第15話【視点】制度改正を試みた結果

 無能父上は亡き者にしたので、私が繰り上がりで王になった。

 バレることもなくあっさりと。


「ドックス陛下、一大事です!」

「何事だ!?」


 はいはい、国王としての仕事ですね。

 良いでしょう……、私の実力を今こそ見せてやるときなのだから。


「隣にできた新国家に次々と移住し、我が国の人口はすでにピークの半分未満に……」

「つまり……どういうことだ?」


 邪魔者が消えて済々している。

 おそらく出ていった奴らはレレーナやダインに味方する者に違いない。

 ならばむしろいなくなってくれた方が好都合だろう。

 それなのに、コイツはどうしてここまで焦っているのかわからない。


「出ていった者のほとんどが高所得者です。つまり、国に多額を納めていた納税者が一斉にいなくなってしまったということです!」

「ふむ、つまり、……どうなる?」

「わからないのですか! 国の運営がより厳しいものに……、いや、このままでは運営自体ができなくなるかもしれません!」


 バカだなコイツは。

 これだから元父上の部下たちは……。

 たかが少し税収が減ったところで、対策をたてればいいだけのことだ。

 私ならそれを簡単にやってみせる。


「私が国王になったからには心配する必要もあるまい」

「し……しかし、計算したところ、昨年の十分の一ほどの税収になる見込みですが……」

「たかが十分の一か。全く問題ない」


 蜜館の女が三十人いたとしよう。

 それが三人にまで減ってしまっても、相手がいるのだから問題はない。

 お金だって同じたとえに当てはまる。


 しかも国を出ていった者が半数以上いると言っていただろう?

 ならばその分使われる金も半分になる。

結果、十分の一ではなく五分の一と計算すれば良い。

 その程度ならば、今いる民衆どもの税金を五倍に引き上げれば万事解決というわけだ。


 これほど簡単な計算すらできない部下を持って残念だよ。

 父上の雇っていた者たちはバカだらけのようだ。


「良いか? 私が今から提示することを民衆共に伝えよ。確実に国は成り立つであろう」


 大急ぎだったので、字は雑で汚いが、読めないほどではないはずだ。

 部下にこの提案書を渡し、読み直していたがあまり良い顔をしていない。


「ドックス陛下……。このようなことをすれば住民の怒りを買いますぞ……」

「構わん。そもそもあいつらは自らなんとかしようという気にならず国を頼るからいけない。国に頼るならばそれなりの納税をしてもらわないと困る。父上は甘すぎだったからこうなっているのだよ」

「どうなっても責任は負えませんぞ……?」

「良いからさっさとこの通りに動くのだ」


 なんなのだあの部下は。

 無能な上で私に反論してくるなど十年早いわ。


 たかが税金を五倍に引き上げただけだろう。

 もちろん私自身だって同じように払うのだ。

 父上の金を相続しているからこれくらいの金額の用意なら容易だ。


 ♢


 数日後、税金五倍になった瞬間に住民は激怒して何度も王宮への問い合わせやデモが起こった。


「まったく……この程度で慌てふためきおって」

「やはり無茶だったのです。いっそのこと、元に戻した方が良いのでは?」

「いや、その必要はあるまい。私自ら全員に公言してやろう」


 さすがに暗殺とかされたら敵わんからな。

 少し離れた王宮の屋上から音声拡散道具を使って大声で演説をした。


「民衆の皆よ、たかが五倍の額で文句を言うのであれば、我が国には必要もない。すぐに隣の国へ行けばよかろう。私は逃げるものは追わぬ。だが、この国で忠誠を誓うものは丁重にもてなすと誓おう」


 私に対して敬意を示せば可愛がる。

 当然のことだ。


 だからこそ、蜜館の女共のことは大事にしたいし、今後もお世話になるだろう。

 そんな当たり前のことを言ったつもりだったのだが……。


「こんなクソ国家なんかにいられるか!」

「無能陛下は民衆を金になる道具としてしか見ていない!」

「隣にできた国へ引っ越すわ!」


 文句ばかり聞こえてくる。

 所詮はデモをしてきたバカ共だ。

 残った民衆共と協力し、我が国を蘇らせればそれでいい。


「陛下……。申し訳ないが私もこれ以上は未来が見えない国でやっていけませぬ。辞表を提出し、国を出ていきたいと思います」

「そうか。無能な父上が雇ったお前など止めるつもりはない。好きにするが良い」

「ありがとうございます。ではごきげんよう」


 部下など新たに雇えばいいのだ。

 私に文句ばかり言うような奴など必要もない。


 さて、募集をかけるか。

 いや、残った王宮の中で良さそうなやつを探せば良いか。

 今日は演説で疲れたので、明日やればいいだろう。


 私はそのまま自室へと戻り、一晩過ごした。


 そして翌日、自室を出て王宮内を歩き回ったが、誰もいなくなっていた。


「こんなバカなことが……」


 一体なぜだ。

 私についてこようと思う人間がゼロだとでも!?


 慌てて王宮の屋上から王都を見渡すが、人の影すら見えないことに気がついた。


「へ……!?」

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