05


『おかあさん……』


そうだ、朧気だけどお母さんが甘いお菓子を作ってくれたことがあったんだ。

ポロポロと自然と涙がこぼれ落ちる。


『思い出させちまったか?』


お師匠様は私の頭をそっと撫でる。

久しぶりに触れた大人の優しさに、私は大泣きをした。

気づけばまわりの子たちもお師匠様を取り囲むようにして泣いていた。


お師匠様は大きなため息をひとつ、『魔王を倒しても世界が平和になるのはまだまだ先だな』と呟いた。


そして――。


『お前たち、今日から一緒に住むぞ』


と私たちをまとめて引き取ってくれたのだ。


大魔法使いであるお師匠様は、当然のごとく魔法が使える。

回復魔法を得意としていて、魔法だけでなく知識も豊富だ。


『魔王のいなくなった世界で魔法使いの役割は終わった』


そう言って、小さな診療所を営みながら子供達と生活することを選んだお師匠様。

私たちはお師匠様のもと、勉強に励んだりお手伝いをしたりして一緒に暮らした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る