第45話 アクセサリー

「アクセサリー枠の解放か」


 ピアス、ネックレス、ブレスレット、アンクレット、リング。計五ヶ所、好きな場所に装備できる。ただしアクセサリーの装備個数は全身で二個まで。


「近接で武器を振るうからな……ピアスかネックレスが無難だな」


 ブレスレットやリングをしていると、戦闘時に違和感を覚える人もいる。


「ハーフェンのクエストも終わらせれば、何かが解放されるのかもしれない。……しかし、アクセサリーの情報なんて掲示板に乗ってなかったぞ……」


 ふと気になり、ボイルは掲示板を見返す。


「メインクエストの報酬関連のスレは……普通にあるな。ということは、各自の進行速度で見られるスレと見られないスレがあるのか」


 このゲームは探検や調査を推奨する。そういうシステムがあっても可笑しくない。


「カタ?」

「なんでもない。エットタウンに戻るぞ」

「ゴブゴブ!」」


 目的地はこの町の中心にあるポータルだ。ボイルは後ろ髪を引かれながらも通りの魚屋を横切っていく。中心地は、エットタウンのようなファンタジーらしい場所ではなかった。広場と言えば広場だが、隣接している木製建物は全て住宅のようで、窓には洗濯物や干物が干してある。


「生活感あふれる場所だな……。よし、エットタウンに戻るぞ」

「カタ」

「ゴブ」


 ボイルはポータルに手をかざす。すると転移先の選択ウインドウが現れた。エットタウンのほかには、道中のセーフティーエリアも記載されている。ボイルはそこからエットタウンを選ぶ。そして三人の転移が始まる。


「やっぱりファンタジーはこれだよな……」


 噴水の水しぶきが、夕日に照らされ淡く光る。それに石畳。周りの建物も非日常を演出している。


「二人は先にオベールに戻っていてくれ。俺は鎧の素材を渡してくる。メンテナンスも頼むからな。装備も一旦返してもらうぞ」

「ゴブ!!」

「そうだ。ディノスの鎧だ。アークと俺はまた今度な」

「カタ!」


 アークたちはインナーの服にビブスを着てから別れる。ボイルはテイムモンスターと別れ、アトリエに向けて移動を開始する。通りはプレイヤーがチラホラと行き交っている。その大半が真新しい木製武器や革鎧を装備している。他にも初期防具のデザインと違う布防具も伺える。鉄製の武器や鎧はまだまだ少ない。稀にいる程度だ。


 獣系は相変わらず人気だ。全体的な割合から見ても増加している。たまにゴブリンのテイマーもいた。だがスケルトンは見受けられない。


 道中とは違い、第一ギルド周辺はプレイヤーで賑わっていた。よく見ると屋台が出ていた。パーティー単位で話している人たちや、店先で食べているプレイヤーたちなどなど。その様、広場で稀に開催しているフェアーのようだ。


「混ざりたいが……今は約束が先だ。次に期待だな」


 ボイルは酒が好きだ。こういう雰囲気の宴会や祭りも好きだ。率先して盛り上げるではなく、その空間にいるだけで満足する質だが好きだ。それでも約束を蔑ろにするような成人ではない。


「外は賑やかでも、中はそうでもないな」


 ギルド内のプレイヤーはまばらだった。ボイルにとっては好都合だが、生産を少しかじっているプレイヤーからすると少し寂しくもなる。


「はーい! 今開けます! お待ちしていました。ボイルさん中へどうぞ」

「お邪魔する」


 中ではアネモネとストックが生産に精を出していた。


「ボイルさん、ご紹介ありがとうね」

「ついに家を建てるのか!?」

「その話は後だ。まずはこの皮だ」


 ボイルはインベントリーからボスファンゴの全身毛皮を取り出し、作業台の上に広げる。


「大きいですね。これは……」


 アネモネたちも一旦作業を止め、毛皮を手に取る。


「エリナちゃん……これだけで四人分の全身革鎧作れるわよ」

「はい。それに品質が高いですし、初めて見る素材です」

「ボスファンゴの毛皮ならある程度持ち込まれているけど……これはレアってことね」

「そうですね。ボイルさん詳しくお聞きしてもいいですか?」

「是非話させてくれ。俺も気になることがある」


 ボイルは敵の強さについて話す。エリナたちも所々質問し、詳しく戦闘行動を聞く。


「それはアレじゃないか。ボスだけプレイヤーの強さに比例するってやつだろ」

「ゲームにはよくある設定ですね」

「ストーンゴーレム狩りでスキルが上がったボイルさんなら、ありそうね」

「なるほど……」


 ボイルは不満そうに言う。それに対しエリナが首をかしげながら聞く。


「どうしてですか?」

「自身が強くなっても、ボスは簡単に倒せないだろ。比率なのは頭で理解しているが……気持ちがなかなか……」

「そのおかげでレアアイテムを入手したんですから! 前向きに考えましょう!」


 エリナの前向きな笑顔に、ボイルの気持ちが少し晴れる。


「そうだな。前向きに考えて、これでディノスの革鎧を二人で新調してほしい。依頼料はどれくらいだ?」

「残った素材でお受けしますよ。よくしていただいているので! アネモネさんはいかがですか?」

「私もそれでいいわ。今まで以上にワイルドさが引き出せるわね!」

「もう、楽しみです!」


 年の離れた女性二人は姉妹のように喜び合う。


「その前に、他の素材も売りたい。エリナ、トレードいいか?」

「はい。大丈夫ですよ。あ、ホワイトリリーも買い取ります」

「それはありがたい」


 ボイルはトレード画面に不必要な素材をどんどん追加していく。酒造と料理スキルに使えそうな素材は売らないみたいだ。


「牙からネックレスが製作可能ですよー」

「アクセサリーのこと知っているのか?」

「もちろんです! まだ掲示板は見られませんけど、お客さんから直接聞きました! そうしたら、アクセサリー制作についてのヘルプ! でも私たちの解放はまだです。それで制作しますか?」


 いくらシステムで遮断しても、人の口に戸は立てられぬ。


「なら三個作れるか?」

「最大四個作れますので大丈夫です!」

「なら頼む。後、俺たちの装備のメンテナンスも頼む」

「わかりましたー。制作料金は天引きして……売値は一〇万Sでいいですか?」

「それで頼む」


 第一エリアの素材はすでに多く出回っている。すでに価格は落ち着いている。


「毎度ありがとうございます! すぐに作りますね」

「ご贔屓ありがとうね」

「これからもよろしくな」


 女性二人は早速、分け合う素材について話し出す。


「土地を買うつもりだが、家はどれくらいで立つ?」

「やっと俺の出番か。ボスファンゴの素材でそう言いだすと思っていた」

「なら話は速いな」


 二人は不敵に笑う。


「だな。話は速い。結論から言うなら、素材がないから作れないだ」

「おい」

「木材も基礎になる石材も釘に必要な鉄鉱石も何もない」

「全部売らなければ……」

「また取ってくればいいだろ?」


 ボイルは大きなため息をつく。


「素直にギルドで買うか」

「それは手っ取り早いな」

「装備が出来上がるまで暇だしな。今から買ってくる」

「二人には俺から言っといてやる」

「頼む」


 一応、二人に外に出てく主旨を伝え、ボイルは部屋を後にした。


「すまないが、土地と家を購入したい。手続きはどこだ?」


 ボイルは近くにいた職員に尋ねる。


「あちらのカウンターでお伺いしています」

「ありがとう」


 教えてもらったカウンターに赴き、ボイルは再度同じことを言う。対応するのは若い女性職員だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る