこうやってたわいもない話で笑い合えるなんて思わなかったな……。


 夢中になっていたのであっという間に馬車の待機しているところまでたどり着く。

 馬車の中でもレオンハルトとの会話が途絶えることはなかった。

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