第44話 ボスファンゴ

「来たぞッ!」


 通常のファンゴより数倍大きい体高。立派で鋭い二つの牙。大量の体毛は硬く、生半可な攻撃は効き目がなさそうだ。さらにチリチリとした毛質は、触れれば痛そうだ。それがボイルたちを目掛けて突進する。


「各自別方向に回避!」


 三人は駆け足で逃げる。


「俺のほうに来るかッ! バブルスプラッシュ!」


 ボイルの魔法は相手の顔に勢いよく当たり、少しだけ減速させることに成功した。それを見てアークたちも魔法を放つ。


「ゴブゴブ!」

「カタ」


 ディノスはファイヤースピア。アークはアイスフロストで追撃をする。


「ブゴォッ!?」


 炎魔法が鼻にあたり、突進のリズムが乱れる。そこに氷魔法で足元が一時的に凍結し、ボスファンゴは身体を地面に擦り付けながら滑る。


「今だ! 総攻撃!!」


 全員が駆け寄りアーツを連続で叩きこむ。


「ハウリングソウル! ハンマーヘッド!」


 攻撃アーツの効果で敵は二秒のスタン状態になる。


「カタカタ! カタ」

「ゴブ! ゴブ! ゴブ!」


 アークはブレードザッパーとスラストを、ディノスはアックスビートをしてから瓦割りと叩き割りを打ち込む。


「そろそろ反撃してくるぞ! 少し離れろ! そのあとアークは敵に張り付け! ディノスは一撃離脱を心掛けろ!」


 ボスファンゴは体勢を起こすとき、頭を激しく左右に振るう。立派な牙もそれにつられる。もしそのままいたら、三人は牙に吹き飛ばされていただろう。


「カタ! カタカタ!」

 アークはすぐに距離を詰め、ポロボーグで相手の意識を引き付ける。小盾で攻撃をいなし、剣でちょっかいをだす。すると、苛立ちからか隙が生まれる。ディノスはその隙に斧アーツを叩き込む。


「ブゴッ!?」


 敵の意識がディノスに向く。


「今度はこっちだ! エレファントハンマー!」

「カタ!」


 間髪入れずにアークが顔に二段突きを当てる。敵の注意を自分に向けさせる。だが、ボスファンゴのボルテージは上がる。そして怒りは爆発する。


「ブフォオ!!」


 その声に引き寄せられ、二体のファンゴが森の中から現れた。


「仲間を呼ぶのかッ! アークとディノスで一体ずつ始末しろ! ボスは俺が面倒をみる!」

「カタ」

「ゴブ」


 ボスとは違い通常のファンゴ。今まで散々余裕を持って倒してきた。今回も問題ない。ボイルはそう推測し、二体に任せた。戦力的にもそれは間違いではない。


「バブルカーテン! アークたちが来るまで、殴り合いをしようぜ!」

「ブゴォ!!」


 ボイルは通常攻撃を主体でダメージを与える。ボスはボスで、牙の薙ぎ払いや頭突きで攻撃を仕掛ける。金属鎧でもボスの攻撃は高ダメージ。


「アークたちまだ!?」

「カタカタ」

「ゴブ」


 ファンゴは通常個体ではなかった。アークたちの攻撃や魔法を数度食らっても倒れず反撃する。


「ブゴォ!!」

「クッ! ポーションが湯水のごとく消えるな……」


 ボスはその回復の隙に走りだし、ボイルから距離を取る。


「ヤバイ!」


 ボイルが推測するように、ボスファンゴはボイルを睨み付け前足で数度地面を搔き、突進の準備を済ます。


「カタカタ」

「ゴブゴブ」


 雑魚を倒してきた二体がボイルの所に集まる。そしてボスが突撃をしかける。


「さっきの要領でやりすごすぞ! バブルスプラッシュ!」


 少しは減速したが、前より速度は落ちていない。


「ゴブ!」

「カタ!」


 ファイヤースピアの効果も薄れている。


「ブゴォ!!」


 アイスフロストは踏み割られ、体制を崩すことすらできなかった。


「カタ」


 アークは咄嗟にボイルたちの前に出て、シェルガードを発動させる。


「後ろにいろ!! こういうときは俺にかっこつけさせろ」

「……カタ」

「それに、無案というわけでもない」


 そしてボスファンゴの突撃がボイルたちのすぐ側まで迫る。ボイルはアーツを叫ぶ。


「シェイクハンマー!!」


 効果は地面を振動させ敵の意識を外す。小型の敵は二秒ほど、重量級は一秒ほど止まる。だが、慣性の法則で急には止まれない。それでもボスファンゴは十分に減速した。ただ、ボイルもアーツを発動した体制だ。咄嗟に避けることはできない。そこにアークがボイルの前に飛び出る。


