第49話 プレイヤー優遇

「ゴブッ!」

「うお!?」


 挨拶代わりと言わんばかりにディノスはファイヤーボールを仕掛ける。ハヤトはそれを変な掛け声を出しながら横跳びで避ける。ディノスはその着地点にトマホークを投げる。


「ゴブ!」

「やるな! だけど甘い!!」


 ハヤトは切り上げで斧を遠くに弾き飛ばす。


「どうだ! プレイヤーの片手剣特化のステータスは!」

「……威張れることか?」

「そこはほら、のりで!」

「ゴブ!」

「うぉ! 槍、はっや!!」


 プレイヤー同士のやり取り。だが、ディノスには関係ない。隙あらばだ。それは単純な通常攻撃。ディノスの技術でもある。


「楽しめそうだな」

「ゴブ!」


 いつ覚えたのかボイルは知らないが、ディノスはスピードやテクニックで相手を翻弄させようと動く。槍を地面に突き立て支柱扱いして体を回転させ、その勢いを利用して槍を抜き、振り下ろす。さらには足に向けて薙ぎ払いや、ドロップキックなどシステム的な効果がない動作も取り入れていた。それは喧嘩殺法に近い。


 それでも流石はハヤト。剣でいなしたり、あえて武器をぶつけて、その反動を利用して次につなげたり、プレイヤーらしい動きだ。攻撃ヒット回数ならディノスが多いが、その殆どはかすった程度。直撃はない。逆にハヤトのヒット数は少ないが、すべてが急所。装備でも負けていれば、結果は徐々に見えてくる。


「……ゴブ……」

「そこまで!! ディノス、いい戦いだったぞ」

「……ゴブ」


 ディノスは肩を落としながらハヤトから離れる。


「カタカタ」

「……ゴブ」


 あからさまに落ち込んでいるディノスをアークは慰める。仲の良さが伺える。


「次はアークだ。いけるな」

「カタ」


 大きく頷いたアークは、ディノスに戦いを見るように身振り手振りで伝える。


「ゴブゴブ」

「カタ」

「ゴブ!」


 心温まるやりとりだ。


「カタ!」

「やっとアークと戦えるぜ!! ボイル掛け声!」


 二人は少しだけ距離を開け構えをとる。システム上はまだ、決闘が続いている。ディノスの時のようなカウントダウンはない。故に掛け声がいる。


「その前に回復はいいのか?」

「二人のやり取りの間にポーションで済ませた! だからボイル早く!」

「分かった。それでは……始めッ!!」


 アークは小盾に身を隠しながら、ゆっくりと前進。ハヤトは駆け足で距離を詰める。


「手始めにスラッシュ!」

「カタ!」

「うぉ! 流石だな」


 ハヤトはわざと盾にアーツを叩きこむ。アークはそれをパリィで返すが、ハヤトは予想していたのか体勢を崩すまではいかなかった。いや、それすら利用して距離をとる。


「予測していたのか?」

「もちろん! ボイルの槌を弾いていたの見てたからな」

「流石ガチ勢」

「笑いながらいうなし!」


 プレイヤー同士のやりとりをちゃんと待つアーク。流石空気も読めるスケルトンだ。


「じゃー小手調べはこれで終わり! やるか」

「カタ」


 それからの戦いは壮絶を極めた。ハヤトは回避主体の攻撃。アークはカウンター主体の攻撃。プレイヤーの攻撃は盾で、スケルトンの攻撃は回避でそれぞれがやり過ごす。それでもシステム的なプレイヤー優遇は徐々に勝敗を傾かす。


