第8話 幼馴染は嫌い

「よう。久しぶりだな!」

「げ……噂をすればレオンハルト……」


 悔しいが、高身長で筋肉質で引き締まった肉体、おまけに誰が見てもイケメンだと思ってしまう顔。

 これで国で一番の剣士だからモテて当然だろう。


 だが、小さい頃から馴染みがある私から見たら、手当たり次第に女と抱きまくるこの男が嫌いなのである。


「そんな嫌そうな顔するなって」

「アンタに担がれていたなんて考えたら……」

「心配するな。お前の寝顔をしっかりと見させてもらったこと以外は何もしていないから」


 それはそれで許せない。

 これだけ沢山の女性と関係を持っているレオンハルトが、無防備な私に対して何もしないというのも、頭にくるのだ。


「私がブサイクで悪かったわね! でも助けてくれたことにはお礼は言っておくわね」

「勘違いするな。お前は特別だから安易に手を出さないだけだ。それだけのことだ」


 何を言っているのか意味がわからない。

 ただ、仕草も口調もイケメンだから、余計に腹が立ってしまう。

 小さい頃、私はこの男に初恋していたことを考えると情けなく思ってしまう。


「お父様、どうしてこんな女垂らしに任せたのです? もしかしたら私が寝ている間に変なことをされるかもしれないというのに……」


 今にも涙を流しそうな状態でお父様にあたってしまうが、意外な返事をしてきたのだ。


「レオンハルトには借りがある。それも俺が謝罪しきれないくらい重い借りがな」

「え? 一体何を……?」


 お父様がこんなことを言うのも珍しい。

 どういうことなのかを聞こうとするのは当然なのだが。


「いずれ分かる。ともかく、レレーナには残りの建物を収納魔法から出してもらったあと、頼みたいことがある」

「は、はい。それはもちろん! 何をすれば?」


 レオンハルトに対する借りは気になるところだが、今はまず国づくりを仕上げてみんなが元通りの住みやすい生活ができるようにすることが先決だ。

 一旦お父様の指示をしっかり聞くことにした。


「これも俺の予想だが、いずれデイルムーニに残った者達が揃ってここに来るだろう。それでは国の面積が小さい。そこで規模拡張のために更に奥へ進み、森の方まで我が国にしたいのだ」

「え? でもあの森には……」

「モンスターもいる。だから結界を張れなかったのだろう? だがレオンハルトと一緒に行けるならば安心だ」


 嫌な予感しかしない。

 いくら国づくりとはいえ、これは避けたいと思った。

 だが、私が『待った』と言う前にお父様から指示がくる。


「レオンハルトと共に森まで進み、モンスターを退治しつつ結界領土を広げてほしいのだ」

「ダイン様、承知致しました」


「頼むぞ。あの森には国の発展に役立つ資源がわんさか眠っているとの情報があるくらいだからな」


 二人は乗り気の中、私だけは憂鬱だった。

 まさか森に入った途端に私に変なことをしてこないだろうか。


 レオンハルトが出てきた影響で、私の思考がグチャグチャに崩れてしまったのは歪めない。

 いや、彼のせいではないのはわかっている。

 私がレオンハルトのことになるとムキになってしまっているのがいけないのだろう。


 でも、どうして毎回彼のことになると性格まで変わってしまうのかよく分からないのだ。


「ふぅ、全部完了っと」


 ひとまず私は、残りの建物を収納魔法から出した。

 最後に私達リンドバレル家を街の中心部に出して終了だ。

 ようやく全員が、それぞれ住んでいた家に戻ることができたのだ。


 翌日の作業に伴い、デイルムーニから展開していた結界は一部解除して、新国家と高原周辺だけの結界に変化させた。

 尚、人も結界には出入りができないようにしてあるのだ。


 小さい子供が結界の外に出て危険な目に遭わないようにするためと、デイルムーニから万が一にも襲撃を避けるためである。


「そういえばさっき、結界が反応したような……」


 もしも結界に触れれば魔法を発動した私が気がつくようにしている。


 気のせいかわからないが、先程家を出しているときに結界に人か馬車が進入しようとしていたような感覚があったが……。

 多分気のせいだったかな。

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