エピローグ
第48話 来客
「ふぅ。これで完成だな」
ボイルは大きな達成感を得ていた。ここは家に隣接している作業場の中。この中でできることは料理と酒造だ。ボイルの周りには、制作したばかりの酒が綺麗に並べられていた。いい匂いもしているが、料理系はインベントリー内だ。
「ふっふっふっ……これだけあれば十分楽しめるぞ。おかげで時間がかかった」
酒を眺めながら一人ニマニマする筋肉質な男。はたから見ると不審者だ。現実はそろそろ夕方。ゲーム内時間も同じくらいだ。ボイルが制作した酒は、蟹酒、スライム酒、回復酒、薬草酒の四種類だ。
スライム酒はスライムの体液から。回復はオレンジリーフから。薬草はグラトリグサから。この三種類の素材は酒造スキルで品質が判明した。故に酒造にも適した素材。
オレンジリーフやグラトリグサは調合スキルでも回復アイテムが製造できる。リーフは体力が少し回復するポーション(小)。グラトリグサは弱麻痺を直すグラトリ茶。
回復量は酒造の方が少し高い。ただ酒は大量に使用すると状態異常にもなる。使い方には気を使わないといけない。その代わりポーションは多用できる。戦闘職にはポーションが使い勝手がいい。
「おーーい!! ボイルいるかー!! ハヤトだぞー!!」
玄関先から大きな声が聞こえてくる。ボイルの心の中は疑問で埋まっていた。ホームに許可したのはエリナ、アネモネ、ストックの三人。ハヤトを許可した覚えはない。それなのに敷地内に入って、家の前にいる。疑念が生まれても仕方がない。ボイルは酒をインベントリーに入れ、半信半疑のまま玄関先に赴く。
「おーいたいた! 許可ありがとうな! これ新居祝い!!」
ハヤトはボイルにアイテムをプレゼントする。トレードとは別システムだ。そこに並べられたのは、ボイルが作っていた酒だ。一種類につき二〇から三〇はある。
「あ、ありがとう」
「いいってことよ! 俺たち飲み仲間だろ!! で中はどんな感じよ?」
中を覗き込みながらハヤトは尋ねる。
「い、いや! 少し待ってくれ。頭が追い付かない」
「なにが?」
ハヤトは意味が心底分からずキョトン顔だ。
「すまん。一個ずつ、聞かせてくれ。」
「分かった」
ボイルはまずなぜ、ホームに入って来られたのか尋ねる。
「許可されたからに決まっているだろ」
もしやと思いボイルはフレンド欄を開く。
「はぁ……。そうだな。許可したな! よく来てくれた!」
先ほどとは打って変わって、家主は来客者を歓迎する。
「おう!」
「それでこの酒は?」
「露店で売っていたから買ってきた! 宅飲みしようぜ!!」
「そうか! よく来てくれた! さあ中へ」
「ありがとう!」
なぜ打って変わって歓迎したかというと、ボイルは個別に訪問許可を出した。そう思っていた。だが、実際は一括で許可を出していた。
例え間違いで許可を出したとしても、わざわざ家まで来てくれた友達に、間違いでした帰ってくださいとは普通の人は言えない。そして間違えた手前、ばつもわるい。結果、ボイルはハヤトを招き入れる。
「へー! いい感じだな! 上の階は?」
「二階は一人用の個室が七部屋。三階は大きな一室と、これまた広い屋上テラスだ」
「屋上でBBQできそうだな!」
「上でしなくとも、家の前ですればいいだろ」
「どっちでもありだな!!」
ボイルはそんな話をしながら屋上まで案内し終わる。そして二人は一階に戻り、酒のチビチビと飲み始める。
「それでハヤトの仲間は?」
「今ギルド設立申請しているよ」
「お前はいなくていいのか?」
「どうも初めまして! お飾りのギルドマスターです!」
「……はぁ」
お茶らけて言うハヤト。大きなため息を付き呆れるボイル。同年代なはずなのに、タイプが違う二人。
「ギルドって言っても、実際は仲がいい奴らで過ごせる場所が欲しかっただけだしな!」
「俺の家みたいなものか」
「それなら一緒な理由だな!」
