第50話 これは幸いと
ボイルは出鼻をくじかれるた。
「あー悪い。他のフレンドも来てしまったみたいだ……。俺は迎えに行ってくる」
「なら俺も行くわ」
「いいか?」
「模擬戦闘で無視させてしまったからなー」
「了解。アークたちと三人は好きに食べ飲みしていくれ」
全員がグラスを掲げながら返事する。流石は飲み会だ。エリナは共通の友人だ。ボイルは来客がエリナだとハヤトに伝えた。二人は外に出て訪問者を探す。といっても、見渡せるくらい何もない畑だ。すでに人影は視界に収めている。そこに向けて歩くだけである。
《プレイヤーがホーム訪問を申請しました》
「あっ」
システムメッセージ通知と同時にハヤトが変な声をだす。
「悪い。あれは俺の仲間みたいだ」
「もしかして申請してきたのも?」
「そうみたいだ。外から俺が見えたみたいな」
「ハヤトだけが見えたのか? 隣の俺は?」
「それはほらシステムの――」
プレイヤーがホーム主とフレンドなら、外からでもどんな人か見れる。違うと姿は見れない。ホーム訪問を得れていないフレンドも中は見れない。これは栽培物や畜産動物たちも含まれる。故に、申請者たちはフレンドのハヤトだけが見えたということになる。ボイルとハヤトはホームの外へ一歩踏み出す。すると、申請者たちからもボイルが認識できた。
「俺がこのホーム主のボイルだ。ハヤトとは酒を飲み合う仲だ」
「私はサーヤ。ハヤトとはギルメンです。こっちは妹です」
「初めましてー。私はサーラっていいます。お姉ちゃんと
お互いに軽く会釈をし合う。そんな姉妹に関係者のハヤトは尋ねる。
「で二人ともなぜここに?」
「ハヤトが私たちに土地購入を任せたんでしょ!! ご近所さんがいる土地だったから、挨拶しないと思ったらハヤトがいたのよ!!」
「女子大生とショッピングはおじさんにとってはキツイの! ゲームでもリアルでも同じなの!!」
「ハヤトさんは確かに叔父さんですもんね」
サーヤはしっかり者の風紀委員長タイプ。サーラは逆に甘え上手でおっとりタイプだ。二人とも背丈は同じ。髪色も綺麗な薄青だ。サーヤはストレートロング。サーラは長い髪をポニテにしている。目鼻も似ているが性格が表れている。身内感満載の三人。ボイルは蚊帳の外だ。そんな状況に気が付くのも、しっかり者のサーヤだ。
「ごめんなさい! これからご近所になります! よろしくお願いします!」
「こちらこそよろしく。ハヤト、お前隣の土地なの黙ってたな」
「サプライズってもんよ!」
「はぁ……」
男の、しかも中年の恥ずかし嬉しいの得意げな顔。ボイルは気持ちを切り替えるために、あからさまに大きなため息を付き首を左右に振った。
「ハヤト、二人はどうする? 一緒に楽しんでもらうか?」
「エリナたちが来るなら二人とも大丈夫だろ」
「ならゲストで訪問許可を出す」
「ありがとうな!」
女性二人だけなら浮くが、エリナたちもいれば問題ない。ボイルは要領を得ていない二人にゲスト訪問の許可を与える。
「どういうことですか? ハヤト! 説明してよね!」
「え? え?」
「いや、実はな――」
酒を飲みにここに来たこと、ボイルのフレンドが偶然集まってしまうこと、その中にエリナがいることなどなど。
「まあ、プレイヤー交流の一環だな! それに鉄鉱石の情報は、このボイルと一緒にいたから得られたんだぞ」
「そう言われたら断りにくいじゃない!」
「あ、ありがとうございました!」
「こちらこそだ。ご近所でもここはゲーム内だ。少しでも嫌になったら途中で帰ってもいいぞ」
ボイルの素朴な疑問。ハヤトは手を打って納得顔。
「あっ! そっかー。そういえばだな。というわけで、気軽に参加してくれ」
「そっかーじゃないわよ! ただ忘れてただけでしょう!!」
「あはは、そうとも言うな」
「そうしか言わないわよ。これだから叔父さんは……」
「ごめんねー」
