第43話 イベントクエスト
森の中は平坦ではなく凸凹している。倒木も所々ある。ちょっとした斜面や崖で迂回も余儀なくされる。それでも山道よりかは厳しくない。三人の歩みは昨日よりも速い。そうこうしているうちに辺りは薄暗なくなる。
「よし、次のセーフティーエリアでテントを建てるぞ。流石に俺も眠くなってきた」
現実時間は丑三つ時。眠くなるもの仕方ない。十数分後、ボイルはエリア内のポータルを解放し、テントを建てる。
「俺は寝る。定かではないが、長時間寝ていると思う。テントの近くでなら好きにしていいぞ」
「カタ」
「ゴブ」
アークたちテイムモンスターは、テイム主がログアウト中、他プレイヤーと交流はできない。いくら話しかけても、テイムモンスターは無反応である。攻撃や嫌がらせ並のちょっかいもシステム的に排除される。テイムモンスターからすると、彼らは風景の一部扱いになる。
ただし、テイム主から許可をもらったプレイヤーは問題なく交流できる。逆に言えば許可されたこと以外はできない。ボイルはテント内に簡易な布団を敷き横になりログアウトする。インベントリー機能があるからこその布団だ。リアルなら嵩張るため寝袋が無難だ。
ログアウトすると軽くシャワーを浴び布団に入る。ボイルは寝つきが良い。すぐ睡眠に入った。翌日、起床時間は昨日とほぼ同じ。ゲームするまでの行動も同じ。
「おはよう」
「カタ」
「ゴブ! ゴブゴブ!」
アークは普段通りだが、ディノスはあからさまにテンションが上がっている。きっと、テント周りだけで退屈していたのだろう。速くエリア外に行こうとボイルをせっつく。
「わかったわかった。軽く食事するから少し待て」
「……ゴブゴブ」
ボイルは手早くホットケーキを食べ、キャンプ道具を片付ける。三人とも武器防具を装備しエリア外に。
「今日中にはシャールにたどり着くぞ」
「カタ!」
「ゴブ!」
ボイルたちは移動を開始してすぐにファンゴと出会いそれを倒す。次の敵もファンゴ。そして次もファンゴ。ファンゴだらけだ。
「遭遇率が高いな。ドロップ的にはうまいが……飽きるな」
今までは万遍なく、いろいろな種類の敵に遭遇していた。ファンゴのドロップアイテムは毛皮に肉。肉料理が大好きなディノスのことを考えると、ボイルにとってありがたい。ディノスの革鎧の大半は、この革のようだ。
それから数十分、ボイルはついにシャールを視界に収めた。シャールの周りはエットタウンのように木々が伐採され、農場が目に付く。川沿いに立地しているシャールは、町のような規模だが発展していない。木製のためか村のような印象を受ける。見える範囲にはモンスターは見られない。
「風景を楽しみながら、行くとするか」
「カタ」
「ゴブ! ゴブゴブ」
「風が気持ちいいな」
長閑な農場風景にボイルたちの気持ちは穏やかだ。磯の香りや農場の土の匂いは風に運ばれ、ボイルたちを楽しませる。地面から帰ってくる感触も、柔らかい物ではなく踏み固められた土のものだ。
木材を沢山使った城壁の門には、鎧姿の衛兵二人が職務を全うしていた。行き交う人たちの話を聞いている。ボイルのようなプレイヤーにも、ちゃんと対応している。荷車の品は他の衛兵が検問している。衛兵の装備はエットタウンのものと同じだ。
「シャールへようこそ。皆さんには滞在目的をお聞きしています。お伺いしても?」
「俺は探検者のボイルという。後ろのスケルトンはアーク。ゴブリンはディノスだ。目的は……始めて訪れる場所だ。強いて言うなら観光になる」
アークは剣礼をし、ディノスは元気よく手をあげる。
「探検者の人ですか。シャールに入るには、一つしてもらうことがあります」
「なんだ?」
衛兵の話をまとめると、探検者には強さを示してほしいとのこと。その証明には通常のファンゴより二回りは大きな体高に、鼻の左右には立派な牙がついている個体を倒せとのこと。討伐証明は牙。それを衛兵に提出すれば、晴れてシャールに入れる。サブイベントクエスト扱いである。
「私たちはボスファンゴといっています。場所はこの辺りです」
ミニマップには衛兵が示した場所に印が付いた。
「わかった。その前にそのポータルを解放してもいいか?」
「私たち住人にはわかりませんが、探検者に必要な行いでしたね。シャールに入るわけではないので問題ありません」
ボイルは外にあるポータルを解放する。
「ありがとう。では行ってくる」
「ご武運を!」
衛兵も剣礼をし、三人を見送る。
「ということだ。距離的には一、二時間の所だな」
「カタ」
「ゴブゴブ!」
アークは騎士らしい行動に喜び、少し余韻に浸っている。ディノスは強い敵と戦えることに喜んでいる。
「ボスを倒して次の街へ。ゲームらしい設定だな」
道中は今までと変わりない森の中だ。ただ敵はファンゴのみ。ボイルは飽きが来ないようにたまには武器だけで、魔法だけでと戦闘に縛りを入れた。テイムモンスターの攻撃でも一撃。鉄製武器でスキルも格上。そら余裕だ。
「この先か……」
誂え向きに作られたその場所は、セーフティーエリアのように区切られていた。線の色は青ではなく赤だ。倒木が目立つが、ほぼほぼ障害物がないだだっ広い場所。近くにはポータルもある。
「突進しやすい地形で……」
ボスのためだけに作られたフィールド。ボイルは覚悟を決める。
「よし、この先がボスファンゴの場所だ。準備はいいか?」
「カタ!」
「ゴブゴブ!」
三人は気合十分で線を越える。途端に敵が現れ攻撃されるようなことはなく、何もなく真ん中まで移動する。そこには真っ赤なキノコが一個生えていた。
「これを取れば出てくる系か……」
ボイルはキノコと毟り取る。
「ブゴォォォオ!!」
「やっぱりな」
大きく低い獣の鳴き声が辺り一帯に響き渡る。三人は構えを取り臨戦態勢を整える。キノコは自然と消えた。馬より重く大きな足音が速いリズムを刻みながら、近づいてくる。
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