第41話 ララミヤ
「うちはララミヤ。よろしくね!」
「俺はボイルだ。……っていきなりだな」
「変な人以外には送っているの。デザートくれる人に悪い人はいないわ。あ、いくら払えばいい?」
「一個一〇〇Sでいいぞ。もし、後から
「そのときはそのとき。自衛のためにも、バイバイ。あ、プリンもう一個いい?」
ララミヤは三〇〇Sをボイルに渡す。ボイルは変わりにプリンを手渡す。儲けるつもりのないボイルにとってはタダでもいい。ただ無料にすると、イケオジパーティーのように警戒心を与えてしまう。それは、相手に下心を考えさせてしまう。ただよりも怖い物はない。
「その辺りはちゃんとしているな」
「もう成人しているしね。いつまでも小中学生みたいな付き合い方はできないわよ」
「それもそうだな。成人しているなら酒は飲むか?」
「付き合いで飲むくらいかな。いくら飲んでも酔わないから」
人はそれを箱やザルという。
「皆が楽しそうにしていても分からない。自分で買うなんてもってのほか! 駅ナカでケーキ買って帰るほうがいいわ」
「……美味い酒を飲んだことはあるか?」
「ジュース感覚での美味しいなら、普通の居酒屋でも思うよ。でも日本酒も焼酎もワインもウイスキーも特別美味しいって思ったことはないよ」
「ならそのうち良酒を飲ましてやる。誤解するなよ。このゲーム内材料を使って酒造した酒だ」
ララミヤは一瞬真顔に戻り、次に嫌そうな顔をした。その理由を察したボイルは、言葉を付け足した。
「それなら安心してその機会を待っているよ。ホットケーキも美味しいなー」
「そう思ってくれるなら作った甲斐があったが、今は本題が聞きたい」
「そうだった。つい! 話っていうのは、鉄製武器の材料になる素材に心当たりはない? っていろんな人に聞いているの。ボイルは知らない?」
「鉄製なら鉄鉱石だろうな。あるなら山のほうだろ?」
ボイルは白々しく、誰でも思いつくようなことを言う。
「だよねー。他の人も同じなこと言っていたわ。はあ、やっぱりディアン山に行かないとダメかー」
「鉱石だしな。やっぱり山だろ。そして採掘スキルは必須だろうな」
「うーん。うちは生産スキル取ってないから、採取している人に直接鉄鉱石を売ってもらおうと思って探しているの!」
純粋な笑顔でいうララミヤには、他意は見受けられない。
「まさか手当たり次第に話を聞いているのか……」
「うん。今日もまた鉄製武器の販売があったけど、やっぱり円月輪はなくてね。剣や槍、盾とかのメジャーなやつだけでねー」
「だから素材を入手して制作してもらおうと?」
無邪気な笑顔と心意気に、ボイルはどうにかしてあげたい気持ちが沸いてきた。
「そう! 売り出してすぐエットタウンで聞きまわったけど誰も心当たりないし、前回はムカーン草原で聞いたけど誰も知らなかったの。だから今回は始まりの森で聞いているの」
ララミヤは締めのプリンを食べ始める。
「なら今回は当たりだな。といっても、もう鉄鉱石はない。制作者に作れるか聞いてみるだけでもいいか?」
「へっ!? ど、どういうこと!?」
「俺が鉄鉱石の提供者の一人だ」
「えっ!? ほ、本当に!? えっ!?」
ララミヤにしては珍しく驚いている。笑顔も真顔も驚きも人よりわかりやすい。いい意味でオーバーリアクションだ。有り体に言えば表情豊かで、その一つ一つが印象的。
「お目当ての人物が見つかってよかったな」
意地が悪そうな笑顔で問いかける。
「その、えっ!? あ、ありがとう?」
「どういたしまして。早速聞いてみる」
「よ、よろしくお願いします?」
「聞いている間に落ち着けよ」