「……カタ」

「いい勝負だった! またしような」

「カタ」


 見学していたボイルとディノスは拍手で二人を称える。ボイルはさらに降参を選び、決闘システムを終了させる。


「ボイルもありがとうな!」

「約束だったからな」


 中年同士はグータッチをし合う。


「あの二人仲がいいな」

「テイムモンスター同士、仲が悪いよりいい方がいいだろ」

「それもそうだな! よしっ! 家に帰って飲もうぜ!!」

「おう! 二人とも宴だぞ」

「ゴブゴブ!!」

「カタ!」


 少し悔しがっていたアークも宴と聞き気分が上がった。装備を脱いだ四人は、酒や飯の話題で笑顔になる。家に近づくと、その前で立ち往生している人たちにハヤトが気付く。


「おいボイル。誰かいるみたいだぞ」

「……確かにいるな。……あれは……フレンドの連中だな」

「なら俺も紹介してくれよ。感が同類だって言ってるし!」

「その感は優秀だな」

「やったぜ!」


 家の前にいたのはイケオジパーティーの三人だ。胡散臭い優男のキアスン。ガテン系のシームス。尖った色気を醸し出すサクスク。彼らも装備類は着ていなかったが、服装は初期のままではない。各自に似合っていながらも、ファンタジーゲームに沿っているデザインだ。


「ボイルさん探しましたよ。フレンドリストではホームにいると表示されているのに、家にいませんから」

「それはすまない」


 声をかけたのはキアスン。どうやらフレンドの位置情報は細かくないようだ。ホームと表示されていても、家の中なのか畑なのか海岸なのか防風林の中なのか定かではないようだ。といっても、チャットを送れば済む話でもある。


「チャットしてくれたら、すぐに返していたぞ」

「しました。私たち三人から三回ずつしました」


 キアスンの言い方は部下を諭す上司のようだ。ボイルは居たたまれなさを誤魔化すためにチャット欄を遡る。生産や模擬戦で気が付かなかった未読のシステムメッセージたち。


『お招きありがとうございます! 前のお礼と新居お祝いを兼ねて私が作った料理お届けしますね! あ、どこか行くならチャットください』

『許可ありがとうねー! 引っ越し祝いに何か持っていくからねー。ダメなら返信よろしくー』


《フレンドのハヤトがホームを訪問しました》


『改築の下見ついでにエリナとアネモネも誘って今から行ってもいいか? 渡したい物もあるし都合が悪いなら返信くれ』

『お招きありがとうございます。ホームに滞在しているようなので前回のお礼と新居祝いをお持ちします』

『都合が悪いならまたの機会にするぞ。どっちにしてもチャットくれ』

『無視はよくないぞ』

『よーし!! 今から三人で行くからな! 無視した償いだ! 酒か飯奢ってくれよ!!』


《フレンドのキアスン、シームス、サクスクがホームを訪問しました》


 ボイルは自分のミスを後悔する。いや、総勢九人。もてなす準備なんてできていない。ボイルは焦燥感に駆られる。


「……すまない。生産や模擬戦をしていて気が付かなかった。申し訳ない」

「まあ、ゲームですからね。そういうこともありますね」

「よし! 酒か飯で手を打つぞ!」

「っとその前に、これは俺ら三人からだ」


 サクスクからのプレゼント。提示されたのは大量の酒。種類は少ないが数が多い。そして一〇個の鉄鉱石。


「いいのか?」

「遠慮なく受け取ってくれ。そして酒を奢ってくれれば問題ないさ」

「ははは、わかったわかった。この酒も使って宴会だな!」


 ハヤト以外の男が笑い合う。蚊帳の外の男はどこ寂しそうにいじけていた。それに逸早く気づいたのはキアスン。流石はコミュニケーションに気を使う熟練の営業マンだ。ただ粋がっている中年から若手の営業マンたちとは違う。


「その前に彼を紹介してくれませんか?」

「この男は俺たちと同じ酒好きの一人だ」

「ハヤトだ。よろしくな!」

「私はキアスンです。敬語は癖になっているのでご了承ください」

「俺はシームス! よろしくな!!」

「俺はサクスクという。よろしくな」

「ボイル! 形式張った挨拶はこの辺にして、酒でも飲みながら友好を深めようぜ!!」

「カタ」

「ゴブゴブ!!」


 ハヤトの掛け声に男たちは熱い声を上げる。五人とテイムモンスター二体は家に入り、一階で飲み会を始める。酒や料理は各自の持ち込みだが、それではホスト役のボイルの気は収まらない。自作した酒や料理も大盤振る舞いだ。机の上はそれらで埋め尽くされた。


「それでは、乾杯!!」

「「「乾杯!!」」」

「カタ!」

「ゴブ!」


 こうして漢たちの宴が開始される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る