第12話【毒殺してやる】

「バカな! ドックス!! き……貴様というやつは……」


 毒殺なんて簡単なものだ。

 バカ陛下の飲むグラスに遅効性の毒を盛っておけば良いだけの話である。


 私に対しての唯一の味方である毒味役のおっさんには、予め解毒剤を飲ませておいた。

 これでグラスに毒があったことはバレることもない。


 死に土産に色々と言いたいことを言っておいた。


「元父上がいけないんですからね。私しか継承できる人間がいないにも関わらず、別のものに継承しようとした罪は重いので!」

「く……バカ息子め……いつか痛い目を見るぞ……!」

「今のうちにほざけば良いですよ。私の国政で簡単に国を立て直してあげますので地獄から見ていてくださいね」


 しぶといバカ陛下がようやく息絶えた。

 あとは適当に死因を詐称しておけば問題ないだろう。

 さぁて、これで明日からは私が国王へと昇格なのだ。


「ドックス陛下。よかったのですか?」


 味方の毒味役が証拠を抹消しながら私に問う。

 私はスッキリした表情で笑顔になっていた。


「さすがだよ、早速私のことを陛下と言ってくれるんだからね」

「当然のことですよ」


 毒味役にしておくのはもったいない。

 こいつは後に私の側近の秘書にでも昇格させてやろう。


 ♢


「まさか……キャルム陛下が自殺をするとは……」

「国の残された希望が……」

「一体どうなってしまうのだ……」


 いつものように王都を巡回しているのだが、民衆の騒いでいる声があちらこちらから聞こえてきた。

 私の顔は公の場には明かしていないので、堂々と外を歩ける。

 つまり、蜜館に行き放題なのだ。


「アックスさん、いつもありがとうございます」

「今日も可愛い子を頼むね!」

「はいアックスさんは一番のビップなお客様ですから、こちらへどうぞ」


 アックスというのは私が街を巡回するときの架空の名前である。

 そしてここの蜜館にはほぼ毎日通っているのだ。

 この店がキャルムの営業している店じゃなくて助かった。


 いつものように行為を終わらせてからの雑談が始まる。

 しばらくの間、私はいつものように満喫させてもらおうと思っていたのだが……。


「アックスさんー、最近王都が大変なことになってしまいましたよねー」

「ん? そうなのか?」


 私は平然とした態度で聞き返すが、推しの女の子は冗談でしょうといった顔でクスクスと笑っている。


「いやいや、そうでしょう! ほとんどの大手の店が消えてしまったのですから……それに国王陛下まで亡くなってしまって」


 こんな場所でこの話題は聞きたくなかった。

 だが、今の私はアックスだ。

 我慢して聞くことにする。


「自殺だと聞いたが」

「でも、陛下の息子のなんとかっていう王子が暗殺を仕向けたって噂なんですよぉ」

「なんだって!? どこでそんな話を聞いたんだ!?」


 すでに真実がバレてしまっているだと!?

 あり得ない。

 慌てて推しの女の子に聞き返した。


「これは絶対に内緒ですよー。王宮で働いている人から聞いたんですけどね、王子が色々とやらかしたせいで王都がメチャクチャになったんだとか。それで王宮の中庭で大叱責されていたそうです。しかも、王子が国王になりたいなりたいって騒いでいたらしくて、殺してもおかしくないって……怖い話ですよね」

「そ、ソウデスネー……」


 やらかしたわけではないが、それ以外は全部当たってんじゃないか……。

 しかも推しの子に言われたら何も言い返せない。


「なんでも近くに新しい国ができたっていうじゃないですか。一層の事移住しちゃいましょうって話も進んでいますからね」

「なんだってーー!?」


 驚いてしまって、うっかり大きな声で叫んでしまった。


「あら、アックスさんはご存知なかったのですか? ここの店も近々移転するつもりなんですよ」

「ほへ!?」


 私の大事な店までなくなってしまうだと……!?

 そんなことさせてたまるものか!


 大至急王宮へ戻って対策をしなければならない!


「じゃあ俺はこれで!」

「あら、今日は速いんですねー」

「すまない。急用ができたんだ」


 慌てて王宮へと走った。



「ちょっと待てよ……」


 走っている最中にとんでもないことに気がついた。


 今までは顔を隠していたから蜜館に通うことができた。

 だが、国王と昇格したら流石に蜜館への出入りをして良いものかどうか。

 それを回避するために王宮直属のミツカンにしてやろうと企んでいた。


 だが、推しの女は、本来の私のことを相当なまでにボロクソ言ってきた。

 これでは良い環境での行為が望めないではないか。


 ど、どうしたら良いのだ……。

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