仲がいいからこそのギルド設立メンバー。ボイルは一瞬寂しく思ったが、アークたちの顔がよぎり、それは四散した。
「お言葉に甘えて参加させていただきます!」
「せっかくの宴会だ。人が多いに越したことはない! ハヤトは二人を案内してやってくれ」
「エリナたちはいいのか?」
「そっちは俺だけで問題ない。おじさんなら二人をちゃんとエスコートしてやれ」
ボイルは鼻で笑いながらハヤトに伝える。
「っけ! そこまで言われたらやってやろうじゃねー!! ほら、二人とも俺に続け!!」
姉妹はボイルに一礼してから、大股で歩き出しているハヤトの後を駆け足で追うのだった。
「さて、エリナたちはどこだろうな。見渡しても人影がないってことは、防風林か海岸か」
ボイルは入れ違いにならないように、当初とは違って速足で目的地まで向かう。防風林からは人の気配がないが、海岸からは楽しげな声が聞こえてきた。どうやら目的の人物たちのようだ。
「おいおい、これはなんだ!?」
海岸に出たボイルに飛び込んできた光景は信じがたい物だった。短めの桟橋に一〇人は余裕で乗れるほど木船。姿かたちはまさに海賊船。
「ッチ。バレちまったか」
「バレたってお前……」
「まあ、俺たちから日頃の感謝を表した結果だな」
ストックの言葉にエリナとアネモネも賛同する。
「新居祝いだよ。まあ私たちも使わしてもらおうと思っているがね」
「それは全然かまわないが……もらいすぎだろう……」
「ボイルンさんならそういうと思ってました!」
ここぞとばかり、エリナは満面の笑みでしゃしゃりでる。
「私からの日頃の感謝はこの武器です!」
インベントリーから取り出した武器は鎚だ。ただし普通の槌ではない。大まかな形状はハンマーだが、片面には長く大きな棘が一つついてた。もう片面は通常の平だ。
「これは……」
「ぜひこれでゴーレムを倒してきてください!」
「鉄鉱石が欲しいと?」
「はい! まだまだ鉄製武器は行き渡っていませんからね! それに相場が上がりました! 高値で買い取りますよ! 船や桟橋の木材費が少し高かったので……」
「そう言われると益々断りづらいな……。まさかそれを見越して……」
「ボイルさん直伝! 大人は意地悪!」
「……はぁ」
「それに先行投資ってやつでよす!」
「はぁ」
ボイルは過去の自分を殴りたくなった。それでもこの親切は、受け取らないといけないもの。押しつけの善意ではなく純粋な気持ち。
「ストック、エリナ、アネモネ。三人ともありがとう」
「いえいえ!」
「これからも御贔屓に」
「気にするな! 儂も制作意欲が抑えきれなくてな! あっ! しまった!」
つい口が滑ったのだろう。ストックはバツが悪そうにボイルをチラチラとみる。
「はぁ……。仕方ないか。俺も技術者の端くれ。物を造りたい気持ちは分かる。それに、それ以上に船はありがたい」
「助かった。ありがとうな」
「なら維持やメンテナンスの素材もスットク持ちだな」
「おいおい、それは困るぞ」
「冗談だ」
「意地が悪い奴だな」
四人はにこやかに笑い合った。船を稼働するには係留施設が必要だ。それには管理が可能な土地が必要である。製造材料があっても、土地がなければ無意味。
技術者の製造意欲は沸々と沸き上がり、ストレスのように蓄積され、一気に爆発する。要するにストックは、ボイルが土地を得たことで、これ幸いとそれらしい大義名分を掲げて、更にはエリナたちも出汁にして、後戻りできない状況に仕立て上げてまで船を造った。
ある意味、ボイルは使われたのだ。人によっては面白くないだろう。だが彼らは似た者同士の社会人だ。独占的で独善的な考えはしていない。持ちつ持たれつだ。これらを使う度にボイルは感謝するだろう。ありがたみを感じるだろう。彼はそういう性格の持ち主だ。
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