第51話 完成

「次はアタシの番です」

「システムメッセージで分かっていたが、珍し組み合わせだな」

「アネモネさんはボイルさんの紹介ですよ! エプロンや調理器具を作ってもらいました!」

「したかったプレイができてよかったな」

「うん!! ですのでこれをどうぞ! スットクさんたちと比べるとほんの気持ち!」


 トレード枠に提示されたのは女子力が高そうな料理ばかり。男料理のボイルと違って、ヘルシーで野菜関係が多い。アヒージョだったりカルパッチョだったり、サラダだったり野菜スティックだったり、パンケーキやマカロン、肉じゃがや金平などの和食。ポテトサラダやロールキャベツもある。


「多種多様で個数も多いな……。作るの大変だっただろ。本当にいいのか?」

「うん! 約束だったし、やりたいことできてますから! それにリアルよりも作るのは簡単なので!」

「そっか。ありがとうな」

「いえいえー」


 サプリルは両手を左右に振りながら言うが、顔はにこやかで嬉しそうだ。そんな二人に声をかける者が一人。


「ボイルのスケコマシ」

「ララミヤ何言ってるんだ。かなり年が離れている相手だぞ。普通の扱いだろ」


 一回りくらい離れている相手だ。ボイルにとっては特別な対応ではない。


「そう思っているのはボイルだけかもよー。ほらサプリルの顔、赤いでしょ?」

「えっ!? アタシですか!? 本当ですか!?」


 両手で顔を包み込むように隠し、周りの人たちに尋ねる。


「……揶揄うのはその辺にしてやれ」

「バレちゃった」

「え? えっ? えぇー!!」


 あざと可愛く笑うララミヤに、遊ばれたことに気が付くサプリル。二人の関係性がよく分かる。


「でも、その反応は満更じゃないみたいだね」

「え? あ、あのーえっと、そのー、年上の方の包容力が優しいお兄ちゃんみたいだなーって。アタシ一人っ子だから、憧れもあって……!」

「そっちかー」

「リアルでもよく言われるな。自覚はできないが理解はできるぞ」


 面倒見がいいボイルは高校三年生くらいから年上年下問わず、お兄ちゃんや先生みたいと言われ続けられていた。社会人になっても変わらず、いや部下を持つようになってからは月一で言われていた。それはゲームの世界でも変わらない。


「邪推したうちが馬鹿みたーい」

「わかったわかった。それでララミヤの用事は?」

「招待されたからきただけだよ! あ、これはお祝い品ね」

「わざわざありがとうな」


 頂いたものは、ボスウルフの毛皮一式だ。それを二個も。ボイルが入手したボスファンゴの毛皮と同等の物だ。


「いいのか?」

「いいよー。パーティーでボスマラソンしたから余っててね!」

「ララミヤもついに固定の仲間パーティーができたのか。めでたいな」

「残念! 彼らは下心満載の人たちでしたー! ボスマラソンはよかったけどね。流石にバイバイしたよ」

「それは縁がなかったな」

「本当にね。いいパーティーあれば紹介してよ」


 そう言われハヤトが浮かんだボイル。


「これも何かの縁かもな。いいぞ。すでに宴会を始めてる奴で、戦闘が好きな奴がいるぞ」

「下心多い人?」

「俺と同じアラサーだからな。見返りを求める系はないと思うぞ」

「わかった。とりあえず交流してみるね」

「おう」


 流石は行動力が高いララミヤだ。それから少しの間、ボイルは女性四人と会話に花を咲かせた。ボイルは早く家に戻って宴会に参加したかったが、ストックがそれに待ったをかけたのだ。


「もうすぐで船が完成する。遊覧するぞ! 宴会も船上でやろうぜ」


 この意見に女性たちが積極的に同意した。リアルでは日焼け対策に船酔い対策。チャーターするにも手間がかかる。それがゲームにはない。しかもファンタジーな海を遊覧だ。男でなくてもワクワクしてしまう。