「カタ!」


 アークはパリィを併用したシールドバッシュを敵に決める。


「ブォッ!!」


 綺麗に決まったカウンターは敵の頭をかち上げ吹き飛ばす。ボスファンゴは音を立てて横転する。


「今だ! 決め切るぞ!!」

「カタ!!」

「ゴブ!!」


 三人はリキャストタイムを気にしながら、MPが尽きるまでアーツを叩き込む。


「エレファントハンマー!」


 そしてボイルのアーツがとどめとなった。巨体がポリゴン化していく。ボイルにはファンファーレと共に、ドロップアイテムの画面が表示された。


「ふぅ……やっと倒せたか」

「……カタ」

「ゴブゴブ!」


 疲労困憊なボイルは大きく深呼吸し、現実を受け入れる。アークも満身創痍だ。唯一、勝利に喜んでいるのはディノスだけ。


「ディノスは元気だな」

「ゴブ!」

「カタカタ」

「ゴブゴブ!」


 そしてアークも小さく勝利に喜ぶ。ボイルはドロップアイテムを見て勝利の余韻に浸る。


「巨体だからか数が多いな」


 毛皮と大量の肉、Eランク魔石一個。それとボスファンゴの牙二個が得られた。通常のファンゴの毛皮は切り分けられているが、この全身毛皮は顔もついている一枚の毛皮だ。ボイルは毛皮を取り出し、サイズや質感を楽しむ。


「本当に大きいな。俺が包まってもまだまだ余っているな。毛は思った通り、固くて痛いな」

「ゴブゴブ!」

「カタ」


 ディノスたちも混ざる。


「これでディノスの防具作れば、少しは安心か」

「ゴブ!?」

「本当だ。俺たちの防具はまだまだ使える」


 ボイルたちの金属鎧は、第二エリアの性能。通常モンスター相手なら、ノーダメージで倒すことも可能だ。バットやスライムはこれに当てはまる。なのに、ボスファンゴの攻撃は高ダメージを与えた。流石ボスだ。


「ゴブ!! ゴブ!!」

「よし。シャールに入って、エットタウンに戻るぞ」

「カタ」


 ボイルはディノスの喜びように負け、シャール観光を一旦置いてエットタウンに戻る。帰りはファンゴばかりではなくゴブリンなども出現した。ボイルはエリナにチャットを送る。内容は革鎧の新調だ。帰りはポータルでシャールまで。浮遊感と二秒ほどの暗転を味わい、徐々に光を取り戻す。辺りはもう夕方だ。


「アークたちいるか?」

「カタ」

「ゴブ」


 ボイルはこれが初めての転移だ。システム上、テイムモンスターも一緒に転移するが、体験するまでは不安なものだ。そう思うのは面倒見がいいボイルだからだ。

 ボイルは先ほどと同じ衛兵に声をかける。


「少しいいか?」

「探検者のかたですね。ポータルのご利用ですか? それでしたら、私たちに声をかけなくても大丈夫ですよ」

「ボスファンゴを討伐してきた。証はこの牙だ」

「こ、これは……本物の牙です……。何度か体験しましたが、探検者は速いですね」


 衛兵は改めてその速さに驚く。


「探検者ならそんなものだろう。馬をレンタルすればもっと速いだろうしな」

「そ、そうですか……。はい、確認しました。この牙はお返しします」


 牙を返した衛兵は一度深呼吸をしてからボイルたちを歓迎する。


「ようこそ。港町シャールへ!」

「おう!」

「以降はこのワッペンを衛兵にお見せ下さい。通行証のようなものです」

「わかった」

「私たち住人は探検者の来訪を歓迎します!」


 衛兵は剣礼し、道をボイルたちに譲る。


「ありがとうな」

「カタ」

「ゴブゴブ」


 三人は衛兵に見送られながら門を潜り、シャールの中へと足を踏み入れる。


「これは……活気がある街だな」


 木製の街並みに舗装されていない地面。それでも住民たちには活気がある。エットタウンの魚市場のような匂いがあちらこちらから漂う。門前だからなのか、商人のような恰好をしている人が多く目立つ。漁師のような人もそれなりにいる。港町らしく、至る所にはそれを連想させる道具や建物が伺える。


《メインクエスト・シャールに赴くを達成しました》


 唐突な通知がボイルに届く。ヘルプも現れピカピカと光る。そしてメインクエストは、フィーアタウンに行けと更新された。

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