ボイルはエリナにチャットして、返信を待ってから通話をかける。内容はまだ鉄鉱石が残っているか、残っていたら円月輪を制作してくれないかということを簡潔に伝えた。エリナは珍しい物を作るのが嬉しいのか、楽しそうに承諾した。料金は売値と依頼料で計九万S。売却相手のことも同時に伝える。
「依頼を引き受けてくれるそうだ。料金は九万S」
「あ、ありがとう! 問題なく払えるわ!」
「鉄製武器の作っている人はわかるな?」
「もちろん!」
「そのプレイヤーにララミヤのことを伝えた。向こうもプレイヤーIDを教えてもいいそうだ。ララミヤのも教えていいか?」
プレイヤーIDは離れたプレイヤーとコンタクトを取るのに必要な番号だ。チャットや通話、フレンド申請ができる。もっともフレンドになっていれば、わざわざ番号を打ち込んで検索する手間は省ける。
「もちろん!」
ララミヤにエリナのIDを教え、エリナにララミヤのIDを。ボイルはまさに仲介役。
「教え合ったぞ。これで滞りなく会えるな」
「ありがとう! すぐに街に戻るわ! このお礼は絶対返すから」
「おう、期待しないで待っているな」
「度肝を抜いてやるわ!」
ボイルは微笑みのみで返す。ララミヤはボイルに向けて顔をクシャっとさせてから、ポータルのほうへ走っていった。馬は置き去りだが、借り主が転移すれば自動でその街に戻る。実際、少ししてから転移エフェクトを伴って馬は消えた。
「急に消えると少し驚くな」
「カタ」
アークはなぜ起こったのか理解もできないし気にもしない。それはゲーム故。
「鎚もマイナーだしな。不人気な武器同士、少しは融通したくなるものだ」
「カタカタ」
ボイルは人付き合いの余韻が消えるまで、そんな話題をアークに話しかける。
「……ゴブ」
「カタ」
「おはよう。寝起きに何かいるか?」
テントから出てきたディノスはまだ寝起き。寝ぼけ眼だ。種族的な特徴なのか、睡眠時間は人間と比べると短い。ボイルは適当に肉料理を渡す。いつも通りの三種類。だが、ディノスが選んだのは一個だけ。寝起きはそこまで食べないようだ。
「ゴブゴブ」
「カタカタ」
「ほら飲み水だ。今日も昨日みたいに沢山動くぞ」
アークも便乗し骨煎餅を食べだす。ボイルも一緒にカレイの唐揚げを取り出しかぶりつく。ボリボリバリバリと骨をかみ砕く音が周りに響く。口の中は白身魚らしい淡白だが癖になる旨味が滲み出る。さらに骨からはそれ特有の旨味も溢れてくる。
「カタ!」
「どうした興味があるのか?」
「カタ!」
「珍しいな。骨以外に興味を出すなんてな。いい機会だ。ほら、食べてみろ」
骨だけしか食べなかったアークが骨付きとはいえ、それ以外に興味をもってくれてボイルは内心かなり嬉しい。カレイの唐揚げを両手に持ってアークは慎重に食べだす。頭から一口分がまず消える。
「……カタ! カタカタ!」
「そうか好きか」
そこから大きく消えていく。計三口で食べ終えた。
「まだいるか?」
「カタカタ」
アークは首を振りバッドの牙を取り出し、満足そうに食べ終える。
「やっぱりそっちのほうが好きか?」
「カタ」
「ゴブゴブ」
二体は好きなものを食べれて嬉しいようだ。ほどなくしてディノスが食べ終わる。ボイルたちはそれに合わせ食事を終える。
「よし、まだ日は昇っていない。北東に向けて移動するぞ」
「カタ」
「ゴブ!」
三人はテントなどのキャンプ道具を片付け、武器や防具を装備する。そしてセーフティーエリアを出て、北にあるシャールを目指し移動を開始する。少し東向きなのは、あわよくば海岸で釣りをしたいからだ。
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