「動力は? この船をオールでか?」

「そこはシステムだ」


 ストック曰く、遊覧するだけならシステムで動く。ただし、敵が出るエリアにも行けないし、船上から釣りなどもできない。乗った場所に帰ってくるだけ。他の場所に移動はできない。本当にただただ、雰囲気を楽しむだけだ。そういうことなら家の奴らもこっちに呼ぼうとなり、ボイルはチャットで通達。今は話しながら彼らを待っている状態だ。


「エリアに行くには動力をどうにかしないとだな」

「そういうことだな。錬金術師の知り合いはいないからな。最初は小船を借りるのがいいだろ」

「宝の持ち腐れか」

「そういうことだ」


 諦めきれないボイルは、フレンドが多いララミヤに声をかける。


「知り合いに錬金術師はいないのか?」

「ごめんねー。鉄製武器が欲しいから沢山の生産職に声をかけたけど、錬金の人たちは下心持ちが多くてね……」

「それは仕方ないな。健全なプレイが大事だ」

「ありがとう」


 ボイルはオベールに行って紹介してもらうか、そういう特性のモンスターをテイムするか考えを巡らせた。だが、縁あってのこと。皮算用はすぐ終わる。そんなとき、ハヤトたちがやってきた。


「おーい待たせたなー」

「おうおう温かみのある船だな!」

「これは楽しみですね」

「ゲーム内で遊覧も乙なものだな」


 男たちはもう出来上がっていた。微妙に足取りが怪しい。声もいつもよりもでかい。お酒を飲むと感覚が鈍くなる。それは聴覚にも影響する。普段よりも自分の声が小さく聞こえてしまう。故に呑兵衛は話し声が大きくなるのだ。


「ゴブゴブ!」

「そうね。いい感じね!」

「カタカタ」

「楽しみだねー」


 テイムモンスターたちは姉妹と一緒だ。背丈が近い四人だが、姉妹の二人が保護者役だ。


「女性陣がこっちにいて申し訳なかったな」

「問題ないです」

「気にしないでください。可愛いモンスターさんたちと楽しんでいましたのでー」

「そ、そうか」

「はい! 小動物みたいに可愛いですー」


 サーラははにかみながら、サーヤは逆に呆れ顔だ。


「双子の姉だけど、サーラの下手物げてもの好きだけは分からないわ」

「そ、そんなことないよー」

「自覚しているから恥ずかしそうなんでしょ!」

「お、お姉ちゃんのいじわるー!」

「はいはい」


 二人の可愛いやりとり。周りの空気も微笑ましくなる。だがストックの雄叫びで四散する。


「完成したぞおおおお!!」

「よっしゃ!」

「ついにだな!」


 真っ先に反応したのはハヤトとシームス。それからは各々が思い思いの感情を漏らした。


「ボイル! 一番はお前だ!」

「いいのか?」

「当たり前だ! 儂も早く酒が飲みたい! 遠慮はいいからさっさとしろ!」


 ボイルはとっさに周りを見たが、全員が速くしろと訴えかけていた。


「……ありがとう」


 ボイルはフレンドに見守られながら船に乗り込んだ。しっかりとした板材の上なのに、ゆらゆらと全体が動く。桟橋では感じなかった磯臭さも、海特有の少しべた付く風もすべてがボイルに海を体感させる。もちろん、きらきら光る波間も海を強烈に認識させる。


「ボイルまだかよ!」


 感傷に浸っていたボイルにお調子者の声が邪魔をする。


「……ッチ。よし、全員乗り込め! 遊覧パーティーの始まりだ!!」

「そうこなくっちゃ!!」


 ボイルの音頭とハヤトの合いの手。それを受けた面々は一斉に乗り込む。


「いいねいいね! すぐ飲もうぜ!」

「早速飲むぞ!!」

「私もご一緒しますね」

「俺もだ」

「儂も飲むぞ! ほら遊覧開始だ!」


 スットクはウインドウ内のボタンを押す動作をする。すると船がゆっくりと動き出した。


「「「乾杯!!」」」


 ボイルは船首に立ち、風を体全体で感じる。後ろでは男どもは酒を飲み、女性陣は会話に花を咲かす。ディノスはご飯が食べられる宴会に混ざっていた。アークはボイルの後ろだ。

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