ありていに言えば溜まり場が欲しかっただけで、攻略組でもなければガチ勢のみ参加可能ギルドでもない。仲良しグループの延長だ。
「招待してくれよ」
「もちろん! っていってもギルド専用施設じゃないからなー。最低限の家だし」
「なら場所は農場か」
「そ! ボイルと同じ農場! そして海沿いも一緒!」
「まさかご近所さんだったりしてな」
「そんな偶然あるかよ! お、噂をすればだ!」
どうやら、チャットで購入した場所の位置情報が送られてきたようだ。
「海沿いなのは事前通りだなー」
「その拘りは?」
「購入している女子二人が海辺で遊びたいとのお達しだ」
「なるほど。だからハヤトは一人寂しくこっちにきたと」
「女子の買い物は長いからな! まあそういうこと!」
ハヤトは一通り確認し終えたのか話題を変える。
「でアークはどこよ?」
「……やるのか?」
「あたりまえよ!」
「わかった。呼びに行ってくる」
「どうせなら俺も一緒に行く! 戻るのも二度手間だろ」
「それもそうだな」
ボイルはミニマップからパーティーメンバーの場所を確認し、ハヤトを引き連れアークに会いに行く。アークとディノスは防風林の傍にいるようだ。マップからは位置情報だけで、何をしているかまではわからない。
「いたぞ。鉄鎧がアークだ」
「小盾を見ればわかるさ! それよりあのゴブリンは知らないぞ」
「紹介してなかったか?」
「してない!」
テイムモンスターの二人は、防風林の中や側で木や茂みなどの障害物を活かした訓練をしていた。
「ゴブリンはディノスという名前だ。やるか?」
「もちろん!」
「分かった。決闘を申請するぞ」
「おうよ!」
ボイルはハヤトに決闘を申し込む。システム的にはデメリットがない対人戦だ。
《決闘が受理されました。プレイヤーはスタートボタンを押してください》
スタートボタンを押すとカウントダウンが始まる。その前に各プレイヤーは決闘の条件を決める。そこで合わなければ、決闘を一方的に破棄することも可能だ。
「カタッ!?」
「ゴブッ!?」
システム的に感づいたのか、二人は動きを止める。二人は辺りを見回す。そしてボイルと目が合うと、駆け足で歩み寄った。
「二人とも、この男と決闘だ。いいか?」
「カタカタ!!」
「ゴブ」
アークはやる気満々。ディノスはどこかうんざりしていた。
「ディノス。この後はご飯だぞ」
「ゴブ! ゴブ!」
現金な奴だ。
「システム上は三体一でいいか?」
「もちろん。よしっ! 最初の相手はディノスからだな」
「アークじゃなくてか?」
「ショートケーキのイチゴやお子様ランチのエビフライは最後に食べる性格なんだ」
照れ笑いながらハヤトはそういう。
「中年の可愛さアピールは求めてないぞー」
「うるさいな!」
「スタート押すぞー。準備はいいのかー?」
「カタ!」
「ゴブ!」
先ほどまで訓練していた二人は問題ないようだ。
「ちょっと待て! 今装備するから!! ……ほらどうよ! 武器も防具もディアン山産だぞ!」
流石はゲーム。装備もすぐだ。
「たしかにその防具の素材は見たなことないな。剣は鉄製だな」
「武器はボイルと同じだよ。革鎧はバラヌスとボスウルフの混合だぞ」
バラヌスの革は爬虫類のような雰囲気だ。裏地や関節がこの素材。急所などはその上から、ウルフの素材が使われている。第二エリアの素材。革鎧でも現状では高い防御力を誇る。
「強そうだな」
「これでも戦闘職だからな! よし始めようぜ」
その掛け声にディノスは構えをとる。武器は斧でいくようだ。無論槍も装備している。二人はスタートボタンを押す。そしてカウントダウンが始まった。三。二。一。
「ディノス! 任せたぞ」
「ゴブッ!!」
「よしこい!!」
二人は相手に向けて同時に走り出す。
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