08


「何やってんだ、ほら」


お師匠様が手を差し伸べてくれる。

その手に自分の手を重ねると、あっという間に立たせてくれた。

だけどお師匠様との距離が意外と近くて、またドキリと心臓が音を立てる。


ほのかにシトラスの香が鼻をくすぐる。

お師匠様の匂い。


「お師匠様大好き」


ぼんやりした頭で勢いのままお師匠様に抱き着くと、お師匠様の肩がびくっと揺れた。


「おい、ローサ」


「昔はよくこうしてぎゅーってしてくれたでしょ」


「いつの話をしているんだ、いつの」


「ぎゅーってしてよーお師匠様ぁ」


子どもの頃は泣き虫で、よくお師匠様にこうやって甘えてた。

お師匠様も抱きしめ返してくれて、それがすごく嬉しくて。


「ったく、手のかかる娘だ」


お師匠様はため息をつきながら私の手を意図も簡単に剥がしてしまう。

『娘』と言われて心がぐさりと刺された気分だけれど、次の瞬間には体が浮いていて「わわわっ?」と驚きの声が漏れた。


「おっ、お師匠様?」


「部屋まで運んでやるよ」


普段なら魔法でポーンっと飛ばされるところを、今日はお師匠様の腕が私を抱えている。

そう、それはいわゆるお姫様抱っこというやつで――。


お師匠様の顔が近いぃぃぃ!

シトラスのいい香りがするぅぅぅ!


「どうした?顔が赤いな。熱が上がってきたか?」


「……うん、そうかも」


本当は違うけど。

そういうことにしておいて。


お師匠様は私を部屋まで運ぶと、優しくベッドにおろす。

まるで壊れ物でも扱うかのような丁寧さに胸がきゅんっと疼いた。

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