09
「あとで薬を持ってきてやるよ」
そう言うとすぐに部屋を出て行こうとする。
「待って、お師匠様」
むんずと袖をつかむと、眉間にしわを寄せた迷惑そうな顔のお師匠様と目が合う。
「おとなしく寝てろ」
「だって寂しいよ」
「ガキじゃあるまいし、俺は仕事があるんでな」
「てことは、私のこと大人だって認めてくれるのね?」
「そりゃ、お前、もう十八だし」
「やったー!じゃあ子守歌歌ってよ。昔みたいに」
「……やっぱりまだガキだな」
「お師匠様に見合う女だと思うよ」
ここぞとばかりにアピールするも、軽くデコピンをくらわされた。
お師匠様は大きなため息をつく。
「そういや、患者の息子がぜひ嫁に来てくれって言ってたぞ」
「何それ、興味ない」
「あとは隣村の商人もそんなことを言っていたな」
「私はお師匠様がいいの」
「俺はお前の親だろうが」
呆れた目で私を見下ろすお師匠様。
でもそんなことでめげる私じゃないの。
だって私はずっとずっとお師匠様が好きだし、ずっとずっとお師匠様と一緒にいたい。
お兄さんやお姉さんみたいにここを巣立っていくのも立派だと思うけど、私は違う。
ずっとお師匠様の側にいたい。
私を子供じゃなくて一人の女として見てほしい。
「お前はもう年頃の娘なんだ。嫁ぐことがお前の幸せなんだよ」
「私、出ていかないもん」
「だから……」
「お師匠様は私が邪魔なの?」
そうやって私に結婚を勧めてくる。
ここを出て行けと言う。
私はお師匠様が大好きだけど、お師匠様にとってみたら私はもう邪魔な子なのかもしれない。
お兄さんもお姉さんもお師匠様の教えのおかげで優秀で、世間から漏れずに立派に旅立っていった。
私もそうやってここを去ることが、お師匠様の期待に添うことなのかも……。
そんな風に考えてしまったら、さっきまで強気だった心が急にしぼんで不安でいっぱいになった。
邪魔じゃないって言ってほしい。
そう期待したのに。
お師匠様は何も言ってくれない。
それどころか、ため息まじりに「もう寝ろ」と言って私の額に手をかざす。
「あっ」と息つく暇もなく、お師匠様の魔法によって強制的に眠らされてしまった。
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